液体水素カローラで臨んだ2度目の富士24時間レース。トラブルで長時間のピットインもあったが、クルマの進化には目を見張るものがあった。そのポイントを3つの観点でまとめた。
進化②水素タンクの異形化
今回、ポンプの無交換とともに開発陣が目標としていたのは、1給水素あたりの航続距離の拡大だった。
1年前の富士24時間レースで12周(約54km)、昨季の最終戦の富士で20周(約90km)と距離を伸ばし、今回は1.5倍となる30周(135km)をターゲットに。
結果は31周を記録。目指していた水準を達成することができた。
高橋智也プレジデントは30周に乗せた意義をこう語る。
「今ガソリンで走っているクルマと遜色ないところまできています。水素を使ってもこういうモータースポーツフィールドでガソリンと同じような楽しみ方ができるんだという可能性をお示しできたのかなと思っています」
この進化を可能にしたのが、“異形化”によるタンクの容積の拡大だ。
車内のスペースが効率よく活用できるようになり、昨年比で1.5倍の液体水素を積むことができた。
ところで、気体水素のタンクは70MPaという高い圧力に耐えるため、タンクの壁面に平等に力がかかる円筒形にするのが常識だ。
しかし、液体水素タンクにかかる圧力は1MPa以下。気体水素と比べると、かなり低圧で運用できる。理屈上は、必ずしも円筒形である必要はない。
それでも、昨年、ファーストステップとして円筒形としたのは、液体水素を車載する法律がまだないからだ。
そもそも、液体水素を燃料とする車両でレースに出ること自体が世界で初めての試み。開発側だけでなく、評価側にとっても未知の取り組みだ。
今年の楕円タンクは、クルマの使い方に合った安全の考え方と、その証明方法について提案を行い、国や関係機関と相談した上で認可を取得した。
「正円が楕円になっただけ」のようにも見えるが、「法制化においても、研究開発においても、非常に大きな一歩だ」と伊東主査は言う。
今後、液体水素タンクでも実績が積まれ、タンクがやや膨れたりしても、安全であると証明されるようになれば、より必要十分なタンクの強度が見極められる。そうすると、さらに体積効率の高い異形化や軽量化の可能性が見えてくる。
「こうやってクルマを走らせて、いろんな方に『安全だね』と認めていただけるよう実績を積み重ねていきたい」(伊東主査)
「クルマ」の進化だけでなく、「法律」や「インフラ」の整備も欠かせない。水素社会の実現へ、仲間づくり、理解活動も進めていく。