カーボンニュートラルの実現に向けて挑むスーパー耐久シリーズ。参戦2季目の水素エンジン技術の"進化"と仲間づくりの"深化"を総括する。
市販までの水素エンジンの現在地
6月に富士スピードウェイで行われた24時間レースで、富士登山に例えて市販化まで“4合目”と説明された水素エンジン。あれから約半年で、開発はどこまで進んだのか。
GR車両開発部の高橋智也部長はこう話す。
高橋部長
24時間レースのときは、富士山の4合目とお話しさせていただきましたが、その後も開発を続けて、今は、4合目から5合目にかかっているのは間違いありません。
GRパワトレ開発部の小川輝副部長はこう続ける。
小川副部長
4合目の排気は、レースでの開発と並行して量産化向けに始動しました。量産開発専任の新しいチームを立ち上げて開発を加速させます。
5合目の機能・信頼性対策は、S耐のレースで使われる高回転・高負荷な環境で引き起こされることが分かった課題です。この課題も、レースと並行し、新チームで量産開発に取り組んでいます。
そして、6合目はタンクの小型化です。これは、液体水素で、航続距離を伸ばす取り組みです。
液体水素は、さらに困難な道のりになると思いますので、まずは、気体の水素を使ったクルマを世の中に出したいと考えています。
山登りでは、4合目、5合目、6合目と登り始めていますが、1合目で解決すべき異常燃焼など、次のステップで安全にエンジンを回すことは可能となっていますが、根本のメカニズムを完全に手の内化するところには至っていません。
「つかう」仲間の皆さんが安心して山を登れるように、我々が道を整備していきたいと考えています。
2023年シーズンは道なき道を進むとともに、今のイラストで丸太の階段になっている1~4合目を舗装してクルマが通れるようにしたいと思っています。
この富士登山に例えた市販化への道のりは、実際の富士登山同様に、頂上に近づくほど険しくなるという。
水素社会の加速に向けて増え続ける仲間たち
2022年は、S耐を通じて、水素を「つくる」「はこぶ」「つかう」の仲間がさらに増えた。
まず、「つくる」仲間たち。昨年までの岩谷産業、大陽日酸、福島県浪江町(FH2R)、トヨタ自動車九州、大林組、岩谷産業・川崎重工業・電源開発が参画するHySTRA、福岡市に加えて、今シーズンは、山梨県、やまなしハイドロジェンカンパニー、北九州市が新たに加わった。
そして、「はこぶ」では、トヨタ輸送のバイオ燃料トラックや、Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)のFC小型トラックが燃料輸送のカーボンニュートラル化に挑戦。
特に後者のFC小型トラックは輸送効率を5.5倍にアップさせ、多くの水素を一度に運べるまでになっている。レースで「はこぶ」をさらに鍛え、水素社会の実現を加速させる。
「つかう」仲間は、二輪の4社、ヤマハ、カワサキ、スズキ、ホンダにデンソーとトヨタが加わり、二輪車への搭載を視野に入れた水素エンジンの共同研究を行っている。
カワサキは9月、二輪用の水素エンジンを搭載したバギーをお披露目した。
カーボンニュートラルに向けた取り組みは、水素を「つくる」「はこぶ」「つかう」を越えてさらに広がっている。
水素カローラのパーツ製造で発生するCO2を削減する取り組みも始まっており、神戸製鋼と東京製鐵が新たに仲間に加わった。
第2戦の富士24時間レースからは、神戸製鋼が開発・商品化した低CO2高炉鋼材をサスペンションメンバーに使用。
さらに、岡山国際サーキット(岡山県美作市)で行われた第6戦では、東京製鐵が鉄スクラップからつくったロアアームを採用した。