トヨタ、ダイハツが会見を開き、ダイハツの新体制を発表。「企業をつくり直す覚悟」で刷新した経営陣はどのように同社を再生するのか。会見でのコメントを通じて迫っていく。
再生へ取り組むこと
――再発防止を進め、ペースを落とすことが、ダイハツの競争力低下につながらないか? 再建と競争力のバランスをどう考えているか?
トヨタ 佐藤社長
競争力は企業にとって非常に重要な要素です。同時に、企業経営はマラソンです。長期的にとらえています。
スピードを上げすぎたがゆえに脚がしびれているときに、ペースを守るのではなく、落としてでも、正しい仕事ができる体制を立て直す必要があると考えています。なので、短期的にはペースを落とします。
ただ、その間に何をするかが大切で、自分たちの強みをもう1回見直す。
ダイハツの強みは2つあると思っています。一つはモノづくりの最小単位へのこだわりです。生産や購買システムなど、本当に原単位にこだわった取り組みをしています。
その強みをもう1回、従業員全員で見直すことが必要で、未来に向けた体制を立て直す取り組みをやっていくべきだと思います。
もう一つはお客様に寄り添っていること。生活に寄り添って、本当に必要とされているものは何か、徹底的に突き詰めています。
例えば、全国で3万を超える業販店の方々は、お客様の声を代弁してくださっています。
日本全国、津々浦々までお声をいただけるダイハツのネットワークがしっかりと商品づくりに機能していくよう立て直していく必要があると思います。
開発期間だけをとらえると一旦スローダウンするように見えますが、その余力は正しい仕事、自分たちの強みをもう1回取り戻すことに使っていきます。
ダイハツ 井上次期社長
私は長い期間、海外の販売の第一線に身を置きました。商品が次々と出てくることが必ずしも販売台数につながるわけではなく、必要なときに、必要なタイミングで商品が切り替わることが大事だと実感しています。
また、お客様が買いに来てくれる乗用車と、安いコストで使っていただける商用車とでは商品の切り替えサイクルが違います。
こうしたサイクルのベストミックスで競争力を失わないようにしながら、販売、サービスを組み合わせて、投資回収する。それをしっかり回していくことが大事だと考えています。
――ダイハツがスリムになれば、トヨタの小型車の競争力低下につながる危惧もある。どのように補っていくのか? また、グループ各社で不正が相次ぐ中、トヨタ自身が変わらなければならない部分は?
トヨタ 佐藤社長
アジアにおける小型車の競争力について、ダイハツがトヨタにできないクルマづくりをやってきました。この点に関して、私は「大は小を兼ねない」と思っています。
専門性を持って、ダイハツが続けてきたからこそできるクルマづくりがあります。そこへのリスペクトが失われてはいけないと思っています。
業務形態がどうであろうと、ダイハツの強みは小型車の開発や生産にあり、これからも伸ばしていく。
企画、開発、生産、販売、営業など、各機能それぞれに強みと弱みがあります。
井上次期社長と相談しながら、アジアにおけるトヨタグループとしての戦い方を一個一個、丁寧に議論していきたいと思います。
それから、グループ不正を受けてトヨタが変わるべきことは、先日、豊田会長がビジョン発表のときに話したことに尽きます。
「現場に主権を戻して、現場経営を徹底する」
ものが言いやすい関係をつくっていく。その旗となるビジョンが示されているので、そのもとに、我々執行に責任を持つ人間が連携しながら、具体化していく。
そのために一つひとつ行動しながら、考えて、前に進んでいくことが大切だと思います。
不正の問題は、単純ではなく、いろいろな問題が複雑に絡み合っています。
明快に「これさえやれば解決する」ということではないので、各社のトップとも連携しながら、丁寧に話し合って、改善の方向を見い出す。そういう想いで行動を続けていきます。
すべての質疑を終えた後、井上次期社長がダイハツを率いていく決意を語った。
ダイハツ 井上次期社長
自動車の生産事業を、部品から完成車までやっている国は、世界でもそれほど多くないと思っています。
自動車産業は大変裾野が広く、総合産業です。国民や政府の皆さまから共感を得ながらやっていかないと、持続的な成長はできないんだと経験してきました。
トヨタとダイハツは、強み・弱みが補完関係にあると感じています。
グループの総合力を発揮したモノづくりをして、雇用を産んで、日本であれ、アジアであれ、新興国であれ、しっかりと共感を得ながら持続的に成長していく。これしか方法はないと実感しています。
トヨタ自動車と会話をしながら、佐藤さんとも会話しながら、前に進んでまいりたいと、決意を固くしています。
昨年、トヨタの中南米本部長として、トヨタイムズの取材に答えたダイハツの井上次期社長は同地域の事業について次のように語っていた。
井上中南米本部長(当時)
トヨタには「ホーム&アウェイ」という言葉があります。中南米であったり、アフリカであったり、なかなかトヨタの強さが生かせず、文化も違う、遠い地域をアウェイといいます。
言葉の取りようによっては悪い言葉ですが、当時の豊田社長から言われたのは「アウェイはアウェイなりの戦い方がある」「1番になれなくても、2番手、3番手なり戦い方がある」ということでした。
トヨタの南米における位置づけは、まだアウェイゲームをしている状態だと思います。
これをホームにしていくためには、実力に加えて、中南米の政府や国民の皆さんに「一緒にやっていこう」と思ってもらわないといけないと思います。
もっと、現地化して、地域の皆さんに愛されないといけませんね。
会見の中で、度々出てきた「対話」と「共感」というキーワード。それは、井上次期社長が中南米を任されてきたときから変わらず大切にしてきた行動指針だった。