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2023.10.17

堺市消防局とトヨタの新たな挑戦 火災や事故でドラレコ活用

2023.10.17

トヨタが堺市と実証実験を開始する。119通報だけでは把握が難しい災害にドライブレコーダーを活用し、消火、救急、救助にあたる。この取り組みが見据える未来とは?

通報1日300件 堺市の現状

世界遺産の仁徳天皇陵古墳で知られる堺市は、大阪市の南に隣接する政令指定都市。82万人が暮らしている。

沿岸部には、機械、金属、重化学の工業地帯、中南部には商業地帯が広がる。南部中央には大規模な住宅団地として知られる「泉北ニュータウン」がある。高速道路網も発達しており、交通流も多い。

そんな環境下で、さまざまな種類の災害や事故に備えているのが、堺市消防局である。

同局は、隣接する高石市、大阪狭山市から消防事務の委託を受けており、管内人口は 92万人規模。119の件数は、2022年に10万件を突破している。

平均で1日に300件弱の通報があり、多い日では、250件を超える出動があった。これは全国の中でも非常に高い水準にある。

「消火、救急、救助。これらは1本の電話から始まります。オペレーターに大切なのは、電話の向こうの空気を感じ取って、いかに思いを馳せるか。耳だけを頼りに、声のトーン、響き、物音一つに神経を研ぎ澄ませ、状況をつかみ、冷静に判断します。言葉で人を落ち着かせ、助ける仕事です」

こう語るのは警防部通信指令課の塚本和司課長。現場付近のドラレコ映像があれば、①現場状況の把握、②出動車両の選定、③活動の指示・支援 というオペレーターの仕事すべての質も、効率も上がるという。

オペレーターを務める辻誠喜消防士長はこう説明する。

「現場が見えない難しさはずっと感じてきました。事故の現場に出動した隊員に実際の状況を聞くと、通報と違うことがよくあり、課題意識を持っていました。通報段階で視覚的に情報が得られるのは、私たちにとって、すごく大きなアドバンテージです」

オペレーターは、事故付近の道路状況や交通量を踏まえて、安全確保のための部隊を追加出動させる。渋滞を考慮し、現場への最適なアプローチを指示する。高所での救助が必要だとわかれば、はしご車を構える場所を検討して伝える。

出動する消防隊員(提供:堺市消防局)

その判断に、映像がいかに役立つかは言うまでもない。

最近では、スマートフォンを使って、通報者に映像を送ってもらうサービスも始まっている。しかし、クルマから得られる映像ならではの良さもあると杉野晋矢消防司令は言う。

「通報者に映像を送ってもらう場合、その方に操作をお願いすることになります。僕らにとって、日に何10本もの通報を受けるのは、当たり前のことですが、通報する方にとってみれば、人生に1回あるかどうかです。どうしても焦ってしまいます」

「また、通報者が危険な場所にいる場合もあります。しかし、ドラレコ映像は、走っているクルマが自然に取得した情報です。情報がほしいときに、探しにいけるのが一番の強みだと思います」

使命増すタクシー・トラック

消防向けドラレコ映像活用システムの効果を高めるカギは、映像を取得できる車両の多さにある。数が増えれば、火災や事故現場を、該当車両が通行する確率が上がる。

今回の実証実験では、堺市内の会社を中心とする8社が、専用のドラレコを自社の商用車両に搭載する形で協力している。

タクシー事業を営むユタカ中央交通(同市西区)では、55台のタクシーに、ドラレコを設置している。藥師寺大思取締役は、タクシーだから果たせる役割があると感じ、協力を決めたという。

「私は、タクシーは公共交通機関だという使命感を持っています。台風などの天災で電車やバスが止まったとき、ライフラインの一つとして、ドアtoドアのサービスが提供できます。地域の方々と密接につながる職業なので、市の取り組みの一環として、協力をさせていただけるのは、非常にありがたいです」

堺市内に多くの集配先があるトラック物流事業者の泉海商運(本社:大阪府和泉市)は、20台のトラックにドラレコを載せる。福島将夫専務取締役は、地域への貢献とともに、物流現場への副次的な効果にも期待を寄せる。

「我々の業界は、常に事故と隣り合わせです。お話を聞いたとき、他人事ではないと思いました。事故によって、いろんな被害、損失が出ます。少しでもそういったものが軽減できて、安全運航につながれば非常にいい。できる限りご協力させていただきたい」

タクシーは災害時、最後まで機能する移動手段であるとともに、住宅地をカバーする。トラックは事業体のあるまちにとどまらず、都市と都市を結ぶ幹線輸送を担う。

普及率が増してくれば、毛細血管から大動脈まで、そして、地域から全国へ、その効果は波及していくだろう。

暮らしを支えるタクシーやトラック。人やモノの移動を担ってきたモビリティや会社が、「誰かの命を守る」という新しい役割も担い始め、より社会インフラとしての性格を強めている。

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