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2023.10.17

堺市消防局とトヨタの新たな挑戦 火災や事故でドラレコ活用

2023.10.17

トヨタが堺市と実証実験を開始する。119通報だけでは把握が難しい災害にドライブレコーダーを活用し、消火、救急、救助にあたる。この取り組みが見据える未来とは?

10月17日、トヨタ自動車は大阪府堺市とともに、火災や交通事故などの緊急事案において、市内を走る車両のドライブレコーダー(ドラレコ)映像を活用する実証実験を25日に始めると発表した。

バス、タクシー、トラックなど約400台に専用のドラレコを搭載するとともに、同市消防局の指令センターにトヨタが開発した「消防向けドラレコ映像活用システム」を設置。

オペレーターが119通報だけで現場状況の把握が難しい場合、付近を走る車両のドラレコ映像を活用し、迅速かつ適切な消火、救急、救助活動に役立てるというものだ。

期間は20248月まで。全国初となるプロジェクトに、堺市の永藤英機市長は期待を示す。

「消防や救急活動にドライブレコーダーの映像を活用する新たな取り組みに次世代の消防行政を支えるツールとしての可能性を感じ、共同実証に挑戦します。私たちの都市には『ものの始まりなんでも堺』という言葉があります。堺市がまず一歩を踏み出し、トヨタとの新たな挑戦によって市民の皆様のさらなる安全・安心につながり、得られた成果が全国に広まることで日本の防災力と消防力の向上にも貢献できれば嬉しく思います」

いつか、自分のクルマでとらえた映像がまちの誰かを助け、誰かのクルマの映像が、自分の大切な人の命を救う日が来るかもしれない――。

そんな未来を思い描いて始まった取り組みをトヨタイムズは取材した。

愕然とした119の実態

「消防向けドラレコ映像活用システム」は、トヨタが社内で公募する新規事業創造プログラムから生まれたアイデアだ。

プロジェクトリーダーの小池優仁主任(新事業企画部)はきっかけをこう語る。

5年ほど前のことです。消防士になった幼馴染と話す機会がありました。そこで、消防現場の実態を聞き、愕然としました」

火事が起きると、多くの人が自力で消そうとして、119通報が遅れてしまう。気が動転している通報者からは、なかなか正しい情報が得られない。結果、消防隊は現場に着いてから、車両の追加出動や装備の見直しをすることもある――。

119の重みは誰もが知っている。しかし、その先で消防士が向き合う深刻な悩みは、想像を超えていた。

学生時代、アルバイトとしてテレビ局で働き、火災や交通事故の取材経験があった小池主任には、とても他人事とは思えなかった。

30以上の火事の現場に行きました。離れていても感じる熱さ。家族の名前を呼び、泣き叫ぶ女性や子どもの姿。体にまとわりついて消えない臭い。今でも、目で、耳で、鼻で、肌で覚えています」

「火災や交通事故はたった一瞬ですべてを奪ってしまう。そんな想いが心の奥にありました。当時、社内の新規事業に事務局として携わっていましたが、『この現状を何とかしたい。自分にもトヨタでできることがあるんじゃないか』と思うようになりました」

ドラレコを「消防の目」に

想いがどんどん強くなると、いてもたってもいられなくなった。小池主任はわずかなつてをたどって、消防士にコンタクトを取り始めた。話を聞いては、知り合いを紹介してもらい、延べ50人以上の消防関係者に話を聞いた。

その中で、街中を走るクルマのドラレコを「消防の目」に使えないかという発想が生まれた。

仮説を立てて、社内外の詳しい人に聞いてみる。そういう活動を続けていると、アイデアが深まっていっただけでなく、理解者も徐々に広がり始めた。

「社会のため、人の幸せのため、何か自分にできないか」「災害大国日本だからこそ意義がある。協力させてほしい」。そう言ってくれる仲間が一人、また一人。

「トヨタでは、前例のないチャレンジだったので、何もかもが手探りでした。何度も壁にぶつかり、何度も『もうだめだ』と思いました。でも、そんなときに、いつも手を差し伸べてくれたのが、社内の仲間たちでした。組織を越えて、役割を超えて、プロジェクトに情熱を注いでくれました」(小池主任)

一人で始めた活動が、小さなチームのプロジェクトになり、5カ月ほどが経った。このころ、縁があってつながり、高い関心を示してくれたのが堺市消防局だった。

まだ、歩き出したばかりで、まったく実績もなかった。それでも、「堺市だけではなく、全国の消防の未来にとって、なくてはならないものだ」と検討を進め、202212月には、システムの試作品を消防指令センターに入れて最初の実証がスタート。

現場のオペレーターの生の声を聞き、使い勝手を改善していくチャンスを得た。

「とはいっても、当初は、現場からはさまざまな戸惑いの声がありました。オペレーターの皆さんの本音を聞かせてほしいと、毎週のように堺市にお邪魔しては、システムの改良を続けました。そんな中で、使い勝手が向上し、実績が1つ2つと出てきて、徐々に受け入れていただけるようになった気がします。今では本当にさまざまな提案をもらえるようになりました」(小池主任)

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