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2023.10.03

トヨタがウーブンを完全子会社に 豊田章男が株を手放した理由とは?

2023.10.03

豊田章男が私財を投じたウーブン・バイ・トヨタをトヨタが完全子会社にすると発表した。その狙いは? なぜ、豊田は株を手放したのか?

なぜ豊田章男は株を手放すのか?

2つ目の疑問、WbyTの株主だった豊田章男が株を手放すのはなぜか?

それは、従来の自主開発体制からトヨタから開発を委託される体制へと取引が変更されるのに伴い、委託元(トヨタ)の代表取締役でありながら、受託会社(WbyT)の株主である状況が「利益相反 * 」を招く懸念があったからだという。
*ある行為が、片方の利益になると同時に、もう一方への不利益になること。今回のケースでは、“豊田章男が会長を務めるトヨタ自動車”がWbyTに発注することで、“株主としての豊田章男”の利益が変動することになる

トヨタから、豊田に依頼する形で株を買い取っており、その金額は51億円(当初の出資額は50億円)。第三者機関で株式価値を評価し、算出して額を決めたという。

豊田も投資を続けるつもりでいたが、今回の取引の変更で、開発の成果が日の目を見る前に株を手放すことになった格好だ。

今回の決定にあたって豊田は、「『自分の子ども』のように思っているWbyTへの気持ちは変わらない」と語っているという。

なぜ個人で株を持っていたのか?

そもそも、なぜ、豊田は私財を投じて、株を持っていたのか。

前身のTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・ディベロップメント)がウーブン・プラネット・グループへと再編されることが決まった20207月、豊田(当時社長)は同社の従業員の質問にこう答えている。

豊田

(私が私財を投じた)理由は「新しい未来には答えがないから」 です。

会社には組織があって、それぞれが論理的に「これだけ投資したら、これだけリターンがある」と議論しています。ですが「答えのない世界」では、そんな論理的なメカニズムだけでは進んでいけません。

私自身、11年間、トヨタの社長をやってきましたが、ずっと大組織との闘いでした。

大組織は、過去の成功体験をいかに論理的に組み付けるかを考えます。ところが私個人は「こんな世界があったら、より多くの人々の笑顔がもらえるんじゃないか」と考え、動きます。

トヨタは自動織機から自動車へのモデルチェンジを経験しました。今もモデルチェンジが必要なときです。

そんなときに、“会社の社長”であるよりも「こんな世界があったらおもしろい」「笑顔になれる」という“私個人”の意志を入れられるようにしたいと思い、“個人の出資”を選びました。

(創業者の豊田)喜一郎は(自動織機を発明した父の豊田)佐吉から継承したものをモデルチェンジしてトヨタ自動車をつくりました。

喜一郎と創業メンバーの名前を掲載したボード。2018年8月、喜一郎の米国自動車殿堂入りを報告する式典で掲げられた

トヨタ自動車を継承した3代目として、今、トヨタという会社にバリューがあるからといって、それに頼っていていいのだろうかと思いました。

自分のファミリーの資産を未来に向けて投資しなおす。そして、資産をモデルチェンジしていくことで、自分自身のコミットメントを示していこうと思いました。

(中略)

日本には、以前、資本家という存在がありました。昔の資本家は想いをもって自身のお金を投じ、使命を持った新しい企業を興していました。

しかし、多くの企業において、今は、創業時の資本家の存在感はなくなってきています。

結果、“資本家が創業に込めた想い”は薄れ、企業としての“人格”や“志”のようなものが、どんどん見えなくなってきているように思います。

“答えのない世界”にチャレンジするためには、そうした個人の意志が必要なんじゃないかと思っています。

未来を変えようと大きな賭けに出て、幾多の困難の末に、日本に自動車産業を興した喜一郎。その起業家精神に心を動かされ、豊田章男個人として、多額の私財を投じたというわけである。

同様に、豊田が自己資金でやっている事業には、ROOKIE Racingがある。ここにも、「自動車産業の発展に不可欠なモータースポーツを、このまま衰退させず、もっと持続的なものにしていきたい」という豊田章男個人の未来への強い志がある。

豊田章男が資本家として、未来への強い意志を持って興したWbyTの事業。株主としてのかかわり方は変わっても、トヨタのモデルチェンジを賭けた事業であることは変わらない。

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