「トヨタ系のドライバーは F1 には乗れない...」ファンでさえそう思っていた。しかしそれを打ち破るような発表があった。そこにある豊田章男の想いとは?
ドライバー同士だからこそ心を痛めていたこと
豊田章男は個人的な発信をしているインスタグラムアカウント「akiotoyoda_official」を持っている。そこでも、この件に関する想いを載せていた。
記者への回答で「わだかまりみたいなものがあった」「(そのことに)心を痛めていた」と話していたが、インスタには、より鮮明にその想いが綴られている。
豊田章男インスタグラムより
14年前の決断に後悔はありません。ただ、申し訳ない気持ちはあります。当時の会見でも私はこう答えていました。
「小林可夢偉選手が最後に2戦出場できたことを非常によかったと思っています。2戦ではあるがF1を実際に走り、日本人として入賞し立派な戦いを示しました。その後、継続してチャンスを与えてあげられないことは大変申し訳ない。中嶋一貴選手も含めて、まだ若いので、今年までの走りが評価されて、彼らにチャンスがくることを祈りたいし、いろんな形で応援していきたいと思っている。」
ドライバーならば必ず“自分をもっと成長させてくれるクルマ”に乗りたいという気持ちを持っています。その気持ちに応えたいと、私は、一貴、可夢偉をはじめ多くのドライバーたちを応援し続けてきました。
ドライバーたちは逆に「成長した自分を“もっといいクルマづくり”に役立てたい」と私に言ってくれます。ドライバーたちの成長と、私が目指す“もっといいクルマづくり”は、今や両輪で進んでいくものになりました。
今回、一貴と可夢偉の後輩でもある平川亮に、さらなる成長のチャンスが巡ってきたこと、そして、その応援ができることを本当にうれしく思います。このチャンスをくださったマクラーレンの皆さまに感謝いたします。
平川亮がさらなる成長を遂げ、マクラーレンファン、トヨタファン、モータースポーツファンを、もっと笑顔にしてくれることを期待しています。平川、期待してるよ!
普段は口数少ない君が、このあいだ私に「モリゾウさんの目指す“もっといいクルマづくり”に役立ちたい!」と、具体的なアイデアを示してくれたことも感謝しています。そのアイデアも、いつか実現しよう!
自身もドライバーだからこそ「自分をもっと成長させてくれるクルマ」に乗りたいという気持ちを持っており、その気持ちが分っていながらも、経営者として中嶋一貴と小林可夢偉の夢を閉ざすような決断をしないといけなかった。そして、その「申し訳ない気持ち」を、ずっと持ち続けていたということである。
この気持ちを14年間も持ち続けながら“ドライバー仲間”として近くで接し続けてきたということは、想像するだけで苦しい気持ちになってくる。
今回、一貴・可夢偉のチームの一員である平川亮が、その“閉ざしてしまった道”を切り拓いてくれた。そして、その道を“モリゾウとして応援”できることで、14年間も苦しんできた“申し訳ない気持ち”が、少しでも楽になっていてほしい…と、当事者でなくても願ってしまう。
モリゾウから平川選手への期待
“再び開かれた道”に対して想いを聞かれた平川選手は、このように答えていた。
平川選手
本当に僕としてはうれしいですけれど、後輩にもたくさん優秀なドライバーがいますし、その見本になれるような、走りだったり、言動だったり、背中を見られる立場になってくるので、しっかり意識しつつ、いままで通りやれればいいかなと思っています。
本当に、この機会をつくっていただいたモリゾウさんに感謝しかないです。
この言葉を受け、横にいたモリゾウも話をつなげた。そこには平川選手に対する温かな期待が込められているとともに、さらにその先にいる一貴、可夢偉、平川の後輩たちに対する応援のメッセージにもなっている。
モリゾウ
彼も背中を見せると言っていたので、これから多分、トヨタドライバーも「こういう道があるんだ」と思って、より切磋琢磨していくし、平川自身も成長していく…。モリゾウとしては、そういうところを応援していきたいなと思います。
(質問者:WECに参戦している選手や、WRCで活躍している選手、さらにF1にも活動を広げている感じがあるが、ドライバーの活躍のための何か特別な戦略があるのでしょうか?)
やはりモータースポーツ全体を盛り上げたい…、世界に通ずる道を拓いてあげたい…という想いはあると思います。どのカテゴリーがどうだということではなく、こればかりは、今回、お声がけいただいたチャンスですので、チャンスをつかむ。
そして、このチャンスをどう育てていくか? どう次のチャンスにつなげていくか? それは平川選手にかかっていると思いますので、是非とも温かく見守っていただきたいと思います。
マクラーレンの2台は鈴鹿で2位と3位に入っている。平川選手にとってレギュラードライバーになることは容易ではないかもしれない。
しかし、会見でも「シミュレーターではレギュラードライバーと遜色ないタイムを出していたと聞いたが?」との問いに「正直、最初はけっこう遅くて、2〜3秒遅れでしたが、しっかりとレクチャー受けて、タイヤの使い方などクルマのことを学んでからは、タイムが上がって、ほぼ同じタイムを出せたので、自分でも正直びっくりしています」と答えていた。
F1のレースで平川選手の走りが見られることを願って、トヨタイムズも温かく見守っていきたい。
残された3つの疑問点
3つ残された謎がある。1つ目は「トヨタはF1に再参戦するのか?」。2つ目は「マクラーレンと商品開発での連携などがあるのか?」。これらについては何度か記者も質問していたが、モリゾウは、再参戦の意思がないことを決まってこう答えていた。
モリゾウ
それは佐藤社長に聞いていただければと思います。私自身はもう(会社の)執行(の立場)を降りていますから…。
逆に、モリゾウは、今、よりモータースポーツを起点にしたもっといいクルマづくりという軸で仕事ができていますから、(その観点で)トヨタの中で大きな声で物を言える立場であることは間違いないと思います。
3つ目の謎はインスタのコメントの最後に書いてある「普段は口数少ない君(平川選手)が、このあいだ私に『モリゾウさんの目指す“もっといいクルマづくり”に役立ちたい!』と、具体的なアイデアを示してくれたことも感謝しています。そのアイデアも、いつか実現しよう!」の部分である。
平川選手がモリゾウに提案したアイデアとはなんだったのか? ここについては分からないままである。