最近のトヨタ
2022.09.12

トヨタがつくる住宅用蓄電池!? 可能性を秘めた新事業を取材

2022.09.12

記録的な暑さ、相次ぐ自然災害――。電力問題が注目を集める中、トヨタが住宅用蓄電池を発売。新しい領域に足を踏み入れたワケを取材した。

手づくりのプロジェクト

「おうち給電システム」の開発が始まったのは、20206月。

「トヨタが培ってきた安心・安全な電池技術を、もっと世の中の役に立てよう」という社内の方針を受け、車載電池の設計を担うEHV電池設計部でワーキングが発足。同部の新規事業として、産声を上げた。

プロジェクトメンバーに任命されたのは、PHEVの電池制御を担当していた久保和樹主任をはじめ、20~30代の若手部員20名。

電池の設計を手がけてきたとはいえ、全員、住宅用についての知見はゼロだった。

プロジェクトリーダーを務める久保主任。2013年入社。「車載電池の開発がしたくて入社し、その経験しかなかったので、任命されたときには驚き、不安だった。でも、トヨタで誰もやっていなかったことにチャレンジできるうれしさがあった」と語る

クルマの開発期間は一般的に45年。しかし、住宅用蓄電池の場合は、各社、さらに短い期間で新商品を投入している。

最後発のトヨタが悠長に取り組んでいられるはずもなく、開発陣に与えられた期間は2年。スピード開発が要求された。

さらに、トヨタの名前で世に出す以上、安心・安全な品質は絶対条件。でも、競合との価格差もできる限り抑えなければならない。

「未知の領域で、まったく手探りだったので、ただただ、不安だった。でも、メンバーの中には、新しいことをやり遂げようという気概もあった」(久保主任)

品質、価格、スピード。そのすべてを実現するため、既に実績と信頼性のある自動車部品を活用した。電池はPHEVのものを半分にして、極力、追加の手間をかけないよう設計。

また、電力の制御を行うECUElectronic Control Unit)やリレー(継電器)などの重要部品も、自動車用のものの制御を最適化して使うなど、部品の半分は横展開した。

電力制御を行うECU。クルマで使っているものを横展開した

その他、開発費を抑えるため、自分たちでできることは自ら取り組んだ。

住宅での評価テストは、グループ会社のトヨタホームの協力で、住宅展示場を貸してもらい、開発陣が住み込んで、データを収集した。

蓄電量の確認や運転モードの設定などを行うアプリの開発でも、モニター調査を外注するのではなく、開発陣が社内の仲間に協力を依頼。5日間で、220人の声を拾い集めた。
開発陣が最もこだわったものの一つが、アプリのデザイン。ユーザーの声を聞き、他社製品も徹底的にベンチマークしながら、見やすく、直感的な使用感が得られるよう、細部にもこだわった

さらに、広報活動の予算もなかったため、ウェブサイトの動画やパンフレットにはモデルを使わず、久保主任とご家族が出演するなど、手づくりで広報ツールを整えた。

久保主任は「商品を開発するだけでなく、部品の調達や組み立て、広報や施工に至るまで多くの仕事に携わった。メンバーのみんなが、今までの仕事の延長線上ではできない経験ができた」と収穫を語る。

失敗で学んだトヨタの価値観

後に、新しい取り組みに共感してくれた元町工場、新事業企画部のメンバーが仲間入りしたことで、開発品をつくって、売るところまでがつながった。ただ、全員、“家電”を扱うのは初めて。失敗は度々にわたった。

例えば、当初は販売や施工まで考えが至っておらず、製品ができあがってから、重さが基準を超えており、設置に重機が必要だということが発覚した。

何とか重機を使わずに済むようにと、開発陣は部品を小分けにして重量を抑え、現場で組み立てる方法をとることに。

しかし、つくり手のミスを後工程に負担させただけ。「施工業者の手間を考えていない」と厳しい指摘を受けた。

また、家電なら当然だが、商品の梱包、発送は生産者が行う。しかし、クルマにはその概念がない。

製品にキズが付かなければいいだろうと、自動車部品で使用する既存のサイズの箱に詰めた結果、「サイズが大き過ぎる。運ぶことまで考えられていない」と現場は困惑。再度、施工業者に迷惑をかけてしまった。

「『お客様第一』『YOUの視点』とこれだけ口酸っぱく言われていながら、自分自身、こんなにも想像力が欠けていたのかとショックだった。初めてご一緒する方々に、商品をお客様にお届けするとはどういうことか、たくさんのアドバイスをいただいた。つくる人だけでなく、売る人も一緒になって、商品をつくり上げていった」(久保主任)

初めての経験の中で遭遇する問題にひとつずつ向き合いながら、プロジェクトメンバーは「お客様目線」を学び直していった。

そんな数々の失敗と苦労を重ね、8月24日、「おうち給電システム」は発売に至った。

開発、販売、生産に携わるプロジェクトメンバー

RECOMMEND