クルマ好きをひきつけてやまないエンジンの音。トヨタの音づくりはいかにして始まったのか。音づくりの変遷をたどる続編。
エンジンサウンドの継承
低く重々しいアイドリング音から、もの悲しくむせび泣くようなハイトーンまで、鳥肌が立つようなエンジンサウンドを奏でるLEXUS LFA。
「天使の咆哮」とも呼ばれるその音色は、まさにモリゾウが求めたエンジンサウンドだ。音楽的・音声学的アプローチを加え、トライアンドエラーを重ねて開発されたそのサウンドのDNAは、LEXUS LCへと受け継がれた。
LCのサウンドづくりを手がけたレクサス性能開発部感性性能開発室の中山裕介主任は、「乗ったらレクサスだとわかるサウンドを目指した」という。
中山主任
当時、LEXUS LCのチーフエンジニア(CE)をされていたのが現在の佐藤恒治社長でして、「エンジンサウンドには一番こだわりたい。LFAのDNAを引き継いだLCのサウンドをつくってくれ」と言われました。
そこでLFAのサウンドがどういう要素で構成されているのかを分解するところから始めました。
サウンドのベースとなる排気音にエンジン回転数が高まるとともに吸気音が重なり、レブリミットに向けて立体的で高揚感のあるサウンドに包まれていく。そういったLFAと同じ思想をもって、LCのエモーショナルなサウンドを実現しました。
厳しい騒音規制をクリアするためには、車外に出す音は極めて小さく抑えなくてはならない。その一方で、車室内ではドライビングに高揚感を与えるスポーティなサウンドを響かせたい。
相反する条件をクリアするために採用されたデバイスのひとつが、吸気音を増幅するサウンドジェネレーターだ。
中山主任
佐藤CEからは「電子デバイスを使わずに、実際の吸気音、排気音をフルに使って、原音だけでLEXUSらしいサウンドを達成したい」という想いが伝えられました。
当時エンジンルーム内のレイアウトは決まりつつありましたが、多くの関係部署の協力を得てエンジンルームから狙いの周波数の吸気音を車室内に引き込むサウンドジェネレーターを無理やり通させてもらうことができました。
排気音については、排気管のバルブ開閉によって流路を切り替え、音色と音圧をコントロールする技術を採用しているのですが、これもLFAから引き継いだ技術です。
そうして背後からしっかり排気音が聞こえて、アクセルを踏み込めば吸気音が重なり音像は前方へシフトしていく。ドライバーのアクセルペダル操作に呼応して音が広がっていく空間を演出しました。
バルブオープン時は排気をテールパイプへ流して迫力のあるサウンドを奏で、バルブクローズ時は排気をマフラーで消音してこもり音のない静粛性を作り出すというアクティブなバルブを持つ排気システムと、サウンドジェネレーターで引き込む吸気音を得て、車内は自然吸気V8エンジンならではの躍動感のある高周波音のハーモニーに包まれる。
その一方で、不快な音を打ち消すのが、アクティブノイズコントロールだ。エンジンのこもり音など不快な音に対し、それらと逆位相*のサウンドをオーディオスピーカーから出すことで打ち消されて不快な音が聞こえなくなる。
*逆位相:音の振動を山と谷が交互になる波で表した場合、逆位相は波が真逆のこと
ノイズキャンセリング機能付きイヤホンで、周囲の騒音が消され、聞きたい音楽のボリュームを上げなくてもいいという経験をした方も多いのではないだろうか。アクティブノイズコントロールは、いわばイヤホンのノイズキャンセリング機能と同じ仕組みだ。
ただし、発生させる音がぴったり逆位相になっていないと、その音が異音としてプラスされてかえってうるさくなってしまう。そのため「扱いは簡単じゃない、諸刃の剣ですよ」とレクサス性能開発部感性性能開発室の佐野真一主任は言う。そこで大切なのがノイズを拾う“エラーマイク”だ。
中山主任
最適な逆位相音を出すためのセンサーに当たるエラーマイクが必要なんですが、それを人の耳のなるべく近くに配置したいんです。
耳に近いほど、高周波の音まで消すこともできます。その点、耳に装着するノイズキャンセリング機能付きイヤホンは、広い周波数帯域で消音効果を出すことができます。
エラーマイクは通常ルーフに設置するのですが、LC Convertibleではルーフが開閉しますので、新しい技術としてヘッドレストにエラーマイクを入れました。
このような技術を取り入れながらコンバーチブルであってもLCが持つ「静」と「動」の世界観を味わえる性能をつくり込むことができました。
ルーフオープン時での静粛性というコンバーチブルならではの課題をクリアした上で、5LV8自然吸気エンジンが奏でるエンジンサウンドを聞かせたい——そんな静と動の調和を実現させたのが、LC500 Convertibleだ。
LFAのDNAを受け継いだドラマチックなLCの美声をお聞きいただきたい。