記録的な暑さ、相次ぐ自然災害――。電力問題が注目を集める中、トヨタが住宅用蓄電池を発売。新しい領域に足を踏み入れたワケを取材した。
8月24日、トヨタ自動車が開発した住宅用蓄電池「おうち給電システム」の販売が始まった。
同商品は8.7kWhの定格容量、5.5kWの定格出力を備え、平時だけでなく、停電時にも家全体に電力を供給できるシステムである。
また、太陽光発電と連携することで、昼間につくった電力を夜間に使うこともできる。家庭に合わせた電力供給を可能にするとともに、再生可能エネルギー(再エネ)の利用促進につなげる。
住宅用蓄電池自体は珍しいものではない。しかし、なぜ、クルマ屋のトヨタがこの事業に取り組み始めたのか? トヨタが手がける蓄電池とはどんなものなのか? 新たな挑戦の裏側を探る。
大規模停電がトヨタに投げかけた問い
災害時、クルマはさまざまな役割を果たしているが、最近は電動車の普及で、「給電」という新たな機能を持ち始めている。しかし、その事実を知る人はまだ多くない。
2019年9月、伊豆諸島や関東地方南部に猛烈な風雨をもたらした台風15号では、千葉県を中心に最大93万戸が停電。復旧にかかった時間は280時間と12日間にも及んだ。
当時、被災者の中には、給電機能を備えたトヨタのPHEV(プラグインハイブリッド車)やHEV(ハイブリッド車)を持っていながら、機能を知らない、使い方がわからないという理由で、活用できていない人も少なくなかった。
その事実は社内でも、問題意識をもって受け止められており、豊田章男社長も「災害時に使えると言われても、私でさえ、自分が持っているPHEVにコンセントがついているかどうか問い合わせた」(同年11月 @東京モーターショー「トヨタ経営会議」)と語るほど。
非常時にトヨタにできることは何か? 社会インフラとなったクルマに求められることは何か? クルマづくりで培ったノウハウで世の中に貢献できることはないか? この年、相次いだ自然災害は、トヨタにそんな問いを投げかけた。
電力は売る時代から自給する時代へ
ちょうどこのころ、固定価格での電力買い取り契約が満了した「卒FIT世帯」の話題に注目が集まっていた * 。
*日本では、2009年11月に、太陽光などの再エネによる電気を電力会社が一定価格で10年間買い取る固定価格買取(FIT)制度が始まった。以来、戸建て住宅での太陽光パネル設置が進み、2019年時点で設置戸数は270万戸。国土面積当たりの太陽光発電導入量は主要国で最大となっている売電価格は買い取り期間が終わると、約6分の1(1kWhあたり48→8円)に下がってしまう。富士経済の予測によると、卒FIT世帯は2030年に242万戸にもなるという。
これに伴い、つくった電気を貯めておく、または、電気代の安い時間に電気を貯めておくというライフスタイルが進み、蓄電池市場は2018年の7万台から2020年には12.7万台へと1.8倍に拡大。
今、電力は「つくって売る」時代から「自給自足」の時代を迎えている。