2025年5月に一部改良されたカローラ クロスに搭載された新機能「シグナルロードプロジェクション」。あなためがけた機能の開発秘話と開発者の想いとは。
ボデー開発部 中川享俊 室長
カローラで実用化したら、普及効果も大きい。だから、ハードルは高いけれど、やりましょう。
そう関さんに話しました。
技術と法規、2つの課題
2024年秋、小糸製作所が試作品をトヨタ側に披露する場でシグナルロードプロジェクションを点灯した瞬間、沈黙が広がったという。
中川室長
シェブロンの輪郭が曖昧だったり、余分な光の線が照射されたりで、思い描いていた仕上がりとはかなりの隔たりがありました。
北澤
試作の段階で完成度を上げられず、トヨタさんには本当ご迷惑をおかけしました。
「必ず、想定通りのシェブロン形状を照射できるように仕上げます」という私たちの言葉を信じていただき、感謝しています。
こうして、金型を製作した後も数度にわたって確認と微調整が重ねられ、2025年の年明け、実車に組み込んだ状態での最終確認にこぎつけた。
中川室長
地面に照射して、これほど綺麗なシェブロン形状を結像できたことが、試作品ではなかったので、本当に嬉しかったのを覚えています。
車両への搭載にあたっては、路面への照射角度や位置をめぐって検証が繰り返された。
TCボデー電子設計部 河野統考
左右へ外向きにし過ぎると、壁などの障害物に照射されてしまい、期待した効果が得られません。かといって、前方に向けすぎると、曲がる先にいる歩行者に気づいてもらいにくくなります。
駐車場から車道へと歩道を横切るシーンや住宅街の狭い路地、左折時に自転車がすり抜ける場面、海外のラウンドアバウトまで、車両評価担当者とともに、さまざまな状況を実車で確認し、最も気づいてもらいやすい角度を探っていった。
合わせて欠かせなかったのが、自動車認証審査部*への確認だった。車両からの路面への照射について、現状では法規の条文に明記がなく、認められるかどうかは定かではなかったのだ。
*自動車等の基準適合性について、公正・中立な立場で認証審査を行う機関
フロントウインカーの光が路面に映り込んでいる状態だと解釈すれば、現行の法規には適合している。
何より、歩行者や自転車との接触を避けるなど安全性向上に寄与する機能である。
河野たちは、そう自動車認証審査部と対話を重ね、了承を得た。
“TO YOU”という道しるべ
2025年秋、トヨタは新たなブランド戦略として「TO YOU」というブランドコンセプトを打ち出した。
「すべての人」に向けた最大公約数のモノづくりではなく、一人ひとりの“あなた”をめがけて商品をつくる。
技術と法規、2つの課題を越えて量産にたどり着いたこの機能に、プロジェクトのメンバーは、TO YOUへの想いを重ねる。
中川室長
豊田佐吉翁が発明した木製織機は、機織りに苦労する母親を、なんとか楽にしてあげたいという佐吉翁の想いから生まれました。この「あなたのために」という考えは、現在も、社内で時代を超えて大切に育まれています。
とはいえ、「こういうものをつくりたい」という技術者としてのある種のエゴも、私たちの誰もが抱いています。ただ、それが本当にみんなのためになっているのか。そこに立ち返るための道しるべとして、この考え方があるのだと思います。
関が胸に刻むのは、初代カローラの開発主査・長谷川龍雄氏が残した「地球人の幸福と福祉のためのカローラを」という言葉だ。
セダンに加えてハッチバックやワゴン、そしてSUVと、時代ごとのニーズに応じて姿を広げてきたカローラの歴史を、この言葉の実践だと捉えている。
関主幹
カローラを担当する私たちにとっての “TO YOU” は、買ってくださる一人ひとりの幸せのためにカローラをつくること。シグナルロードプロジェクションも、その幸せに寄与する機能として搭載を決めました。
その意味で、この技術は、想いを形にした一つの象徴なのではないかと思っています。
「シグナルロードプロジェクションは、一台のクルマにとどまらず、多くのクルマに広がってこそ、より大きな安全効果を発揮する」小糸製作所の北澤はそう語る。
関も、「良品廉価で、お客様に安全を届けられる技術として、今後も他の車種へ展開していきたい」と続ける。
“TO YOU”の想いが結実したこの技術は、一台のクルマから、また次のクルマへと広がっていくことだろう。