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トヨタのプレジデントが語る"私のキャリア" 山本シンヤ氏インタビュー

2023.10.23

今年、新たに"プレジデント"となった3人を、自動車研究家 山本シンヤ氏が直撃! 第1弾は佐藤恒治社長編。これまでのトヨタマン人生を掘り下げた。

「できない」の思い込みを解くのが役目

その後、常務理事に就任。通常だと役員になるとクルマづくりの最前線からは抜ける……というイメージを持つが、佐藤氏のそれはそうではなかった。

自分でも「経営のことも考えなければ」と思っていましたが、内示の時も章男社長からは「ずっとクルマをつくっておけばいいから」とだけ言われました。

それが今に至るまで、私の軸になっています。

10年以上、章男社長の下で愚直にクルマづくりを行ってきたことで、「商品を軸に経営する」ことの意味が見えてきました。自分のやるべきことは、それを守り伝えることです。

実はエンジニアの仕事ってすごくシンプルで、根底にあるのは「できないことをできるようにしたい」という想いだけです。でも、自分自身、LCの企画初期のように、「できないものはできない」と思ったこともあります。

ただ、章男社長と一緒にクルマづくりを行ってきて、自分が徐々に変わり、「できないことに挑んでいいんだ」、「それがクルマづくりなんだ」と学ぶことができました。

トヨタの仲間たちは皆、同じ気持ちだと思います。ただ、環境条件とか、これまでの経験とかで「できない」と思い込んでしまう人もいるので、その思い込みを解いてあげることが、私の役目だと思っています。

LCも、周りがいろいろなアイデアをどんどん育てて、盛り上がって、クルマになっていきました。だから、クルマづくりは「チーム力」が大事なんです。その想いは社長になった今も変わりません。

「クルマへの愛が一番強い人がリード役を」

現在、社長になってどうだろうか? 新聞・経済誌の記者は、何かと章男会長と比較したがるが、その辺りのプレッシャーは?

章男会長が真横にいて、10数年学んできて、そこを目指すとか大それたことを考えるよりも、一緒にクルマの未来を明るくしていきたいという想いの方が強いです。

もちろん経営者としてやるべきことはしっかりやります。今は一生懸命勉強中です。

ただ、トヨタの経営の根幹にあるのはやっぱりクルマだから、クルマへの愛や希望が一番強い人がリード役をやらないと会社全体がおかしくなってしまう。

私に期待されているのはそういうことだと思うし、クルマに対する熱量をとにかく発信し続けること。それに尽きます。

筆者が佐藤氏を見ていて思うのは、CEから常務理事、執行役員、そして社長と、我々から見るとどんどん遠い存在()になっているにも関わらず、常に「いつもの佐藤さん」であることだ。

社内でどうかは分からないが、少なくとも社外では「それでいいの?」と思うくらい同じ目線で会話をしていることが多い。そんなことから、ライバルメーカーのエンジニアにも佐藤ファンは多い。

自分の中で意識したことないですけど、社長になってもエンジニアであり続けたいという想いはあります。

エンジニアリングに肩書の上下なんて関係ないんですよね。現場でやっている人が一番強いんだから、現場を知っている人、技術を分かっている人をリスペクトすべきだと思います。

そもそも変わっているのは肩書だけで、自分自身は変わろうと思っても変われません。つまり、佐藤恒治という人間としては、何も変わりません。

根っこにあるのは「クルマが好き」という単純でシンプルな想いです。そもそもクルマ好きな人に悪い人はいないですよ(笑)

佐藤恒治(Koji Sato)プロフィール

最初に買ったクルマはホンダシビック(EF型)。学生時代はホンダ愛にあふれていたという()。入社後はハイラックスや中古のクラウンなどを経て、トヨタのエンジニアあるあるの一つ「他社のクルマに乗ってみよう」とドイツ車を転々。その後、シャシー設計部の時にスーパーストラットサスに興味を持ってセリカを購入。現在は自身がCEを務めたレクサスLCと、そのLC開発時に義理の父が「同じクーペだから何か参考になるのでは?」と譲ってくれたスープラ(80系)、そして「40年前の先輩がどんな想いでこのクルマを世に出したのか?」というエンジニアリング探求で購入したAE86(カローラ・レビン。写真は本人撮影)。AE86はかなり程度の良い個体だったものの、エンジニアの悪い癖で気が付けばバラバラに……。現在は「早く乗りたい!!」と心の中で思う一方、「部品一つひとつを見ていると、完成しないほうがいいのでは?」と思う時も。最近のライフワークは夜中にネットオークションでの部品探し。

山本シンヤ(Shinya Yamamoto)プロフィール

自動車研究家。自動車メーカー、チューニングメーカーを経て、自動車雑誌の世界に。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の気持ちをわかりやすく上手に伝えることをモットーに活動している。

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