トヨタ11代目社長・豊田章男の社長在任14年を振り返る特集。後編は数字に表れた変化を追ってみたい。
ステークホルダーへの分配
しかし収益が見込めるようになってくると、今度は決算説明会の場などで、「トヨタの一人勝ち」と言われることも起こり始めた。
こういった声に対して、豊田は2021年の株主総会において、国や自治体、従業員、仕入先など、さまざまなステークホルダーへの貢献を具体的な数字を用いて説明している。
ぜひ、ご理解いただきたいのは、12年間の売上の総数は300兆円になります。自動車産業は裾野の広い産業です。約7割の部品が仕入先からの購入部品で、部品を購入する対価として、(その分の金額を)お支払いしています。その金額の累計が230兆円です。
国家予算が1年100兆円と考えると、相当に大きな金額が世の中に回っていると思います。
トヨタは内部留保をたくさん抱え、配分を間違えているのではないかという声も耳にします。皆様にご理解いただきたいのは、12年間でトヨタの連結従業員は5万人増加していますが、これが経済面でどのような影響を与えているかということです。
仮に世帯年収を500万円とすると、5万人×500万円=2,500億円のお金が家計に回っています。
また、消費税増加が叫ばれている中、消費税を1%上げると、約2兆円の国富への貢献と言われていることからすると、20兆円の時価総額が上がったということは、消費税10%に値します。
(2021.6月 株主総会)
自動車産業は、完成車メーカーだけでやっているのではなく、さまざまなステークホルダーと支え合いながら成立している産業であり、その経済波及効果も大きい。
普段はあまり数字を口にしない豊田だが、販売店や仕入先などとともに積み重ねた「意志ある情熱と行動」の結果であることを、実績を用いて理解を求めたのだ。
また、2023年の労使協議会でも、豊田の社長在任期間でステークホルダーへの分配が増加してきたことが報告された。従業員や仕入先などとともに成長してきたことが示されている。
「もっといいクルマづくり」を通じて得られた収益を、研究開発費などの「未来への投資」やステークホルダーへの分配につなげていく。こうしたサイクルを通じて、持続的成長に向けた基盤を強化していった。
未来への種まき
豊田が社長就任時に掲げた「もっといいクルマづくり」といった言葉は、平易であるがゆえに理解されにくく、「数値目標をあげられないのか」と批判されることもあった。
しかしながら、「モリゾウ」「マスタードライバー」「トヨタの社長」として、現地現物で取り組んできた組織改革や人材育成が成果を伴ってくると、徐々にその声は小さくなっていった。
2023年1月の社長交代の生放送内で、豊田は「グローバルトヨタ37万人が、それぞれの町のそれぞれの現場で、もっといいクルマづくりに取り組んできた結果、商品が大きく変わりました」と語っている。
5月に公表された2022年度の決算は1兆5,450億円にのぼる資材高騰の影響を受けながらも、2兆7,250億円の黒字を確保した。
12代目トヨタ社長としてバトンを受けた佐藤恒治は、「商品を軸にした稼ぐ力が高まっている」と決算の成果を受け止め、今期は電動化やソフトウェアといった未来投資を加速していくことを発表した。
豊田はよく、経営を畑に例える。収穫を終えた畑を引き継がれたからこそ、次世代には、収穫と種まきのバランスのとれた畑を引き継ぎたい。そんな想いで14年間、経営にあたってきた。
そうして育てられてきた土壌の上に、築き上げるモビリティカンパニーへの変革。豊田の志を受け継ぐ新体制が未来への挑戦を続けていく。