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数字を掲げなかった社長 数字に表れた変化...トヨタの収益構造を変えた豊田章男

2023.06.09

トヨタ11代目社長・豊田章男の社長在任14年を振り返る特集。後編は数字に表れた変化を追ってみたい。

TPS・原価低減で体質強化

豊田は社長に就任してからの期間を振り返る際、度々「トヨタらしさを取り戻す闘い」と発言してきた。

「トヨタらしさ」として真っ先に思い浮かべられることが、トヨタ生産方式(TPS)と原価低減だろう。

TPSとは「ムダを徹底的になくして、よいものを安く、タイムリーにお届けする」、トヨタの経営哲学だ。「お届けする」相手は、クルマの購入者のみならず、クルマをつくる過程における後工程も指す。

そのTPSの2本の柱が「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」である。

「自働化」とは、自“働”化であって、自“動”化ではない。人の知恵で「ムダ・ムラ・ムリ」を取り除き、「品質と生産性の向上を工程でつくり込むこと」、さらには、「人を機械の番人にしないこと」が主な考え方だ。

そして「ジャスト・イン・タイム」は、リードタイムを極力短くし、「必要なものを、必要なときに、必要な分だけつくる」ことである。

「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」に支えられたTPSは、原価低減と競争力向上の源泉であり、元来トヨタの根幹をなしてきた技だ。

トヨタの真骨頂は「トヨタ生産方式、TPS」と「原価低減」です。

TPSの基本の1つに「原価主義より原価低減」ということがあります。

「原価に適正利潤を上乗せして販売価格を決める」のではなく、「販売価格は、市場すなわちお客様が決める」という大前提のもと、「我々にできることは原価を下げることだけだ」という考え方です。

「原価」を見ることは「行動」を見ることです。一人ひとりが「原価意識」と「相場観」をもって、日常の行動の中にある「ムダ」を徹底的に排除する。

かつては、当たり前であったことが、いつのまにか「当たり前でなくなっていた」と気づくことからのスタートでした。

あらゆる職場で、「固定費の抜本的な見直し」を掲げ、日々の業務から、大きなイベント、プロジェクトに至るまで、一つひとつの費用を精査し、自分たちの行動の「何がムダか」を考え、地道な原価低減に徹底的に取り組みはじめました。

(中略)

「連敗だけは絶対にしない」という強い決意のもと、トヨタに関わるすべての人が、全員参加で、地道に、泥臭く、徹底的に原価低減活動を積み重ねた結果が決算数値にも少しずつ表れ始めてきたのではないかと思っております。

ゆえに、今期の決算を、私の言葉で総括いたしますと、「たゆまぬ改善という『トヨタらしさ』があらわれはじめた決算」ということになるでしょうか。

2018.52017年度決算発表スピーチ)

2017年度の決算発表において、TPSと原価低減の浸透の手応えをこのように語った豊田。それを裏付けるように、「原価改善の努力」の項目が、社長就任以前の2001年度~2008年度は平均約1,625億円であるのに対し、2009年度~2017年度は約3,183億円と2倍近い効果をあげている。

商品軸と地域軸で損益分岐台数30%改善

豊田は社長就任時、経営を立て直すため、「もっといいクルマづくり」を軸に据える。それを具体化する策として、前編で詳述したように、2012年にTNGAToyota New Global Architecture)、2016年にカンパニー制を打ち出す。

これらの施策によって商品力を高める一方で、海外ではタイから始まったIMVシリーズや北米のタンドラなど、地域のニーズに寄り添ったクルマを、現地主導で生産・供給してきた。

IMVシリーズの先駆けとなった7代目ハイラックス

豊田が副社長時代に主導したIMVプロジェクトは、「世界各国のお客様に、同時期に、より魅力的な商品を、よりお求めやすい価格で提供」と説明されているように、新興国での販売シェアを広げていく。

さらに、豊田は先に紹介した2009年のグローバル方針説明会において、「ここ数年のトヨタは、グローバルモデルと称し、大票田主導のクルマづくりに、比重がかかってしまった(中略)この先、地域に根ざした理想の品揃えを、各地域の皆さんと共有したいと思います」と語っている。

変化は、地域別の販売シェアに表れた。2005年には、日本と北米で約60%を占めていたのが、2022年には約40%に。一方で、中国が3%から20%、アジアが12%から14%と伸長。日米頼みの販売状況は、グローバルにバランスの取れた事業構造に変化した。

このように、豊田はTNGAやカンパニー制の導入によって、素性の良いクルマづくりと開発効率の向上を実現。「クルマづくりの基盤」を生かし、地域に根差した商品をバランス良く販売した結果、損益分岐台数は、リーマンショックの頃と比べて約30%改善した。

2020年、コロナウイルスにより世界的に経済が低迷する中での株主総会において、豊田はリーマンショックのころとは違う、外乱に強い企業体質へと成長した手応えを語っている。

「体質強化は進んでいるのか?」という質問をいただく度に、私は、「リーマンショックのような危機に再び直面した時にしか、その答えは出ないと思います」と申し上げてまいりました。

そして、今回、リーマンショックを上回るコロナ危機が世界を襲いました。

(中略)

今、私はこうお答えしたいと思います。

トヨタは確実に強くなったと思います。そして、その強さを自分以外の誰かのために使いたいと思っております。

2020.6月 株主総会)

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