
技能五輪金メダリストによる座談会。後半はリフレッシュ方法や、これから目指す姿について語ってもらった。また、彼らを導いてきた指導員の想いにも迫る。
日々成長し、頼られる職人に
機械製図・森岡 楽しくモノづくりを続け、モノづくりを好きでいられる技能者になりたいと思っています。星野先輩の職種の指導員が「好きこそものの上手なれ」と言っていたんですけど、その言葉をずっと覚えていて、本当に(モノづくりが)好きな人は技能が上達していく。たぶん誰もが感じていると思います。
僕の場合は製図ですが、製図を楽しんで、好きになって、そうすると技能も伸びるんじゃないかと。それが周りの人にも伝わるぐらいに笑顔で作業していきたいと思っています。
――製図をしていて、楽しい瞬間は?
モデルをつくっているときとか、寸法を入れているときに、「図面が出来上がっていっている。楽しい!」ってなります(笑)。

試作モデル製作・水野 僕はこの競技の金メダリストとして、自分の言葉や行動で学びや気づきを与えられる人になりたいと思っています。
僕自身は、大きな舞台で何か結果を残すとか、輝ける場所みたいなものを、今まで見つけられていませんでした。今大会、やってきたことを全て出し切っての金メダルだったので自信がつきました。
プラスチック金型・久保 常に上を目指せる人になりたいなと思っていて、好きな言葉に「今日は昨日も明日も超えてやる * 」という言葉があります。課題にひたすら向き合う状況で、途中でちょっとナアナアになってしまいそうになることがあるんですが、そんな中でも、1ミクロンでも精度よく、1秒でも早く、少しでも成長していける人になりたいです。
*ロックバンド『ONE OK ROCK』のボーカルTakaがライブで観客に届けた挨拶の一節。
来年も(技能五輪に)出場するので、今の技能をさらに極めて、100点で1位を取りたいと思います。
車体塗装・菅田 誰からも愛される人になりたいです。これは職場のTL(チームリーダー)ことなんですが、上司って話しかけづらい雰囲気があると思います。ですが、そのTLは誰にでも声をかけていて、話しかけられていて、コミュニケーションが取りやすくて憧れています。
技能の面でも、いろいろアドバイスをもらえています。自分も人としても頼りにされて、技能の面でも、「菅田に頼んだら絶対注文通りのものが返ってくる」と期待に応えられる、そんな人になりたいです。
金メダルは目的ではなく目標
仲間やライバルの存在、道具や製品の細部にわたるこだわり、日の丸を背負うプライド。苦しいこともあっただろう訓練期間を乗り越え、見事大舞台で結果を残した選手たち。その言葉からは、職人としての誇りも感じられた。
だが、彼らのゴールは金メダルではない。
今回オブザーバーとして同席してもらった、野田晃寛TLは、自身も選手として全国大会に出場し、指導員としても15年以上にわたって多くの選手を育ててきた。
野田TLは、トヨタにとって技能五輪は「各職場に配属されたときに、培ってきた高い技能と人間力を生かして、職場の核となっていく。そういった人材育成の場」と語る。
トヨタ技能者養成所 技能五輪課 野田TL

競技ですので、日本一、世界一になれた、なれなかったという結果は出てきます。ただ、結果とは別に、金メダルのレベルに至る裏には、それだけ習熟しなければならない要素があって、(彼らは)そういった技能レベルを身に付けているということです。
(金メダルは)目的ではなく、目標といった方がいいかもしれません。実は技能五輪で培った技能の全てを職場で生かし切ることはできないんです。
大切なことは、技能五輪といった舞台で、一生懸命せめぎ合いながら技能を高めてきているということ。そういう経験を生かして、周りを引っ張っていくような、そんな働き方をしてほしいです。
自分で目標を見つけて、手順を考えて、自分自身を高めていくような人になることを期待しています。
技能五輪の出場者が配属された職場からは、より効率良く作業するためには何をしなければならないのかを意識していて、チャレンジ意欲が高く要領が良いという声も聞こえてきているという。
今の技能をより高めようとする人、新たな技能を身に付けようとする人、仲間や後輩へ技能と想いを伝えていく人――。今回のメダリストたちが目指す姿はそれぞれだが、ここで得た経験と自信を次のステージでも生かして、さらに大きく成長してほしい。
隔年開催のため、次の国際大会は2026年(中国・上海)。そして28年は、トヨタのお膝元・愛知県で国際大会が開かれることが決まっている。今年の全国大会は、26年大会の選考を兼ねた重要な舞台だ。
大舞台でトヨタの、そして日本のモノづくりの力が存分に発揮されることにも期待したい。