モビリティ・カンパニーへの変革の象徴でもある「e-Palette」。社会実装に向け、トヨタ自動車九州 宮田工場で行われていたこととは?
宮田工場に京都の老舗が!?
「移動販売の次のステップとして、無人販売の実証実験にも取り組んでいます」
そう語るのは、MaaSプロジェクト室の宮本聡主査だ。
宮本主査
自動運転を見据え、販売員の無人化を実現できるかの検証を行いました。
アプリで認証・決済するシステムなのですが、有人の場合はレジに70秒ほどかかるのに対し、無人ではレジでの支払いが必要ありません。
試算では、1時間あたり2.3倍の客数と売上の増加を見込めることになります。
利用者へのアンケートでもレジがないことで「スムーズさを感じた」と答えた人が88%にのぼり、販売員無人化実現の可能性が見えてきました。
移動販売のさらなる展開としてMaaSプロジェクト室が取り組んでいるのが、高単価商品へのシフトを目的とした「移動体験型ストア」だという。
弁当やドリンクなどは、どうしても客単価が低く事業性を確保するのが難しい。そこで、e-Paletteを高単価商品に触れられるショールームとして活かす実証実験を通して、その可能性を探ろうというのだ。
宮本主査
いわば移動可能なポップストアです。実際に商品を手に取って試食や試用ができたり、オンラインで販売員の接客を受けられたりと、利用者は五感を通じて商品の魅力を体験できます。気に入った商品はEC(Electronic Commerce:電子商取引 / eコマース)で購入するという流れです。
また事業者としては、人流計測カメラを通してお客様の人数や属性、注視時間、感情などのマーケティングデータを得ることができます。
宮田工場では京都の老舗店と共同で、さまざまな商品を取り扱う京都展を2024年1月より3カ月にわたって実施。
京都の名だたる老舗11店の商品を職場で購入できるとあって、予想以上の好評を得たという。
宮本主査
このときはECではなく、その場で購入できるようにしました。利用者からは「普段買えない京都の銘品が職場で買えてうれしい」「北海道展や沖縄展もやってほしい」「京都にいる気分が味わえた」といった反響をいただきました。
京都の事業者さんからも、京都以外の場所でお店や商品の認知度を手軽に上げられ、京都に旅行した際の来訪にもつながるので、とても意義のある試みだというお言葉をいただきました。
一般的に、物産展などを催すには催事場となる場所を確保したり、スタッフを現地に派遣したり、それらによりコストがかさんだりと、ハードルが高い。
e-Paletteのショールーム機能により、そうした課題を解決できるのではないか──そのような可能性も検証していきたいと宮本主査は語る。
従業員や地域住民が参加する宮田工場のイベント「サンクス フェスタ2024」(4月14日)では、第2ステップとして新たなトライアルが行われた。
前述の京都展ではMaaSプロジェクト室のスタッフが接客にあたったが、サンクスフェスタ2024では会場と京都をオンラインでつなぎ、出展した商店街の関係者が対応したのだ。
来場者はe-Palette内部のスクリーン越しに京都の商店街担当者から商品の説明を受けたり、試食を勧められたりしながら、京都の銘品を手に取り、購入できる。
九州にいながら京都を感じるもう一つの試みが、e-Paletteの外部スクリーンを用いたワークショップだ。日本茶インストラクターが京都の店舗からお茶のおいしいいれ方などについて講座を行ったのだ。
参加者はe-Palette後部の大きな外部スクリーンに映し出された日本茶インストラクターの実演や説明を受けながら、実際にお茶をいれたり、自らいれたお茶を味わったりするなど、本店で行われるのと同様のお茶講座を楽しんだ。
宮本主査
オンラインで接客を受けたりお茶講座に参加したりした人からは「思いがけず京都の文化を楽しめてよかった」「京都に訪れた気分が味わえた」という声をいただきました。
アンケート結果でも、京都に旅行した際に今回出展した店舗に訪問したいという人が86%に及びました。
e-Paletteによるショールーム機能の可能性について、いい結果が得られたと考えています。
どのようにスムーズにECでの物販につなげるかなど、今後も事業としての成立性について検討していきたいと思います。
「街の景色を変え人々の暮らしを支えるモビリティサービスを実現する」というコンセプトが掲げられたe-Palette。今後は実証実験から得られたさまざまな知見を活かすことで、コンセプトをかたちにしていきたいと、開発責任者である牟田隆宏主査(CV Company)は語る。
牟田主査
e-Paletteはクルマというプロダクトですが、モビリティというサービスを担う存在でもあります。その意味で、e-Paletteの市場への導入は1つのマイルストーンに過ぎません。
導入後も、使っていただくお客様たちとe-Paletteを育てつづけ、新たな時代のモビリティ社会に寄与していきたいと思っています。
牟田主査が開発終盤を迎えているというe-Palette。市場に巣立ってからも、e-Paletteがいかに育まれ、モビリティ社会に貢献していくのか、注目していきたい。