モビリティ・カンパニーへの変革の象徴でもある「e-Palette」。社会実装に向けた取り組みの最前線について、開発責任者が語ったこととは?
「私はトヨタを、クルマ会社を超え、人々のさまざまな移動を助ける会社、モビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました。私たちができること、その可能性は無限だと考えています」
2018年1月、CES(Consumer Electronics Show)にて豊田章男社長(当時)がモビリティ・カンパニーへの変革を宣言した際、従来のクルマの概念を超えて、新たな価値を提供するモビリティへの第一歩して発表された「e-Palette」。
現在は社会実装に向け、各所で実証実験が行われている。
例えば、レクサス車を生産するトヨタ自動車九州 宮田工場(福岡県宮若市)。ここでは、従業員の移動や荷物の搬送、工場見学来場者向けや移動販売など、さまざまな実証サービスが立ち上げられ、現在も実験が進められている。
また、4月に開催された従業員や地域住民が参加するイベント「サンクス フェスタ2024」では、e-Paletteによる工場巡回ツアーや移動体験型ストアを実施。開発責任者である牟田隆宏主査(CV Company)もイベント会場に駆けつけた。
愛らしいデザインに込められた想いとは?
「これは壮大なプロジェクトになるだろうなと思いました」
2017年にe-Paletteの開発責任者に就任し、前述のCESでの発表にも同席した牟田主査は、当時をそう振り返る。
牟田主査
あのときはまだコンセプトの段階でしたが、自動運転で街の中を自由に移動し、ありとあらゆるサービスを提供していく……。これを実現させるのは容易ではないだろうというのが率直な気持ちでした。
e-Paletteはトヨタがモビリティ・カンパニーへと舵を切る起点となるクルマですし、次世代のモビリティとして新たな社会や生活を創造する一端を担うわけですから、開発者としてやりがいを感じたのも確かでした。
2019年には東京モーターショーにて実車を発表。2021年の「東京2020オリンピック・パラリンピック大会」では、選手村内を巡回するバスとして運行されるなど、着実に開発が進められてきた。
ところで、e-Paletteの特徴の一つがペットのような愛らしさを感じさせるデザイン。いかにしてこの外観に至ったのだろうか?
牟田主査によると、意外にも当初のデザイン案はクールな印象だったという。
牟田主査
デザインコンセプトを手掛けたのはヨーロッパのデザイン開発拠点「EDスクエア」(フランス・ニース)。基本的にはそのデザインを踏襲しつつ、フロントまわりのデザインを愛らしく思ってもらえるよう、日本のチームで仕上げたのが現在の姿です。
一方、箱形のフォルムは機能面から導き出されたという。
牟田主査
e-Paletteは移動可能な多目的スペースとして使用されることを想定しているので、まずは長身の方でも直立した状態で自由に動ける室内高を確保することが必須でした。
また、外寸に対して可能な限り広いスペースを実現するために、タイヤを四隅に配してフラットなフロアを採用しています。
トヨタには、モビリティによってすべての人に移動の自由と楽しさをお届けするという「Mobility for All」という思想があります。
e-Paletteでも車いすの方やベビーカーを利用している方なども乗降しやすいように、フロア高をなるべく低く設定しています。