実証実験の現場に迫る!「e-Palette」の現在地とは?(後編) 

2024.08.01

モビリティ・カンパニーへの変革の象徴でもある「e-Palette」。社会実装に向け、トヨタ自動車九州 宮田工場で行われていたこととは?

モビリティ・カンパニーへの変革の第一歩として、開発が進められているe-Palette

前編でお伝えしたとおり、現在は社会実装に向けて各所で多種多様な実証実験が進められている。

その一つであるトヨタ自動車九州 宮田工場(福岡県宮若市)。レクサス車専用の生産拠点として、主に海外向けのレクサス車を生産している。ここでの実証実験は、工場という一般道から閉ざされた広大な空間で、e-Paletteがどのような役割を果たすことができるかを探るのがテーマだという。

e-Paletteでの多様な実証実験

「これまで『人流』『物流』『コト流』という3つのカテゴリーのもと6種類のサービスについて実証実験に取り組んできました。

目的は工場での働き方や過ごし方の向上と、e-Paletteの事業展開に向けた課題の抽出です」。そう語るのは、トヨタ自動車九州 MaaSプロジェクト室の金丸宏之主幹だ。

金丸主幹

まずは「移動」の基本から取り組むべく、人流サービスを立ち上げました。

具体的には、構内を毎日1420分から16時にかけて定時定路で運行する「出退勤シャトル」を2023年9月にスタートしました。

自動運転時代を見据え、自動運転を活用した定時定路での輸送の検証と課題の洗い出しを進めています。

宮田工場の用地面積は113ヘクタール。福岡PayPayドームに換算すると16個分と広大だ。作業着に着替えるロッカーから職場まで徒歩で移動すると15分ほどかかる従業員もいるという。

出退勤シャトルにより、彼らの勤務時間の短縮や体力的な負担の低減を図ることも目的だと金丸主幹は語る。

金丸主幹

2つめはオンデマンドバスです。構内は巡回バスも運行されているのですが、15分に1本の間隔なので、逃してしまうと次のバスまで15分待つことになります。

そこで、オンデマンドバスのサービスを出退勤シャトルと同じく昨年9月にスタートしました。利用者は職場近くのバス停から電話でe-Paletteを呼び出し、行き先付近のバス停で降車できます。

そして3つめが、5月からサービスを開始した工場見学です。

レクサスを生産している宮田工場では、かねてよりレクサスオーナーを対象とした工場見学を実施してきました。

これまで構内の送迎にはハイエースを使用していたのですが、e-Paletteに換えることでお客様に新しい体験を楽しんでいただくことが狙いです。

以上の3つが「人流」をテーマに行っている実証サービスだという。では、これまでで得られた成果や課題はどのようなものなのだろうか?

構内の風景が変わりつつある!?

まず出退勤シャトルについて。当初は1台のe-Paletteで運行していたが、2台に増車したことで1日の平均利用者数が2.8倍の110人に増加。さらに直近では、残業時間の有無を鑑みて稼動時間を柔軟に変更することで、150人/日ほどで推移しているという。

移動時間については、例えばロッカーからプレス溶接工場までの往路は、徒歩で913秒、復路は1017秒かかる。

一方、出退勤シャトルを利用することで往路は211秒(−72秒)、復路は230秒(−747秒)に短縮。

2023年9月のサービス開始から12月までの累計利用者数は6566人、4カ月間で削減できた移動時間はトータルで約80時間に及ぶ。

利用者からの評判も上々で、プレス溶接工場周辺は出退勤の歩行者が激減し、構内の風景も変わりつつあるという。

編集部が宮田工場を訪ねた際には、雨天だったこともあり、多くの従業員が出退勤シャトルの恩恵を受けていた。

雨に濡れることなく、広々とした空間で仲間と談笑している彼らの姿が印象的だった。

e-Paletteによる出退勤シャトル。天井が高く広々としたe-Paletteでの移動は快適だと利用者は口を揃える

では、オンデマンドバスについてはどうか? 実は「人流」のみならず4つめのサービスである「物流」も兼ねた実証実験なのだそうだ。

金丸主幹

オンデマンドバスは必要なときに呼び出すものなので、利用者が1人や2人の場合がほとんどです。

相乗りなどで乗車率を上げることも検討していますが、基本的に個別の呼び出し対応なので難しい。

一方、構内を見渡すと事務用品や備品が頻繁に搬送されていることが分かりました。オンデマンドバスでこうした品々を一緒に運ぶことで、空間利用率を高められないかと考え、昨年の11月より貨客混載というテーマに取り組んでいます。

宮田工場では、備品が必要なときには構内のストアに足を運ぶか、オンラインでオーダーする。一方、ストアはオンラインオーダーを受けると、スタッフが業務用車でデリバリーする。

この配送にオンデマンドバスを利用することで、e-Paletteの空間利用率を高めるとともに業務用車によるデリバリーを廃止できるのではないか? それが貨客混載の実証テーマだった。

金丸主幹

2台のe-Paletteでオンデマンドバスサービスを行っていた期間は、待ち時間が平均4分。毎日平均80人が利用し、従業員が構内を移動する有効な手段として機能したことが分かりました。

「物流」についても、業務用車によるデリバリーを廃止するまでには至っていませんが、貨客混載を始めた202311月から242月までの4カ月間で月間の搬送個数が150個から308個と倍増しました。

現在は電話対応者が必要なため、アプリによる予約システムの導入など取り組むべき課題はある。しかし今回の実証実験を通して、e-Paletteを用いた貨客混載の社会実装に向け、有効な知見が得られたと金丸主幹は胸を張る。

また、工場見学についても概ね好評だという。移動中、車内に工場見学に関する映像を投影するなど、従来にない体験が参加者にウケているからだ。

今後は、例えば車内を香りで演出するなど、お客様にとって魅力的な移動体験となるようトライアルを繰り返していきたいという。

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