水素エンジンバギーがダカール2024でクラス4位!HySEが目指す未来とは(前編)

2024.04.23

国内2輪メーカー4社と川崎重工、トヨタからなる技術研究組合「HySE(ハイス)」が水素エンジン車でダカール2024に参加。その意義とは?

カワサキモータース株式会社(以下 カワサキモータース)、スズキ株式会社(以下 スズキ)、本田技研工業株式会社(以下 ホンダ)、ヤマハ発動機株式会社(以下 ヤマハ)の2輪メーカー4社に加え、川崎重工株式会社(以下 川崎重工)とトヨタ自動車株式会社(以下 トヨタ)が参加する技術研究組合 水素小型モビリティ・エンジン研究組合「HySE(ハイス)」。

HySE:Hydrogen Small mobility & Engine technology

カーボンニュートラル社会の実現に向け、バイクや軽自動車など小型モビリティ用水素エンジンの基盤技術の確立に取り組んでいる。

その一環として、サウジアラビアで開催された「ダカール2024」(202415日〜19日)に水素エンジンを搭載したバギー「HySE-X1」で参加、クラス4位完走を果たした。

エントリーしたのは「ミッション1000」。水素エンジン車やBEV(電気自動車)、バイオ燃料のハイブリッド車など、カーボンニュートラルに向けた次世代パワートレインの技術開発を促す取り組みとして24年に導入された新カテゴリーだ。

その名の通り1日約100km10日間で1000kmを走破する。通常のカテゴリーに較べ走行距離が短いが、厳しい気象条件の中、砂漠から泥濘地、山岳地帯などさまざまな路面を走ることから世界一苛酷と評されるダカールラリーにおいて、最終日まで走りきったことの意義は大きい。

企業の枠を越えて団結できたワケ

HySEはこうした研究活動を紹介すべく「第51回モーターサイクルショー」(32224日)にHySE-X1を出展。理事をはじめとするメンバーも会場に駆けつけた。

HySE-X1

「そもそもの始まりは20217月、オートポリス(大分県)で開催されたスーパー耐久(S耐)第4戦でした」

そう語るのは、HySE副理事長の松田義基さん(カワサキモータース)だ。

松田義基副理事長

水素エンジンカローラでS耐に参戦するモリゾウさん(豊田章男会長)と、水素の「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」を手掛けている川崎重工の橋本康彦社長が記者会見で同席したのですが、その際に「水素社会の実現に向けて力を合わせましょう」という話で盛り上がったそうです。

私たちとしても、そうした機運をかたちにしたいという強い想いが芽生えました。そんな想いを自工会(日本自動車工業会)副会長であるヤマハの日髙祥博社長がご理解くださり、スズキさんやホンダさんにもお声掛けいただきました。

それが、HySEの前身である6社連合の結成につながりました。カーボンニュートラル社会を実現させるという大義があるからこそ、企業の枠を越えて団結することができました。

6社連合が誕生したのは20219月のこと。メンバーは2輪メーカー4社にデンソーとトヨタを加えた6社だった。

6社連合では、さっそくカワサキの大型バイク「Ninja H2」用998cc直列4気筒スーパーチャージドエンジンをベースとする水素エンジンのバギー(プロトタイプ)を製作。

2022年9月に「モビリティリゾートもてぎ」で開催されたS耐第5戦においてデモ走行を実施した。

水素エンジンを搭載したバギー(プロトタイプ)に試乗する川崎重工の橋本康彦社長(左)とモリゾウ(右) 写真提供:カワサキモータース
写真提供:カワサキモータース

松田義基副理事長

そのときはモリゾウさんにも試乗していただいたのですが、「いいクルマができたね。これでもっと外へ出て行こう」というコメントをいただきました。

当時GAZOO Racingカンパニーのプレジデントだった佐藤恒治さん(現トヨタ自動車社長)からも、「ダカールラリー、いいですね」と言っていただきました。

そんなこともあり、ダカールラリーに挑戦しようという機運が徐々に高まっていきました。

水素エンジン車で砂漠を走る……考えただけでもロマンがあるじゃないですか。私たちにとってもモチベーションアップにつながりました。

内燃機関を未来へつなぎたい

HySEが経済産業省の認可を得て正式に設立されたのは翌20235月のこと。その意義について、小松賢二理事長(ヤマハ)は以下のように説明する。

小松賢二理事長

内燃機関の技術は日本が世界に誇るものです。

昨今はヨーロッパや中国を中心にパワートレーンの電動化が推し進められており、内燃機関が失われてしまうのではないかという危惧があります。

しかし、CO2を発生しない水素を燃料として使うことで素晴らしい技術を残すことができるわけです。

会社の垣根を越えて日本の技術を集結することで、内燃機関を未来へとつなぐ。それは日本の産業界にとっても非常に意義があることだと考えています。

理事の田中強さん(スズキ)は、マルチパスウェイにおいて水素エンジンは不可欠なソリューションの一つだと言う。

田中強理事

少し未来のプロダクトの話になりますが、カーボンニュートラルな社会の実現に向けた選択肢の一つとして水素エンジンを実用化させたいという想いがあります。

そのためにみんなで力を合わせて基盤技術を確立し、得られた技術を各社が持ち帰って商品化に向けて切磋琢磨する。

私たちは2輪メーカーを中心に6社で取り組んでいますが、意識としてはベンチャー企業に近い。失敗と成長を繰り返しながら、スピーディに研究を進めていきたいと考えています。

同じく理事の古谷昌志さん(ホンダ)も、マルチパスウェイの重要性を強調する。

古谷昌志理事

私たちは非常に多くの地域と、多様なお客様に商品を提供しています。それぞれの国々や地域によってエネルギー事情も異なります。

そうした世界中のお客様にさまざまな可能性を提供していくのが私たちの責務だと考えています。

また、2輪をはじめとするスモールモビリティについてはスペースが限られることもあり、内燃機関は有効な手段です。

HySEで基盤技術の研究を進めて、内燃機関の可能性を今後につなげていくことが重要だと考えています。

「モータースポーツを起点とするもっといいクルマづくり」をダカールでも……

HySEでは設立直後から「ダカール2024」への参加について検討を重ね、20239月に正式決定した。

その意義は、まさにモリゾウが訴えてきた「モータースポーツを起点とするもっといいクルマづくり」に通じるものだ。

古谷昌志理事

苛酷なダカールラリーに参加することで早期に水素エンジンの課題を抽出し、基盤技術の研究を加速させることが目的のひとつです。

現場に行ったエンジニアやスタッフは厳しい経験の中から学んだことも多いでしょう。こうした「人を鍛える」という点でも参加する意義が大きいと思っています。

松田義基副理事長

2024年15日にスタートする「ダカール2024」への参加を20239月に表明したわけですから、準備を急ピッチで進める必要があります。

逆に少々無茶な目標を設定した方が研究開発の方向性が揃いやすいし、アジャイルにもつながる。私もHySEにとってダカール2024への参加はいいテーマだと思いました。

小松賢二理事長

ダカールラリーという国際的な舞台でHySEの活動をアピールすることで、水素エンジンの可能性を全世界に知っていただくこと、共感していただける企業の仲間づくりにつなげるとことも目的でした。

向かって左から小松賢二理事長(ヤマハ)、松田義基副理事長(カワサキモータース)、田中強理事(スズキ)、古谷昌志理事(ホンダ)

仲間づくりという点では、国立開発研究法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)がHySEの取り組みに共感し、「ダカール2024」参加をサポートしている。

持続可能な社会の実現に必要な技術開発を推進する国の研究開発機関であるNEDOは、なぜHySEをサポートするのか。燃料電池・水素室の坂秀憲室長は以下のように語る。

NEDOスマートコミュニティ・エネルギーシステム部 燃料電池・水素室 坂秀憲 室長

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて水素は不可欠なエネルギーです。

HySEのダカールラリープロジェクトは、水素についての社会的な認知を高めるという意味で最適な試みだと感じました。

水素はこれまでも燃料電池やガスタービンなどで使われてきましたが、水素エンジンとしてモビリティに用いることで水素の用途を広げていく……そこにも非常に大きな可能性を感じています。

何よりも、ダカールラリーというエンターテインメント性の高い舞台で、豪快なサウンドを轟かせながら水素エンジン車を走らせる。

このようなワクワクする技術を通して水素というエネルギーを社会にしっかりと普及させていく……そこにも非常に共感し、サポートさせていただきました。

果たして、「ダカール2024」参加を通してどのような成果が得られたのか。

完走したことで想定した以上の膨大なデータを取得することができ、苛酷なラリーの現場でも水素エンジンが通用するのだと手応えを感じたと、4人の理事は口を揃える。

さらに、現地での反響も想像以上で、すでに他チームなどからオファーや相談の声が届いているという。

後編では、急ピッチで進められた準備やレース現場の舞台裏、そして明らかになった課題などについて、プロジェクトチームを率いたリーダーやエンジニアたちへ取材。そこで語られるものとは?

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