コラム
2022.12.14

喜びと感動が詰まった「スペシャルオリンピックス2022広島」。舞台裏で得た大切なものとは?

2022.12.14

知的障がいのある人たちのスポーツの全国大会「2022年第8回スペシャルオリンピックス日本夏季ナショナルゲーム・広島」(以下、SO広島大会)が11月4〜6日にかけて開催された。

オリンピック・パラリンピックに加えて、スペシャルオリンピックスのグローバルパートナーを務めるトヨタは、「スポーツを通じた平和で差別のない社会づくり」を後押しするために、5年以上にわたって運営をサポートしている。

今回、トヨタイムズはSO広島大会に参加したトヨタのアスリートやボランティアらに密着。それぞれが活動を通じて、心に刻んだ想いをハイライトする。

スペシャルオリンピックス(SO)とは、知的障がいのある人たちにさまざまなスポーツトレーニングや成果発表の場である競技会を年間を通じ提供している国際的なスポーツ組織。

4年に一度、夏季・冬季の世界大会が開催され、今回のSO広島大会は、2023年にドイツで開催される夏季世界大会に出場する日本選手団の選考会も兼ねている。北海道から沖縄まで、全国から参加アスリートだけでも約800人、コーチやボランティア、観戦者を入れると総勢約15000人が広島に集結した。

SO広島大会の開会式(ⒸSpecial Olympics Nippon)

コロナ禍により4年振りの開催となった全国大会。全国から集まったアスリートに向かってSO日本理事長の有森裕子氏は開会式で「今大会のスローガン『Power of Smile』を全身で感じてください」とあいさつをした。

SOならではのさまざまな取り組み

SOの大会ならではの特徴は順位のみを重視しないことだ。そのため一般的なスポーツ競技会での「予選」ではなく、「ディビジョニング」という年齢、性別、競技の熟達度などに応じたクラス分けをし、同レベル同士が競い合う。そのうえで全員が決勝に進み、全員が表彰される流れだ。

ディビジョニングごとに全員が表彰される(ⒸSpecial Olympics Nippon)

さらに大会には、SOの健康推進事業の一環としてヘルシー・アスリート・プログラム(HAP/ハップ)があるのも大きな特徴だ。

アスリートの中には、自分で健康管理をしたり、身体の変調を訴えたりすることが苦手な人も多く、競技で実力を発揮し、健康増進への意識を高めてもらうことを目的としている。

内容は、目・耳・口腔・足の健診だけでなく、栄養や生活習慣、筋力や柔軟性などのチェックに至る。

HAPには知的障がい者の特性を理解した専門医が従事する

支援ではなく、参加し、学ばせていただく最上の機会に

障がいの有無に関わらず、すべての人が参加できる社会を目指すトヨタは、2016年にSO日本とナショナルパートナー、2018年にはSO国際本部のグローバルパートナーに就任。

その締結にあたって、豊田章男社長は「このパートナーシップを通じて、私たちが自らの殻を破り、さまざまな障害をともに乗り越えていけるかどうかの挑戦と学びのチャンスをいただいたのだと想います」と語った。

今回のSO広島大会への関わりの意義を社会貢献推進部グループ長の上橋智に聞いた。

上橋

トヨタでは、障がいの有無に関わらずすべての人が支え合い、それぞれに居場所があり、全員が活躍できる共生社会を目指すなかで、SOの活動に関わっています。

大事なことは、豊田社長の言葉にもあるように、決して“支援する”スタンスではなく、“学ばせていただく”マインドでいること。

まずは、ボランティアとしてアスリートのみなさんと交流させていただき、知的障がい者の方への理解を深め、周囲に対し、“Youの視点”を持つ優しいマインドの社員が増えることが、よりよい社会につながると考えています。

SO広島大会でも、全国からやって来たアスリートたちと会うと、純粋な目を向けて挨拶してくれました。そして、ひたむきにスポーツに打ち込む姿を見せてくれました。そんなアスリートと接した多くの社員は、人として大事な気づきがあり、貴重な経験をしました。

大会後も、SOで感じたことや、障がいのある方へ接したことを思い出し、生かす機会が出てくるのだと思います。

SOを盛り上げるなかで、戸惑いと喜びの先にあるもの

トヨタボランティアの団結式

各競技を陰ながら支えるのが、DAL(デリゲーション・アシスタント・リエゾン)と呼ばれるアスリートのサポーターなど、ボランティアの存在だ。トヨタからは51名が参加。開会式を前に、会場の片隅で団結式が行われた。

今回、3名に密着し話を聞いた。

バスケットボールのDALを務めたのは、未来創生センター Rフロンティア部の伊藤高明。秋田のチームに帯同し、スケジュール管理を含め、選手と近い距離で身の回りのサポートをする役割を担った。

チームに寄り添う様子はまるで引率のコーチや先生のようなイメージ。チームに溶け込みながらゲームを見守る姿が印象的だった。

秋田のバスケットボールチームのDALを務めた伊藤

これまで、オリンピックや社会福祉関係のさまざまなボランティアを経験してきたが「人と接することが好きで、誰かのために役立ちたい」という思いからスペシャルオリンピックスにも参加。

だが、試合を重ねるごとにチームワークが高まり、彼らの成長を肌で感じたことで、その意識が変わった。

伊藤

これまでボランティアは誰かのためにという思いでやってきましたが、SO広島大会では、スポーツを心から楽しむアスリートの姿を目の当たりにし、誰かと一緒にがんばって作り上げていくマインドに変わっていきました。

はじめはどのように接していいかわからなかったのですが、積極的にチームメンバーに話しかけると、すぐに心を開いてくれたので嬉しかったです。

残念ながら秋田チームは、接戦の末、ラスト30秒で逆転して敗れてしまったのですが、人一倍思い入れが強かったキャプテンは、これまでのがんばりがあと一歩届かず、悔しさもひとしおだったようです。悔しさから泣き崩れる姿を見て、思わず感情移入してしまいましたね。

たった3日間ながら寄り添い続けた伊藤は、チームメンバーと温かい心の交流を持つことができた。

ケータリングを担当したのは、ユニット部品調達部の佐々木久美子。受付でアスリートたちに配る飲み物や弁当をチームごとに仕分けして渡す役割だ。

仕分けをしているところに、アスリートが続々会場入りし始めた。するとボランティア一同が自然発生的にアスリートを拍手で迎え、会場は温かい雰囲気に包まれた。

佐々木は前回の愛知大会でもボランティアを経験。現場では、勤務地も部署も役職もバラバラのトヨタのボランティア51名が一緒に働くことが新鮮だったと振り返る。

佐々木

ケータリングを担当した佐々木

いろんな人がいろんな意見やパッションを持って、やりたいことも違います。会社での役職に関係なく、同じ立ち位置でいかにひとつにまとまるかが課題でした。

まとまるために、みんなが楽しくやれるように、一歩引いて、必要に応じて入るといった立ち回りがとても勉強になりました。

現場ではスケジュールの変更も多く、マニュアル通りにいかないことも珍しくない。しかし、それを大前提に、いかにみんなで協力して対応できるか、臨機応変な立ち回りとチームワークが試されたという。

最後は、柔道のDALリーダーとしてまとめ役を務めたサプライチェーン戦略部の大島ひとみ。アスリートが純粋にスポーツに勤しみ、そのまわりで愛を持って応援するコーチらも含めた雰囲気や感動が忘れられず、前回の愛知大会に引き続き参加した。

会期中は、DALリーダーとして、柔道のアスリートやコーチが気持ちよく動けるようにサポートするだけでなく、事務局と他のDALの橋渡しのために終始走り回っていた。

柔道のDALリーダーを務めた大島

愛知大会後、SOとの繋がりを持ち続けたいと思い、SO愛知の活動にも個人的に参加していたという大島は、「自分はあまり主体的に動けないタイプだと思っていた」と話す。

「こういう場面だと意外と動けるものだなと気づかされた」そうで、あらためてSOを振り返り、今後活かせることについて話してくれた。

大島

大勢が関わる大会では、全体感がわからないなかで次はどうしたらいいのか、不安になる場面が多々ありました。

そうした経験を踏まえ、担当それぞれの動きをもっと明確にしたり、最初に連絡網を作ったりしておけば、事前の打ち合わせも含めてスムーズだと感じました。こうした予測できないことへの対応は、普段の業務が活きたと思います。

あらためて今回参加してみて、トヨタ内外を含めたDALのみなさんが、何がアスリートの笑顔に繋がるのかを真剣に考え、チームワークをもって主体的に行動する姿を見て、とても勉強になりましたね。

相互理解を深める一番の近道!

知的障害のある人とない人(パートナー)がチームメイトとなり、一緒にスポーツをするユニファイドスポーツ®。全国大会として今大会初めてユニファイドのボウリングが競技として加わった。

会場には、SO愛知代表として出場した本社工場機械部の掛水信行(パートナー)と、知的障がいのある松田雄太郎さんが互いに励ましあいながらボウリングをする姿があった。

松田さん(左)とパートナーを務める掛水(右)

「障がいの有無にかかわらず、全国各地から多くの人が集まり、リアルなコミュニケーションをとれる希少な場を心から楽しんでいる」と感想を話す掛水。

前回の愛知大会ではボランティアを経験。そこで初めて、ユニファイドスポーツ®と出会うことに。ボランティアからさらに一歩踏み込んで、ともに戦うアスリートとして、障がいのある人と同じ目線に立った交流を体験した。

その楽しさに押されるように、ボウリングのパートナーを務めるようになったというが、まだ34カ月ほど。「相方の松田さんが上手なので、最後まで引っ張られるようにがんばることができた」と笑顔で語った。どちらかがファインプレーをするたびに、ハイタッチをし合う姿が微笑ましかった。

SO広島大会にはその他、トヨタループスの神谷将之がSO愛知代表としてテニスに出場し、同じくトヨタループスの鈴木彩がSO東京の代表としてボウリングに出場した。

5歳からテニスラケットを握り始めたという、現在28歳の神谷。SO愛知ではコーチ兼選手として活躍。
東京から応援にきた家族や職場の仲間が見守るなか健闘した鈴木。家族とよくボウリングに行くなかでSOにボウリング競技があることを知り、2017年からチャレンジ

固定概念を外してみたら、価値観が書き換わり、これまで見えなかった景色が見えて、一気に視野が広がることがある。

今回、話を聞いた人たちは、初めから障がいがある人への理解があったわけではない。しかし、SOへの参加を通じて、そこに当たり前のように人と人との温かい交流があったことに気づかされたという。

「思っていた以上に楽しく、ときに考えさせられ、新しい気づきや学びがあった」と話す姿が印象的だった。

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