恩師や家族、チームメイト、7人制ラグビーに専念することを理解してくれた会社への感謝と明日への道のり。
表彰台にのぼり歓声やフラッシュを浴びるアスリートたち。その傍らには彼らを支える「人や技術」がある。バラエティに富んだサポーターはいかに集まり、どんな物語を生み出してきたのか。そこから未来への挑戦を可能にする「鍵」を探っていく。
会社とチームには感謝の言葉しかありません
2019年のラグビーワールドカップ日本大会では、日本代表の快進撃もあって日本中でラグビー熱が盛り上がった。2021年に予定される東京2020オリンピックのラグビー日本代表候補に選ばれているのが、トヨタ自動車所属の小澤大(おざわ だい)選手だ。
ただし、ここで少し説明が必要だ。まずワールドカップが15人制ラグビーで行われるのに対して、オリンピックのラグビー競技は「セブンズ」と呼ばれる7人制ラグビーとなる。15人制と7人制の両方をプレーする選手もいるが、小澤選手は7人制ラグビーに専念することを決めた。そこで2018年に日本ラグビーフットボール協会と、男子7人制日本代表チーム専任契約を結んだ。現在はトヨタ自動車から日本ラグビーフットボール協会に出向する形で、東京2020オリンピックでのメダル獲得を目指す7人制ラグビーの代表チームで活動している。
「気持ちよく代表に送り出してくれた会社とチームには感謝の言葉しかありません」と語る小澤選手は、7人制ラグビーに専念することになった理由をこう振り返る。
そしてもう一度、「出向して7人制に専念するというのはチームと会社の理解がないと難しいので、恵まれた環境にいると思います」と、感謝の念を口にした。小澤選手のお話をうかがってわかるのは、常に周囲に感謝の気持ちを持ちながらプレーしてきたということだ。それは、ラグビーを始めた頃から今に至るまで一貫している。
家族のサポートがあったからこそラグビーを続けられた
父と兄もラガーマンだったという小澤選手にとって、ラグビーは身近なスポーツだった。したがって小学生のときにラグビースクールに入ったのは、ごく自然な流れだったという。
ただし、進学した中学校にはラグビー部がなかった。
順風満帆だった選手生活で、初めての挫折
中学を卒業すると、小澤選手は岐阜工業に進学し、1年生からレギュラーとして活躍する。
けれども、花園に出場したのは1年生のときだけだった。キャプテンに任命されながら全国大会の準決勝で敗れてしまった3年生のときの悔しさは、今でも鮮明に記憶に残っているという。
「キャプテンシー」という言葉が使われるように、ラグビーにおいてキャプテンは重い役割を担う。なぜならラグビーの場合は、一度試合が始まると監督やコーチがサインを出して作戦を変えるようなことができないからだ。グランド上の選手だけでコミュニケーションをとり、いろいろなことを決めなければならないためキャプテンの責任は重大だ。
後に、小澤選手は7人制ラグビー日本代表でキャプテンを務めることになる。おそらく、高校3年生のときの苦い経験が糧になったはずだ。
ひとりではあれほど追い込んだ練習はできなかった
高校卒業を前に、小澤選手にはいくつかの大学から入学の誘いがあった。このなかで、流通経済大学を選んだのは、関東の一部リーグでラグビーをやりたかったことが理由のひとつ。そしてもうひとつ、流通経済大学の内山達二監督の“口説き文句”に心を動かされたからだ。
内山監督の指導のもと、3年生のときにリーグ戦で2位に入り、小澤選手は最終学年を迎えた。
高校時代は“自分たちの代”で悔しい思いをした小澤選手だったが、大学で見事にリベンジを果たしたのだ。
そしてリーグ戦初優勝を置き土産に、小澤選手は社会人となる。
職場の方が応援してくれるのがありがたかった
小学校から中学校、中学校から高校、高校から大学、そして大学から社会人とステップアップしてきた過程で、小澤選手が一番レベルの差を痛感したのはトヨタ自動車に入ったときだという。
日本のラグビーを強くして、普及させたい
そしていま、チームとして目指しているのは、“bee Rugby”、つまり蜂のように選手が動き回るラグビーだという。
“bee Rugby”を実現するにあたって大事なのは、スピードとフィットネス。大柄でスピードもある小澤選手は、まさに“bee Rugby”の申し子とも言える存在だ。
東京2020オリンピックの後や、現役を退いた後に思い描くセカンドキャリアを尋ねると、こんな答が返ってきた。
恩師や家族、チームメイト、会社やチームへの感謝を口にする小澤大選手。彼は、いつの日か自分を育ててくれたラグビーに恩返しをするつもりなのだ。
(文・サトータケシ)
小澤 大|Ozawa Dai
ラグビー
1989年、岐阜県生まれ。小学生よりラグビーを始め、岐阜工業高校に進学。1年生で花園(全国高等学校ラグビーフットボール大会)に出場。その後、流通経済大学に進学。関東大学ラグビーリーグ戦1部での初優勝に貢献した。卒業後はトヨタ自動車株式会社に入社し、トヨタ自動車ヴェルブリッツに加入。現在は日本ラグビーフットボール協会に出向中。趣味はショッピング、スポーツ観戦。