1969年誕生と歴史のあるトヨタ自動車応援団。彼らはなぜプライベートな時間を割いて応援するのか? 今回は応援団員に焦点を当てその楽しさや意義を訊いた。
トヨタの応援団はメンバー全員が社員
土曜日の朝、愛知県豊田市に位置するトヨタ自動車の社員向け屋内体育施設。「おはようございます!」と元気よく、スポーツウェアに身を包んだ男女が三々五々集まってくる。本日は応援団の練習日、間もなく開幕する都市対抗野球の東海地区予選に向けて、夕方まで入念にリハーサルが行われるのだ(註:その後、コロナ禍を受けて地区予選の応援は自粛となった)。
応援団団長、副団長から本日のスケジュールの説明があり、めいめいがウォーミングアップを終えたところでいよいよ練習がスタート、録音されていた音楽が室内に鳴り響く。アドバイザー役を務める応援団OBの男性が、「攻撃するイニングに切り替わる場面の演技です」と耳打ちしてくれる。
男性陣はいかにも応援団といった力強い動きを見せ、そこにチアリーダーたちの華やかなダンスが加わる。昔ながらの蛮カラな応援スタイルと、きらびやかなチアリーダーの動き。言葉にすると対極にあるように感じるけれど、間近で見ると違和感がないどころか、見事なハーモニーを奏でている。
音楽のリズムが激しくなる。「トヨタのバッターがヒットを打った、という設定です」とのこと。その後も得点シーン、選手ひとりひとりの応援歌、攻撃するイニングから守備のイニングへの切り替えなど、場面ごとの応援が繰り広げられた。
すぐ近くで見る迫力と、見事に統制がとれたチームワークに感心していると、前出のOBの方が「トヨタの応援団のこだわりは全員が社員だということです」と説明してくれた。応援団が13名、チアが19名の計32名で構成されるトヨタ自動車応援団は、助っ人の力を借りることなく、こうして自主的に練習を積んで運動部の応援を行っているのだそうだ。
忙しい業務の合間を縫って練習に励み、運動部を応援するために遠征までするのはどのような人物なのだろうか。午前の部の練習を終えた応援団団長の白坂幸一と、副団長の奥田浩祐に話を聞くことができた。
トヨタ自動車応援団に入団したきっかけ
トヨタ自動車の応援団が誕生したのは1969年。もともとは野球部の応援をするために組織されたが、その後、サッカーの日本リーグやバスケットボール部の試合にも駆けつけるようになる。現在は主に、強化部と呼ばれる7つの運動部の中で、硬式野球部、女子ソフトボール部、ラグビー部、女子バスケットボール部の4競技の試合を盛り上げている。
応援団に入って10年目の白坂団長と8年目の奥田副団長は、ともにトヨタ自動車の元町工場に勤務する。ただし団長が機械部、副団長が車体生技部の所属で、業務内容はまったく異なるとのことだ。まずは白坂団長に、応援団に入ったきっかけを尋ねた。
奥田副団長は、「僕は、そもそもすごい目立ちたがり屋なんです」と、入団の動機を振り返る。
応援団を続ける理由とそのモチベーションとは?
現在の練習スケジュールは、平日の午後6時半から9時までの練習が週2回。取材時のように大会が迫っているとそこに平日にもう1日、週末にも練習があてられる。
各競技のシーズンが始まると、週末は試合の応援となる。春先まで女子バスケットボールの試合があり、5月から都市対抗野球、女子ソフトボールが開幕する、それが終わり女子ソフトボール後節が始まる前の8月が1年で唯一、公式戦のない期間だ。
ここから都市対抗野球の本大会に向けた練習が始まり、秋には男女のバスケットボールとラグビーのシーズンが開幕、そしてまた春がやって来る。シーズンが重なっている競技もあり、たとえば硬式野球部と女子ソフトボール部の公式戦が同じ日に行われる場合は、応援団を2チームにわけてそれぞれの応援に駆けつけることもあるという。
応援団員は、業務をこなしながら練習に応援と、かなりのハードスケジュールをこなすことになる。休みの日に遊びに行きたいと思うことはありませんか、と尋ねると、奥田副団長は「僕の場合はないですね」と、きっぱり。
白坂団長は、試合会場で接するファンの方々との交流のほかに、アスリートに接することも応援のモチベーションになると語った。
男子はほぼ全員が未経験者
いま、白坂団長と奥田副団長が頭を悩ませているのが、人材難だ。チアは安定した入団希望者がいる一方で、応援団はなかなか、なり手が見つからない。
若手を応援団に勧誘するために、奥田副団長は新しい取り組みをしてもいい時期ではないか、と考えているという。
ただし、白坂団長は新しい取り組みは大歓迎である一方で、トヨタらしさは守っていきたいと語る。
トヨタらしい応援について、奥田副団長はこう付け加える。
大事にしているのはEnjoy Together
女子バスケットボール部の皇后杯(オールジャパン)での初優勝、硬式野球部の都市対抗野球初優勝、土砂降りのアウェイ戦で見たラグビー部の大逆転勝利……。ふたりにとって、思い出の試合は枚挙に暇がない。けれども、勝った負けたよりも、もっと大事なことがあるとふたりは口をそろえる。
白坂団長が大事にしているのは、「Enjoy Together」ということだ。
白坂団長のこの発言に、奥田副団長もうなずく。
興味深いことに、応援団を牽引するふたりは、自分たちが応援を引っ張っているとは考えていない。ファンや社員から後押しを受け、そのパワーをアスリートに向けて放つ代弁者的な存在が応援団なのだ。
(文・サトータケシ、写真・長江星河)
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