シェア: Facebook X

URLをコピーしました

評価ドライバーの感性は、クラウンシリーズの"乗り味"にいかに発揮されたのか?

2024.11.14

4つのボディバリエーションからなる16代目クラウン。トヨタならではの乗り味が生まれる現場に潜入!開発秘話が明らかに...。

なぜか、まっすぐ走らない!?

クロスオーバーならではの流れるようなスタイリングに起因する、空力特性も課題の一つとしてあげられる。MS製品企画のエンジニア、多和田貴徳はこう話す。

多和田

2019年からクラウン・MIRAIの車両性能を担当。その後、製品企画に異動しクラウンシリーズの車両性能開発を統括するエンジニア。

クロスオーバーのボディが完成してから足回りをセッティングするのではスケジュールにのりませんでした。
 
そこで、先行開発車のリア部分にクロスオーバーのボディ形状を発砲材で正確に再現し、走行テストを行いました。

すると、リアのダウンフォース不足により車体が浮いたような挙動が出ると、評価ドライバーから指摘を受けました。

クロスオーバーの車種担当評価ドライバーのリーダーとしてステアリングを握った、車両技術開発部の西野淳は、そのときの先行開発車の印象を以下のように語る。

西野

2010年から車種開発の部署で、LS4代目後期、クラウン14代目後期、クラウン15代目、LS5代目後期、クラウン16代目、クロスオーバー、エステートなどの開発に携わる評価ドライバー。

20〜30km/hくらいの低速域からリアの接地感が不足している印象でした。さらに速度を上げていくと、フロントを基軸にリアがピッチング(上下動)するような挙動も現れる。片山さんからも「まっすぐ走らない」という指摘を受けました。

一般的な解決策として考えられるのは、リアの挙動を安定させるダウンフォースを得るべくリアスポイラーを装着するか、ボディ後端をスポイラー形状に仕上げることだ。だが、美しいデザインは守りたい。そこで開発陣は、床下でダウンフォースを発生させるアイテムを採用することにした。

先行開発車のアンダーボディに洗濯板のような凹凸形状の整流パネルやフィンを装着し、4カ月ほど走行テストと改良を重ねることで、走りを安定させることができた。

こうした空力アイテムによる操縦安定性の追求は、クラウンネスを実現するうえで非常に大きな効果があると評価ドライバーの片山は語る。

片山

一般的にボディを安定させるためには、サスペンションをハードな方向にふっていく必要があります。

しかし、それではクラウンならではの上質さや乗り心地の良さは実現できません。逆に、空力アイテムによって安定性を確保できれば、サスペンションのセッティングは快適性の方向にふれるからです。
デザインチームとの協議のうえ、ボディ後端にもデザインを阻害しない程度に空力処理が施された。

とにかくナチュラルな乗り味に

クロスオーバーでクラウンネスを実現するうえで、もうひとつ大きな役割を果たしたのが、後輪操舵システム「DRS(ダイナミックリヤステアリング)」だと片山は語る。

60km/hまでの低中速域では、後輪を前輪と逆位相にステアすることで取り回し性や回頭性を向上させ、60km/h以上では同位相に切ることで走行安定性を高める電子制御アイテムだ。

これにより、サスペンションはソフトめでクラウンならではの乗り心地を確保しつつ、低中速域では優れた取り回し性や回頭性を、高速域では例えばレーンチェンジなどでボディの揺れを抑えて安定した走りを実現できる。

さらにクロスオーバーでは、これまでのFRセダンの上質な乗り味と操縦安定性を実現させるため、電子制御アイテムも導入した。

入社以来、シャシー設計一筋に携わってきたMSプラットフォーム開発部のエンジニア、岡部高明は、クロスオーバーのEPSについて以下のように説明する。

岡部

2019年からクラウンシリーズ・MIRAIのシャシー設計・開発を担当。入社以来、一貫してシャシー設計のエンジニア。

クロスオーバーはセダンとSUVの間に位置するモデルですが、従来のクラウンのような回頭性を実現すべく、基本的にEPSはセダンと同様のハードを採用し、ステアリングギア比も一般的なSUVよりもクイックにしています。

通常、EPSをクイックな方向にセッティングすると、クロスオーバーのようにリフトアップした車両は不安定になりやすい。特に、上質な乗り心地を確保するためにサスペンションをソフト方向にふっているクラウンでは、それだけ敏感な挙動を示す。

それゆえ、DRSやEPSといった電子制御アイテムが完璧にチューニングされていないと、逆に違和感のある乗り味になってしまうという。

片山

トヨタのクルマ全般にいえることですが、ドライバーにとってもパッセンジャーにとっても、違和感がある乗り味は絶対にNGです。とにかく、電子制御アイテムの存在を感じさせないナチュラルな乗り味にこだわりました。

DRS、EPS、AVSといった電子制御アイテムには、それぞれチューナーが存在する。片山たち評価ドライバーは、各担当者と密にコミュニケーションを取りながら、ベストな乗り味を追求したという。

片山とともにクロスオーバーの開発に携わった車種担当評価ドライバーの3人。左から、凄腕技能養成部の相良優斗、車両技術開発部の伊藤竜平、そしてリーダーを務めた車両技術開発部の西野淳。
西野

通常は、AVSからDRS、そしてEPSというように、前の制御状態に合わせて順番にチューニングを行い仕上げます。

ところが今回は、DRS後にAVSに戻ったり、DRSとEPSをチューニングした後にもう一度DRSに戻ったり、違和感を覚える制御を前工程に戻り徹底的にやり直しました。より時間と手間をかけて適合を行った甲斐があって、よいクルマができたと思います。

走り出した瞬間から伝わるクラウンらしさ

こうした過程を経て、クラウンならではの乗り心地を確保しながら、優れた回頭性と操縦安定性を実現した開発陣。しかし、片山にはクラウンならではの上質さについて、満足できない部分があったという。

片山

クラウンが一番大事にしている、走り出しから20km/hくらいまでの質感をもう少し向上させたかったです。

例えば、ひび割れたようなアスファルト路面を走ったときに、ステアリングやシートから、わずかですがブルブルと振動が伝わり、こうした現象を何とかする必要があると思いました。

走り出した瞬間から伝わるクラウンならではの滑らかな乗り味。これを実現させたかったと片山は力強く語る。

片山

これまでの経験から、例えばサスペンションのスプリングやスタビライザーにゴムなどで制振してあげると、走り出しの質感が向上することが分かっていました。足まわりの微細な振動を抑えることができるからです。

とはいえ、量産を前提とした工業製品として、それをどう実現すればいいのか?これについては、シャシー設計の早川さんたちに相談しました。

片山から名前があがったのは、MSプラットフォーム開発部のエンジニア、早川達哉。入社以来、一貫してサスペンション開発を担当し、クラウンのプロジェクトには先代より携わっている。

早川

2019年からクラウン・MIRAIのサスペンション設計を担当。入社以来、一貫してサスペンション開発を担当。

いろいろとアイデアを出し合って検討した結果、スプリングには樹脂製のチューブを巻くことにしました。一方、スタビライザーやサスペンションアームには、チューブを巻くのが生産工程上難しかったため、どうすれば同様の効果が得られるのかを悩みぬいた結果塗料の塗膜を厚くすることにしました。

これらが功を奏し、走り出しの上質感を満足できるレベルまで高めることができた。こうして、評価ドライバーとエンジニアたちによる奮闘により、新しいクラウンシリーズにおけるベースとなる乗り味が、クロスオーバーに実現したのだ。

次回は、クラウン スポーツの走りの味づくりについて。スポーツを名乗るモデルでも、クラウンとして譲れないこととは?

クラウン クロスオーバーの評価ドライバーとエンジニアたち。
Facebook facebook X X(旧Twitter)

RECOMMEND