「もっといいクルマづくり」の重要拠点、士別試験場。評価ドライバーが安全に評価できる試験場の工夫が次々と明らかに。
これまで士別試験場での寒冷地試験について紹介してきた。
この取材を通じて印象に残ったのは、「安全」という言葉が繰り返されたことだ。
様々な環境で車両の限界を確認するなど、一見危険を伴うように見える評価ドライバーはどのように安全な職場環境をつくっているのか。
今回は、事故なく安全安心に試験を行えるように見守っているメンバーに密着した。
雪壁の青いラインの正体
冬季の士別試験場のコースを進んでいくと、周囲の景色は雪で白一色。その雪壁には青いラインが描かれていた。一体、これは何なのか。
コース管理を担当する鴇紀夫(とき のりお)が、青いラインを描くようになったいきさつを教えてくれた。
鴇
北海道の人は慣れているので真っ白い雪の壁と、路面の境目を見極められます。
でも本州から来たばかりの出張者は目が慣れていないので、路面の境目が分からず雪壁に接触することがありました。
20年ほど前、道路公団が北海道の高速道路で試験的にラインを描いたことがありました。それをヒントに士別試験場でもやってみて、路面と雪壁の区別がつけられないかと職場で取り組みました。
鴇によると、雪壁にラインを描く試みには紆余曲折があったという。
鴇
当時は水を噴射できるクルマが消防車しかなく、そこにノズルを付けてラインを付けていましたが、車体が大きく小回りが利きませんでした。そこで、小型トラックを改造して現在の青いラインを付ける車両をつくりました。
ラインの色はいろいろと試して、最終的に昼夜問わず視認性の高い青色に決定しました。食紅と同じ成分なので、自然環境にも負荷をかけません。
雪壁に突っ込んでスタックしてしまうケースも激減しました。
ほぼ毎日行われるという、この雪壁着色作業の効果は絶大だった。
雪壁の青色ラインとともに、コース脇のスノーポールが真っ白な場内での運転を助けてくれる。けれども、春になると厄介者になるという。
地面に深さ30cmぐらいのアンカーを埋めて、そこにスノーポールを刺す構造になっている。冬季には約2000本のスノーポールを設置するが、このうち3割~4割が凍って抜けなくなるというのだ。
スノーポールが抜けないと、夏季のテストに向けたコース設営ができない。このスノーポールを簡単に抜けるような治具を発明したのが鴇だ。
鴇
僕はもともと車種担当で、評価ドライバーとして開発に携わっていました。みんながスノーポールで苦労しているのを知っていたので、コース管理を希望して異動した際に、最初に解決しようと思いました。
評価ドライバーの視点を持った鴇だからこそ、これまで仕方がないと思われていた問題が解決したのだ。
救急車両に眠る、特殊機材たち
万全の備えをしていても、万が一の事故が起こる可能性はゼロではない。
車両技術開発部士別試験課でコースの管制を担当する片岡真治がバックヤードに案内してくれた。そこには、救急車と救助工作車の2台の緊急車両が用意されていた。
コース管理に携わる8名のうち、6名はオレンジ色の訓練服を着用し、いざというときにはレスキューとして現場に急行する。
片岡
以前、私は保安の部署に所属して、レスキューなどを担当していました。
しかし、テストコースの安全性を考えたとき、どこで誰がどんな試験をやっているかを把握しているコース管理の部署が、レスキューを担当したほうが好ましいということになりました。
救急をより理解するために、みんなで日本赤十字の救急法の資格を取ろうと話して、実際に取得しました。
日赤では心臓マッサージや人工呼吸の講習を受け、ケガの手当てをする訓練も行い、万が一の事態に備えています。そして、もう少しレベルアップしたいと考え、救急法の指導員の資格も取りました。試験場には看護師も常駐しているので、何かあったら看護師も駆けつけます。
また、日頃からさまざまな特殊機材を扱う訓練も受けているという。普段使われることはないというが、救急車両の中を見せてくれた。そこには、見たことがない器具が。
これは一体、何のために使うのか。