「もっといいクルマづくり」の重要拠点、士別試験場。評価ドライバーが安全に評価できる試験場の工夫が次々と明らかに。
安全に必要な評価ドライバーの目線
片岡
テスト車両がクラッシュして車体が潰れてしまったときに、ドライバーを救助するためにボディを切ったり広げたりするための器具です。
万が一に備えて日頃から訓練していますが、実際に使用したことはありません。
次に、同じくコース管理の平川大貴が、安全確保の取り組みについて教えてくれた。
一日の仕事は朝のコース点検から始まるという。
平川
コース点検は一日に3回で、万が一車両が滑って突っ込んでも、大事故にならないように設置したサンドバンカーやクッションを点検します。
鹿などの動物がコースに侵入していないかをモニターでチェックするのも、我々の仕事です。実際に試験が始まると、管制からの監視業務に移ります。
平川はそう言いながら、カメラの映像を映すモニターが並ぶ一角を案内してくれた。
本社や東富士研究所からの出張者には、試験計画書というものを提出してもらうという。どういう試験を望んでいるのかを聞いて、効率よく試験が行えるようコースの準備やスケジュールの調整を行うのだ。
評価ドライバーからの要望には、特殊な試験内容もあるというが打ち合わせがスムーズに進むのには理由がある。
平川
私はコースを熟知しているだけでなく、評価ドライバーとしてトヨタの試験車運転資格で上から2番目にあたるS1を保有しており、200km/h以上の試験を行うことができます。そのため、テストを行う人間の目線で準備ができます。
たとえば、不安定な走り方をしている車両をカメラで見つけて管理することで、未然にトラブルを防ぎます。
評価ドライバーとしての高い技能で危険を察知し、データでは把握できない安全を管理しているのだ。
片岡
事故がないことが第一ですがいざというときに、いち早く仲間を助けたいという気持ちがあります。だから救急も、車体の構造も最新の情報にアップデートするよう心がけています。
北海道には自動車メーカーや部品メーカーなどがいくつかテストコースを持っていますが、レスキューを立ち上げたのはトヨタが最初でした。他社も見学に来られて、情報を交換しています。
ただし、最新装備の救急車も、事故によりつぶれた車体のドアを開いたり屋根を切ったりする機材を積んだ救助工作車も、実際に出動した記録は残っていない。それでも万が一のときのことを考え、入念にレスキューの準備をしているのだ。
評価ドライバーの仕事は、クルマにかかわることだけではなく、コースの安全管理も重要だ。仲間のために緊急医療を学び、出動しない緊急車両をスタンバイ。そして、寒冷地試験に携わる一人ひとりのアイデアや気配りが「もっといいクルマづくり」につながっているのだ。