「もっといいクルマづくり」の重要拠点、凄腕技能養成部を徹底解剖する企画。今回は、数値化できない"乗り味"の正体について。
ヘルメットをかぶらない理由
コーナーや勾配だけでなく、舗装の質にもこだわった。
たとえば、ドイツのニュルブルクリンク近郊の田舎道を再現した路面もある。シミュレーターで設計して、3層の塗装を施してから細部の微調整まで行ったというから、実に凝っている。
ほかにも、横断排水路を乗り越えた瞬間のショックを観察する路面、実線部分と破線部分で舗装の種類を変えて乗り心地を比べる路面など、多種多様だ。
第1、第2周回路を合わせれば、世界中の路面が揃っているというから、1日で世界1周ができるといっても過言ではない。
これだけの施設なのに、矢吹主査は「でもやっぱりテストコースだけでなく、日常と同じ一般道を走ることが大事」と語った。
矢吹主査
ハードなテストコースに合わせると、やわらかすぎるサスペンションになってしまうということがあります。テストコースと一般道のバランスが大事です。
お客様と同じコンディションで乗るのが大事。その思想は、ヘルメットにも表れている。
矢吹主査
通常の走行テストではヘルメットはかぶりません。
サーキットや超高速域でのテスト走行では、耳の部分が出るヘルメットを使っていますが、普段、フルフェイスのヘルメットをかぶって運転する人はいないわけですから。同じ理由で、手にはドライビンググラブもはめません。
取材の最後、リラックスした雰囲気で「これまで手がけたクルマで、いちばん気に入っているクルマは何か」矢吹主査に尋ねてみた。
すると間髪入れず「ないですね」という答が。果たしてどういうことなのか。
矢吹主査
いつも考えているのは、もっといいクルマをつくりたいということです。トヨタのクルマもすごくよくなっているし、ヨーロッパのライバルに比べて勝っているところもある。
でも油断をしていると、ライバルはあっという間にもっとよくなる。だからクルマづくりにゴールはないわけで、現状で満足したら終わりだと感じています。
「ない」という答えは、現状に満足せずにさらに高みを目指す、矢吹主査の揺るぎない意志の表れだったのだ。
今日もまた、凄腕技能養成部の評価ドライバーたちが、テクニカルセンター下山で「もっといいクルマづくり」に励んでいることだろう。