車内から湯気だらけの人! 介護予防の現場で何が起きている!?

2025.02.18

お風呂に入るという何でもない行為が、高齢者には命のリスクに。入浴介助は負荷も大きい。そこでトヨタが開発したものとは...

長野県飯山市。冬には多くのスキー客が訪れるこの町で、トヨタがある実証実験をおこなっている。

駐車場に停車しているハイエースから湯気に包まれた人が降りてきた…。体中からモクモクと異常なほど湯気。一体何が起こっているのか!?

実はこのハイエース、NUKUMARUと名付けられ、車内はミストサウナになっているのだ。

交通事故の約2倍の方々が、お風呂で…

「僕のおばあちゃんも、訪問介護のサービスを利用していて。入浴介助を見たとき、介護ってこんなにも大変な仕事なのか…と衝撃を受けたんです」。

そう語るのは先進モビリティシステム開発部の瓦口だ。

先進モビリティシステム開発部 瓦口翔馬

入浴介助は本当に大変。でも、お風呂に浸かっている本人は一週間でいちばん笑顔になれる時間なんです。この幸せを守りたい。そんな想いで新たなモビリティ活用の社内公募に応募しました。

まず、500人ほどの介護関係者に入浴介助についてヒアリングしました。するとやはり「介護する側はのぼせるし、負担が大きく身体を壊す人も多い」という声ばかりでした。

問題はそれだけではない。

高齢者の浴槽内での「不慮の溺死および溺水」の死亡者数は、交通事故死亡者数のおよそ2倍というデータが…。令和3年の厚生労働省人口動態統計によると、年間4750人。単純計算で毎日13人もの方がお風呂で命を落としていた。

出典:政府広報オンライン(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202111/1.html


だからこそ、溺れるリスクのない移動式ミストサウナの意義は大きい。

瓦口は当初、大きな箱型のモビリティe-Palette内に、バスタブを設置する案を考えていた。しかし浴槽には300リットルの水が必要。重量だけでなく、運用面でも難しさがあった。

そこで着目したのが、浴室に1015分座っているだけでお風呂のような効果のあるミストサウナだ。

細かいミストが肌に浸透し、老廃物が乳化されて肌表面に浮き上がる。それを汗が流してくれるので、最後に拭くだけできれいになる。水の量も12リットル程度。介助側の負担を大きく減らせることも特徴だ。

だが、ドライサウナと違ってミストサウナでどこまで温まることができるのか。瓦口と同じ先進モビリティシステム開発部の浅見はこう語る。

先進モビリティシステム開発部 浅見里咲

皆さん、最初は半信半疑ですが1015分も入っていると汗だくになります。体の芯まで温まって、手先や足先の冷えも改善されると驚かれます。

冒頭の湯気だらけの利用者を見てもわかる通り、体の芯までポカポカになる。

70代の男性は「サウナは暑過ぎるけど、これなら42℃くらいで気持ちいい。温泉より汗をかいている気がする」と語る。また別の男性は「入ってすぐに温まれる。お酒も抜ける感じがする(笑)」と、大粒の汗をかきながら教えてくれた。

溺れるリスクがなく、ドライサウナのような息苦しさもない。シニアでも心身ともにリラックスしやすいのだ。

突然、トヨタから電話が

それにしても、なぜ飯山市で実証実験がおこなわれているのか。

先進モビリティシステム開発部 瓦口

ミストサウナが介護サービスとして成立するか。汗を拭くだけできれいになるかなど、価値の立証が必要でした。

全国の自治体に、片っ端から連絡して協力を仰いだところ、飯山市さんが興味を示してくれたんです。

飯山市の担当者は「自動車メーカーとお仕事することがなかったので、トヨタさんからの突然の電話にはびっくりしました。『どんなご用件でしょうか…』といった感じで」と振り返る。

デイサービスが一般的な今、飯山市に移動入浴車はほぼなかったという。だが「あったらいいな」という声もあり、サービスの選択肢を広げるために市も実証実験に協力することになった。

NUKUMARUの車内。ドアを開けると洗髪シャワーもある休憩・着替スペース、その横にはミストサウナの浴室。リラックスさせる音楽も流れ、ハイエースの車内とは思えない空間だ

実証実験は、市役所の尽力もあり80人ほどの市民が参加。果たして結果は…。