自動車業界を匠の技で支える「職人」特集。第17回(後編)では、新しいセンチュリーの本杢パネルを具現化した「加飾開発の匠」に話を聞く
レーザーによる初めての試みに挑戦
一方、意匠上の問題はどうか? 今回の加飾パネルで「シンプルな贅沢」を表現するうえで重要な要素となる、ストライプ柄に挑戦があったと生方氏は語る。
生方氏
当初、ラインの入れ方について数パターンを提案させていただいたのですが、最終的に今回の細くシャープなラインでストライプを表現する案に決まりました。
加飾パネルは化粧材とアルミ板、そして芯材からなる3プライシートですが、この細いラインはレーザー加工で化粧材を焼くことで、2層目のアルミを露出させたものなのです。
木材にレーザー処理を施すのは、管楽器に刻印を入れる際などに一般的で、やはり楽器づくりで培われた技術です。
レーザー処理により入れられるラインの幅は、最小で0.2ミリとかなり精細だ。センチュリーのデザインチームと生方氏たちは、何度もラインの幅を変えながら試作を行った結果、意匠上の観点から0.6ミリに落ち着いたという。
では、このレーザー処理によるライン入れの難しさはどこにあったのか?
生方氏
0.6ミリのストレートなラインというのは、意匠としては極めてシンプルです。先ほどもお話ししたとおり、今回はサペリという端正な柾目の化粧材を用い、表面の導管まで意匠として露出させるようなオープンポアという塗装を施しています。
シンプルな表情の化粧材とシンプルなラインの組み合わせなので、導管の入り方や厚みのムラなど、ちょっとしたことでイレギュラーな部分が目立ってしまったり、ラインが奇麗に見えなかったりしてしまうんです。
そこで、まず化粧材の柾目や導管と細いストライプの相性を考慮しながら、より厳しい目で墨掛けを行う必要があったのですが、そこは金子さんたち墨掛けのメンバーのおかげでクリアできました。
また、平面の状態でレーザー処理した3プライシートをプレスで成形したり、裏側の樹脂製の構造体と一体化させるのですが、プレスの圧力によって本杢の表面が潰れることで、木目感が消えてしまったり、ラインがクッキリとシャープに出なくなってしまうんです。
これについては、3プライシートの材料構成(層の厚さ)や、プレスの成形条件などを見直したりすることで対処しました。
さらに、塗装工程では、化粧材とアルミという異なる素材に対し塗装を施すことになるため、色味の調整や塗料の選定でも試行錯誤があったという。
生方氏
試行錯誤の中、トヨタのデザインチームの方々に「本杢という本物の素材だからこそ、ラインのガタツキや色のバラつきが発生してしまうんです」とご相談したことがありました。
そのときに「シンプルだけど贅沢だからこそ,きれいな直線性が出ていることが重要.ぜひそこに挑戦してほしい」という言葉を頂き、その強い想いが伝わりました。期待に応えたいという気持ちでなんとかカタチにすることができました。