カーデザイナー特集の第三弾は「クルマの外形デザイン」。大胆なデザインが生まれるのには理由があった。
まずは、下の写真をご覧いただきたい。これらの旧車に見覚えがある人も多いのではないだろうか。
豊田市本社のデザイン本館と呼ばれる施設の入口に並べられた1/5スケールの旧車たち。見るだけで懐かしさを感じるように、クルマのデザインは多くの人の記憶とともに生き続ける“時代の象徴”と言えるかもしれない。
そんなクルマの外形デザインはどのように生み出されるのか。取材を進めると、最新のデザイン現場の裏話が明らかに・・。
新型クラウンのデザイナーは、誰でしょう
それは、異例だったようにも思える。今年7月、新型クラウンの発表と同時に数多くのメディアが次々と「デザイン」について取り上げたのだ。そんな話題を生んだクラウンのデザイン担当者が、この写真の中にいる。
「はい」と手を挙げたのは、写真右側に座るMSデザイン部の矢野友紀子主任だ。今回の取材の中では最年少の女性デザイナーである。おそらく、世間の誰もがクラウンという車種をして無意識に真逆のデザイナー像をイメージするに違いない。まさか、である。
ただ、これこそが豊田社長の言う「16代目のクラウンの明治維新」であり、次世代のモビリティ社会を見越したトヨタのデザインを象徴する進め方かもしれない。
リフトアップボディが特徴の新型クラウン。豊田社長が「『日本のクラウン、ここにあり』。それを世界に示したい」と語るほど重要な一台は、どのようにデザインされたのか。
クラウンの明治維新、その裏では・・
今回の新型クラウンのプロジェクトが始まった頃、矢野主任は“セダン研究”に携わっていた。若者から敬遠されがちなセダンを研究していた理由とは。
矢野主任
「セダンをなくさないで」という社長の想いから生まれた研究が“セダン研究”でした。若手からベテランまでが参加して、セダンの良さとはどういうことかと話し合って出てきたのが、16代目クラウンで採用された“リフトアップセダン”というアイデアだったんです。
セダンの優位性はリヤの荷室と、人が乗る車室の間に壁があることによる乗り心地の良さである。「ならば(乗り心地を高めるために)セダンは車高を低く抑える必要がないのでは」という声が出た。
さらに床下にバッテリーを積み、車高が高い電気自動車が増える世の中であれば、セダンがリフトアップしていても視覚的に受け入れられるのではないかとアイデアが膨らんだそうだ。
矢野主任
“セダン研究”ではひとまずパッケージングは一切無視して、いかに新しいセダン像をつくるかに集中していました。リフトアップさせて、(左右のタイヤ幅を広げた)ワイドトレッドにして、大きいタイヤを付けてと自由にやっていました。
楽しそうに語る矢野主任の話を聞いていると、セダンが古いのではなく、「セダンとはこういうものだ」と決めつけていた考えが古かったのだと気づかされた。このような斬新な発想が生まれる土壌が今のトヨタのデザイン部にはあるという。
ベテランと若手、発想の違いをチカラに
トヨタのデザインの現場では、チームプレーが重視されている。世代ごとの感性や価値観、そして情報の違いを活かしているのだ。レクサスデザイン部の木村大地主幹はこう続けた。
木村主幹
若いデザイナーには、積極的にチャンスが与えられます。やはり発想やセンス、新しいツールを活用できる柔軟性に優れていますから。
私たち世代と比べて、SNSにも親しんでいて、インスタグラムやピンタレストというサービスを使って世界中の洗練されたデザインに早くから触れている。そんな若い世代の発想を活かそうという流れは、トヨタにもレクサスにもあると思います。
その一方、例えばフロントグリルに必要な開口面積といった、性能や製造に関わる制約などはベテランのほうが詳しく、解決策の引き出しも多い。
そのため新車の開発プロジェクトでは、発想の違いによる化学反応を期待して、あえて幅広い世代でチームを構成し、年配者が若手のメンターになるようにチームが組まれるそうだ。