カーデザイナー特集の第三弾は「クルマの外形デザイン」。大胆なデザインが生まれるのには理由があった。
「スピンドルを壊せ」事件
2020年5月、デザイン部に衝撃が走った。いよいよ次期RXモデルの製作が大詰めを迎えた開発後期、豊田社長から「スピンドルグリルを壊してください」という想定外のリクエストが入ったのだ。
スピンドルグリルは、これがレクサスであると示す重要な部分だ。「スピンドルグリルを壊してください」という言葉に込められた真意は何か。
社内でデザインが承認される審査まで、わずか2カ月しかない。粘土でつくるクレイモデルの制作期間を除くと、デザインにかけられる期間は3週間ほどしかなかった。
レクサスデザインの平井望美主任は、こう話す。
平井主任
レクサスが大事にしてきたスピンドルをどう壊すべきか、ブレストを重ねました。
とにかく「否定するのではなく進化させよう」となり、各自が自由な発想でデザインスケッチを描いてみました。手を動かしてみて、そのなかでいいものを見つけようというやり方でしたね。
その結果、まったく新しいレクサスの顔が完成する。スピンドルグリルを進化させた“スピンドルボディ”だ。
平井主任によると「冷却性能で求められるギリギリの位置まで上部の穴をふさぎ、グリルとボディをグラデーション状に緻密につないだ」という。これまでのスピンドルグリルとはひと味違った趣を見せている。
大胆なデザインが生まれる理由
RXと同時期に開発していたのが、レクサス初のBEV専用モデルRZだ。こちらのスピンドルボディの開発秘話を、担当の木村主幹が教えてくれた。
「電動化に向かう中で、冷却開口のグリルに頼ったアイデンティティ表現ではなく、“カタマリ”でブランドの個性を表現する方向を選びました。RZではグリルの部分にあえて穴をつくらず、写真の“ネガポジ反転“のように穴をふさぎました」。
自分たちで築き上げたものに固執せず、マインドセットを変えたからこそ生まれたデザイン。豊田社長の「壊しなさい」という発言は、守りに入らず「凝り固まってしまった発想を壊しなさい」という意図だったのだ。
幅広い世代のチーム全員で「もっといいクルマづくり」に向き合う。そこにはデザイナーが大胆にチャレンジできる空気が漂っていた。
「走ること」もデザインを仕上げる工程
最後に、木村主幹は「オフィスだけではなく、テストコースも重要な仕事場」だと教えてくれた。
木村主幹
レクサスは走りを大事にしていますし、エンジニアとも共通言語で会話ができるように、運転技術を磨くことが重要だと考えています。きちんと理論立てた技術を学ぼうと準上級の社内ライセンスを取りました。
以前も少数ながらデザイナーで運転がうまい人はいましたが、近頃はちゃんと運転もできるようになろうという流れができつつあるように思います。
テストコースで試作車両に乗り、走りの味を体感。現地現物でさまざまな視点からもデザインをチェックする。それを人任せにすることなく、徹底的に関わっていく。
さぁ、次はどんなデザインのクルマが発表されるのか、楽しみにお待ちいただきたい。