トヨタがピザやクロワッサンを焼く理由を聞くと、世界初のチャレンジだった

2024.05.23

本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は石窯でピザづくり!?

業務時間中に、せっせとピザ生地を伸ばし、チーズを振りかけ、石窯でピザを焼き上げる。その目は真剣だ。さらには「家でもたくさんピザを焼いています。かなり上手くなりました」と話す。

なぜ、トヨタの社員がピザをつくっているのか。話を聞くと、なんとピザを焼く石窯も自分たちでつくったという。一体何をしているの!?

何がすごい?世界初の水素石窯

トヨタの社員がピザを焼いていた理由、それはこの丸い物体。ガス機器でおなじみのリンナイとトヨタが共同開発の中で一緒につくった世界初の「水素石窯」での調理テストだ。

エネルギー源としてあらゆる可能性のある水素だが、実は調理面でも大きな可能性を秘めている。

水素は燃焼温度が高い。さらに燃焼時に酸素と結合して水蒸気が発生するため、表面はカリッとしつつ、中はジューシーに調理できるという。

たとえばキノコや野菜をイメージしていただきたい。

薪や炭を使ったBBQだと乾燥してパサパサになってしまうが、水素調理だと火の通りが早く、水分が溢れ出るほどおいしく焼き上がる。それにしても、なぜトヨタが水素調理を?

食ならば自分ゴト化しやすい

トヨタとリンナイの担当者に水素石窯の開発経緯を聞いた。すると、みな同じように「水素社会の実現には、まず水素を身近に感じてもらうことが大事」と話す。

素形材技術部 開発試作課 白川篤 組長

まだ私たちの家の近くに水素ステーションがないという現状があります。水素社会を身近に感じづらいなかで、食という「生活圏での水素の利活用」はチャンスだと思いました。食をフックに水素社会への裾野が広がれば嬉しいです。

この水素石窯は、昨年のジャパンモビリティショーでもお披露目され、焼きたてのピザやクロワッサンが提供された。

会場を訪れた子どもたちからは「また食べたい」「自由研究のテーマにしたい」など大きな反響が。リンナイの担当者も「子どもが水素に興味を持つなんて今までなかった」と驚いた。

素形材技術部 製品開発室 中島徹也 主任

うちの子どももモビリティショー以来、水素クロワッサンを食べたがるようになりました(笑)。会社でピザを焼いていると遊んでいると思われそうですが、水素社会をリードしていきたいという強い思いがあります。

一方、世界初の水素調理機だからこそ課題も多い。安全基準がまだ確立していないのだ。

素形材技術部 製品開発室 林竜之

水素調理機に関して認証制度はまだありません。基準がないなかでモノづくりをする難しさはあります。答えがないので自分たちで考えて行動していくしかありません。

リンナイの開発担当者、野々山さんも苦労があったと語る。

リンナイ 開発本部 技術開発部 野々山昌生さん

安全に関するガイドラインづくりなど、最低限抑えなければならないことをトヨタさんと協議して、課題点を出し合い解決しながらイベントなどに出展してきました。

答えがないからこそまずは行動する。すると課題が見つかり改善できる。その地道な繰り返しが未来を切り拓いていくのだ。

クルマづくりが水素石窯に役立つ?

安全な水素調理機の実現には、リンナイがもつ燃焼技術の強みだけでなく、トヨタがクルマづくりで培ってきた知見も生かされている。

たとえばクルマの製造工程で、燃焼炉の安全制御に使われている技術や、塗装の乾燥炉における技術。また燃料電池車MIRAIで培った水素を安全に供給管理する技術も生かされている。

長年トヨタの工場で組長を勤めてきた高橋は、現場目線でこう話す。

素形材技術部 製品開発室 高橋建次シニアエキスパート

製造現場では、発生しうる様々なリスクを想定して、日々生産管理を行います。開発プロジェクトでも最もネックになりそうなところを予め洗い出し、優先順位をつけて対策を打ちます。

その中でも自分の製造現場での経験を生かし、常に創意工夫して改善する。現場で鍛えたモノづくりの力、仕事の進め方は、あらゆることに応用できます。

エンジニアの力と鍛えられた現場力。双方で進めるのがトヨタのモノづくりだという。次のページでは、まだどこにも公開されていない水素調理機を初公開!

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