トヨタのサッカーロボ!?28,000人もの"謎の技術集団"の正体も明らかに!

2023.07.07

本業とは関係ないような取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は、元日本代表も驚いたサッカーロボ!?

2022年、サッカーFIFAワールドカップでは、惜しくもPK戦で敗退した日本代表。そんな中、トヨタ社内ではとんでもない秘密兵器が生み出されていた。

その名もサッカーロボット「PIXI(ピクシー)」。狙いのコースに次々とPKを決める、世界初の水素で動く自立サッカーロボだ。

元日本代表が「僕よりうまい」と唸った

なぜトヨタがサッカーロボットを?という疑問はさておき、さっそく実力を見ていただきたい。

元日本代表の都並敏史さんは「PKで細かく狙うのは、実はプロでも難しい。僕よりうまいね(笑)」とコメント。

特に、つま先を使って上の方を狙うのは難しいという。さらにこのPIXI、なんと時速85kmの強烈なシュートも放てるそうだ。

大学生が平均時速80km程度といわれる中、都並さんも「かなり早いね!」と驚く。「力が強ければいいわけではなく、上半身のパワーを下半身に流すことが大事。でも、ロボットにPKを取って代わられたら困るね」と笑顔で話す。

謎の巨大技術集団。その実態とは?

しかしなぜ、トヨタがサッカーロボットをつくったのか。

開発を手掛けたのはトヨタ技術会のメンバーだ。この団体か、聞けば聞くほど不思議な集団だった・・

車両製造技術開発部 村井裕樹 主任

1947年から続くトヨタ技術会は、高い志とチャレンジ精神を持つメンバーが技術力向上を目指して集まった団体です。

「戦後の苦労が多い時代、新しい技術をどんどん研究して何でも挑戦しよう」と誕生。半世紀以上トップダウンではなく、ボトムアップの組織として活動しています。

驚いたのが、会社の部署ではなく、自主的に集まる有志団体だという。しかも通常の有志団体とは大きく異なる点がある。

経営メンバーである中嶋副社長が会長を務め、会員数はトヨタ社員なんと28,000人。専任メンバーには、会社から開発費用や研究室が与えられ、技術・技能・意識の向上を目指してプロジェクト活動が仕事になる。

さらに、プロジェクトで挑戦したことの学びや成果物を共有することで、会員全体の意識変化につなげていくことも目指している。

個人の成長。さらには、イノベーションが生まれやすい環境を会社がバックアップしていたのだ。

2017年まではソーラーカーなど、クルマに関する研究が中心だったが、2017年、潮流が大きく変わる。

モーターユニット開発部 井出充洋 主任

トヨタ技術会の発足70周年の節目もあって、当時の内山田会長が「今までとは違うものをつくろう」と呼びかけ、AIバスケットボールロボットをつくることになりました。

その後は「海のゴミを回収する魚ロボット」などを開発してきました。

左から「海のゴミを回収する魚ロボット」「縄跳びロボット」「鳥型のモビリティ」

“かなり変なもの”をつくっているように思える。その理由を前出・村井主任はこう話す。

村井主任

研究の目的は2つあります。

「新領域への挑戦で技術力向上」と「挑戦を見てもらうことで、他のメンバーのモノづくり魂に火をつけること」。

興味を持たれなければ、ただの自己満足。だからこそ今回は、人種や年齢を超えて楽しんでもらえるサッカーに着目しました。

サッカーロボに決まるまでに100案もの没案があったそうだ。「自動運転ママチャリ」「流鏑馬(やぶさめ)ケンタウロスロボット」…。まるで子どもの自由研究。モノづくりを心から楽しんでいるように聞こえた。

全員が、未経験のド素人

しかし困難が待ち受ける。実は開発メンバーは全員、ロボット開発の経験が一切なかったのだ。

TC車両性能開発部 三木武グループ長

私自身、大学で製図をかじった程度でハード設計は未経験。でも、あえて未経験なことにチャレンジしたいと思いました。

ハード設計が主業務のメンバーから設計の仕方を教えてもらいながら、実際に手を動かしていきました。自分たちで企画を出して、これだ!と思ったものがカタチになっていく。一年間の過程はとにかく楽しかったです。

未経験者が、世界初のサッカーロボットをつくる。当然、苦難の連続だ。とりあえずモーターを買ってきたものの、「どうしよう・・」とメンバー内でも不安の声が。

電動パワトレ制御機能開発部 松本陽介 主任

でも、もうやるしかありません。とりあえず懸命に手を動かし続けた結果、初号機は早い段階で完成。時速3040kmのスピードが出たので、メンバー内でも「これは行けるぞ…!」という雰囲気になりました(笑)。

18個のモーターを一斉に全力で動かせば、強いシュートを打てるわけでない。“うまいキック”を模索するため、人間はどう蹴っているかデータを集めることに。

開発メンバーは、サッカーボールを手に、近くの公園へ走り出した。

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