本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は工場で、イチゴとトマトづくり!?
ミニトマトが栽培されている上の写真。なんとこれ、トヨタの工場内の風景である。さらに別の工場では、イチゴの収穫が最盛期を迎えているとか。
なぜ、クルマ屋のトヨタがこのようなことをしているのか?地球環境を変えるかもしれない奇想天外な現場を公開する!
エンジンだけでなく、イチゴもつくる工場
「一口どうぞ」。そう勧められ真っ赤なイチゴをほおばると、水々しく甘さが口いっぱいに広がった。
信じられないかもしれないが、この場所はクラウンやレクサスなどのエンジンを製造するトヨタ上郷工場だ。
上郷工場では4品種のイチゴを栽培。明知工場ではミニトマトを育てているという。カーボンニュートラルにつながるというのだが、なぜ工場でイチゴをつくるのか。
先進技術統括部 岡島博司主査
農業は“お天気任せ”な側面があります。また、収穫が多すぎると価格が下落する“豊作貧乏”なんて課題も・・
そこでトヨタの知見を活かし、天候と市場を予測。トヨタ生産方式(以後TPS)で、計画的栽培や高付加価値を目指しました。農家さんの収益向上にも貢献できるかもしれません。
また、工場からはどうしても「熱」と「CO2」が排出されます。でも植物にとっては、それらは栄養なんですよ。
環境面でネガティブな「廃熱」と「CO2」。それらをポジティブに活用するアイデア。燃料費の削減など経済的なメリットにもつながる。
2022年4月、農家さんにも協力してもらい、工場内にビニールハウスをつくり実証実験を進めている。
このビニールハウスには、同じ面積の畑より1.5倍ほど多く収穫できる秘訣がある。下の写真を見て、その秘訣に気づけた人はTPSのかなりの上級者だ。
答えは足元にある。通常、畑は畝(うね)と呼ばれる区画に分かれ、すべての間に作業用の通路が必要だ。
しかし上の写真のように、区画を「スライドできる可動式」にすることで、通路の数を大幅削減。栽培区画を増やしたのだ。
必要なときにだけ、必要な場所に通路をつくれ、面積あたりの収穫量が増えるので高収益化にもつながるアイデアだ。
ちなみに収穫したイチゴやミニトマトは市場で販売せず、トヨタの社員食堂で無償提供。その理由について岡島主査は「農家さんの仕事を奪うのではなく、効率的な農業システム構築など技術支援でお役に立ちたい」と話す。
取り組みを動かしていたのは「自分以外の誰かのために」という想いなのだ。
当初は「なぜトヨタが農業を?」と理解されなかったそうだが、今では豊田市やJAあいち豊田と連携。実証実験が進んでいるという。
工場の多い豊田市で「CO2や廃熱を資源」と捉える
現在、豊田市では、CO2削減のための「グリーン電力証書システム」を推進している。
ゴミ焼却所などで再エネをつくり、地元企業が地産地消。グリーン電力を使っていることが証明される仕組みだ。
しかしそれだけではCO2排出はゼロにできない。だからこそ、このビニールハウスのように「CO2を資源として使う」取り組みが重要になってくる。
ちなみにこのビニールハウス。照明がピンク色なのだが、農家さん以外はあまり知らない意外な事実が隠されていた・・