トヨタの改善は病院でも通用するのか。謎の箱に迫る

2022.11.15

期待されないロボットに改良?

この搬送ロボットは、東京2020のオリパラで生活支援ロボットとして活躍した生活支援ロボットHSRの技術を病院向けに応用したもの。

カメラとセンサーで位置を把握し、人や物を避けて走るクルマの自動運転技術と基本は同じ仕組みだが、大きな病院では、エレベーター移動も必須だった。

ロボットとエレベーターの間で情報が通信され、どの階へも難なく移動。トヨタの制御技術が生かされている
ロボットになりきって、エレベーターホールで最適な待機場所を探る研究者。壁の形状などがどう影響するかを観察

改良を重ねながら1年がかりで行き着いたのが、現在稼働する3代目のロボット。しかしこの3代目でさえ、初めは停止したり迷子になることも多かった。

その一方で、病院側の期待値は当初から高く、黒田副総看護長は「ドラえもんのように歩いて喋る夢のロボットをイメージしていた」と回想する。

そこで「あえて期待されないデザインにした」と語るのは、開発チームの豊島主任。実際、ロボットらしいフォルムではなく、家電の延長線上にあるようなデザインが採用されている。

多くの人が自由に行き交い、患者さんへの衝突が許されない病院でのロボット開発は、ある意味ハードな環境。ロボットができることにも多くの制限がある。

そのことを病院とトヨタの双方で確認し合うことで、やっと同じ目線で開発を進められる体制が整った。秋葉TPS・カイゼン推進グループ長によれば、ここに至るまでに2年近くかかったという。

ロボットなのに、愛される存在へ

かくして病院の日常に溶け込んだ搬送ロボット。今では、看護師たちにとってなくてはならない存在となり、他の病棟に行ってしまうと「寂しい」と話す看護師も。

クリスマスには仮装も。小児科病棟の子どもたちは大喜びだった

トヨタならではの本音でぶつかり合った開発の結果、今では看護師たちの働きやすさも向上。他の病院からは「トヨタならではで、うらやましい」という声や問い合わせも。

日本看護協会の「看護業務の効率化先進事例アワード2022」で特別賞を受賞するなど、社外での評価も高まっている。

搬送ロボの起動ボタンは、トヨタ車で使われる「パワースイッチ」だった
曲がる方向を伝えるウインカー。トヨタらしさが詰まっている

ロボットの「行ってきます」の声に対し、「がんばってね」「いってらっしゃい」と声をかける看護師や患者の風景はもはや日常だ。廊下を進む搬送ロボットの顔が、誇らしく見えた。

現在、2023年前半建て替えられる新病院に向けて、シミュレーションを重ねつつさらなる開発が進んでいる。ロボットが活躍する場所を現在の5病棟から17病棟に大幅に拡張し、約30台を投入予定だ。今後の進化に、是非注目していただきたい。

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