「シェア乗り」の仕組みを使い 持続可能な地域づくりを目指すNearMe

2024.06.06

『ジャパンモビリティショー2023』に参加した、革新的なスタートアップに焦点をあてる「モビリティの未来を担う仲間たち」。今回はピッチコンテストでグランプリを受賞したNearMeを取材。

『ジャパンモビリティショー2023』に参加した、革新的なスタートアップに焦点をあてる新連載がスタート。

2023年秋に開催された『ジャパンモビリティショー2023』は、自動車産業のみならず、多様なモビリティ関連企業が一同に会し「未来の日本」を創造する場として、東京モーターショーから名称・コンセプトを変更し開催された。

「モーターショー」から「モビリティショー」へ。変革の象徴として開催された企画の一つが、スタートアップの資金調達・商談機会・PRを支援する『Startup Future Factory』

この新たな企画について、当時、自工会の会長だった豊田は、ジャパンモビリティショーの最終日に行われた大反省会と銘打ったトークセッションの中で、「こういう場で知り合ったとか、面白いから一緒にやってみようとか、そういうことが生まれてくれれば大成功」「1+12ではなく、34になる物語が生まれる可能性を感じた。いいサイクルが回ってくると日本にも未来を感じられる」と話していた。

その想いを受け継ぎ、今年も開催されることが決まったジャパンモビリティショー

未来をともにつくる仲間たちが、モビリティをどう考え、どのような想いで事業を展開しているのか。ジャパンモビリティショーから生まれる物語、そしてこの先に広がるモビリティの未来の可能性を探っていく。

ピッチコンテストでグランプリを受賞したNearMe(ニアミー)

Startup Future Factory』では、スタートアップ企業が事業内容をプレゼンテーションし、スタートアップ企業への投資・支援などを行うベンチャーキャピタルの代表やモビリティ大企業の経営幹部などが審査を行う「Pitch Contest & Award」もおこなわれ、116社の参加企業の中から審査で勝ち上がった15社が、3分間のプレゼンテーションと6分間の質疑応答をおこなった。

アワードでは「LIFE×Mobility 未来の暮らし」「EXCITEMENT×Mobility 未来の感動」「INFRASTRUCTURE×Mobility 未来の社会基盤」の3カテゴリーが用意され、それぞれ優秀社が選ばれた。

そこで「EXCITEMENT×Mobility 未来の感動」部門を受賞し、グランプリにも選ばれたのは「NearMe(ニアミー)」。AIを活用したタクシーのシェアサービスだ。

ジャパンモビリティショーで生まれた横のつながり

NearMeの主軸サービスである「エアポートシャトル」は、最大9人乗りの車両を使い「シェア乗り」することで自宅と空港をドアtoドアでお得に結ぶ。「ゴルフシャトル」では自宅と東京・千葉のゴルフ場を結ぶサービスとなっている。

「さまざまなスタートアップが参加するイベントは多いですが、テーマを“モビリティ”に絞ったものは少ないんです。ジャパンモビリティショーであれば、自分たちの取り組みをしっかりと発信できる良い機会だと思い参加しました」

そう語るのは、ニアミー代表取締役社長の髙原幸一郎さん。

「おかげさまで、さまざまな業界の方にお声がけいただきました。銀行からもお問い合わせをいただくなど、グランプリ受賞の反響は大きかったです。でも、一番大きかったのは、モビリティによって社会課題の解決を目指す仲間たちと出会えたこと。横のつながりができたんです。

先日、一般社団法人モビリティサービス協会を立ち上げたのですが、発起人であるグローバルモビリティサービス(LIFE×Mobility 未来の暮らし部門・優秀社)さんからお声がけいただいたきっかけも、ジャパンモビリティショーでした」

日本の輸送課題解決に向けた「シェア乗り」

同社の特徴は、事前予約をもとにAIでマッチングをおこない、緑ナンバー(営業用車両)のタクシーに相乗りし、独自AIでルートを最適化していくことにある。

「日本における課題は、輸送量を増やすことにあります。20244月から始まった日本版ライドシェアは、一般ドライバーを活用することで“量”を増やす方法。一方、ニアミーは既存のタクシーをシェアすることで“質”を増やすという考え方です。

現在、タクシーの平均乗車人数は1.3人。しかも、実車率は約4割であり多くの時間は空気を運んでいるわけです。あくまでも理論値ですが、タクシー1台に4人乗れば、輸送量は現在の約3倍になります。さらに、行き帰りの運行もまとめることができたら3倍×往復=6倍になる計算です」

ニアミーは日本版ライドシェアを否定しているわけではない。ドライバーが増えて輸送量が増えるのであれば万々歳だ。しかし、人口減少によりどの業界も人手不足の状況、かつ免許返納者も増えている。その一方、日本経済にとって大事な収入源でもあるインバウンドは増加中。さらに、脱炭素社会の実現にも寄与しなくてはならない。その解決策のひとつが「シェア乗り」なのである。

11台という乗り方は、継続性が危うい時代になってきています。一方、僕らが想像する自動運転の世界は、シェア乗りが前提のe-Palette(イーパレット)のような車両に近いです。

タクシーの定義は10人以下なので、ハイエースをEV化したような9人乗りバンがあれば、もっと多くの人が乗れるようになる。11台ではなくシェア乗りをする。そのほうが、日本の未来の移動に近づくと考えています。貸切したい状況であれば、シェア乗り価格の35倍の価格を払えばいいわけです」

快適な「シェア乗り」を実現させるうえで欠かせないのが、効率的なマッチングと運行ルートの設定となる。そこにニアミー独自のAIが使われる。とはいえ、利用者が増えて同乗者が多くなれば、迂回によるストレスを抱えてしまいそうだ。

「そこは価格とのトレードオフだと考えています。考え方を変えれば、ゆっくり座ってドアツードアで快適に過ごせる。混雑している急行列車ではなく、座って読書もできる各駅停車をあえて選ぶような感覚です。冷静に考えればそこまで大きな時間差もなく、心のゆとりも生まれ、環境にも優しい。そういう考え方が広まってくれればと思います」

『NearMe』につながった原体験

髙原さんは高校まで野球漬けの日々を過ごし、極めてドメスティックな環境だったこともあり、その反動で大学は北米留学するなど「海外志向が強かった」と語る。就職活動においても「グローバル×インフラ」を標榜し、外資系のソフトウェア会社に入社。さらなる飛躍を目指しアメリカの大学院にも通い、戻ってきてからは日本から世界一を目指すという思いに共鳴して楽天に転職。入社してすぐは物流の立ち上げにたずさわった。

「そこでラストワンマイルの課題にぶつかりました。再配達の非効率さや人材不足も含めて考えたとき、たまたま近くを通ったタクシーのような移動手段がネットワークになるのでは? と思ったんです。」

「楽天の後半はアメリカに住み、買収した会社の経営統合などをしていました。そこで改めて気づいたのは、自分の生活って結局は510キロ圏内で完結しているということ。グローバル志向がいくら強くても、生活はローカルなわけです。

そうなると、社会によりポジティブなインパクトのあることをしたいと思うなら、日常生活をアップデートしていくような、地域軸での事業が面白いだろうと感じました。地域でできた仕組みを横展開したら日本全国になり、国をまたいだら世界へと広がることができる」

社名の『NearMe』には、そんな日常生活(=自分の近く)をより良くしたいという想いが込められている。

ローカルな仕組みを作るうえで、どこを拠点にするか。そのときに浮かんだのは、愛着もあり相対的に見て良い国だと思えた日本だった。

「地域の活性化や地域の持続可能な仕組みを考えたとき、“移動”がインパクトを出せるのではと考えました。移動が衰退すると街も衰退します。モビリティ軸で地域の課題解決をすることが、一番のインパクトを出せると考えたわけです」

自由に移動ができ 住みたい町に住み続けられる社会へ

地域課題の解決には「移動」が欠かせない。そのようにして、2018年にニアミーのサービスが誕生する。

「僕らのサービスを通じて、1人でも多くの人が自由に移動ができ、自分が住みたいまちに住み続けられる社会を作っていきたい。出発地・目的地が固定されていることでマッチングしやすく、ニーズも多い“空港”からシナリオを考え、日々改善しながら、現在は延べ70万人以上のお客様にご利用いただくまでに成長しました。その仕組みがようやく、観光地での利用や、バス路線を改善したい自治体の方々など、横展開できる状況になっていますし、この仕組みがあれば、地方の免許返納問題にも寄与できると考えています。」

ニアミーでは、トヨタ紡織と共にハイエースをベースにした、「シェア乗り」に最適な車内空間の開発をおこなうなど、モビリティの未来に向けた多岐にわたる活動が進行している。

そこで、「髙原さんが考える“モビリティ”とは?」というシンプルな質問を最後にしてみた。

「“需要に応じた自由な移動”だと思います。その手段はパーソナルなモビリティかもしれないし、僕らのようなシェア型かもしれない。どちらにしても、自由な移動は地域課題解決の一助になると思っています」

RECOMMEND