水素のプレジデントが語る"私のキャリア" 山本シンヤ氏インタビュー

2023.10.25

今年、新たに"プレジデント"となった3人を、自動車研究家 山本シンヤ氏が直撃! ラストは水素ファクトリー山形光正プレジデント編。これまでのトヨタマン人生を掘り下げた。

3人の共通点に見る豊田章男改革

このように三者三様だが波乱万丈のトヨタマン人生である。ただ、話を聞いているとある共通点に気が付いた。それは何か?

1つ目は必ずしも「本人が望んだ部署に配属されていない」ことである。(ちなみに、今のトヨタは本部・コース別採用を実施している)。

もちろん、ここでふて腐れるだけならただの“凡人”なのだが、彼らが違うのはその部署で与えられた仕事に全力で向き合い“やりがい”を見つけていることだ。

例えば、佐藤氏は技術管理部、加藤氏は新車進行管理部で「自動車会社の仕組み全般」、山形氏は製品企画本部で「YOUの視点/地域」を知ったことだ。

実はそこでの経験/ノウハウは結果的にはステップアップの時に活きている。つまり「どんな仕事にも意味がある」のだ。

これは筆者の持論になってしまうが、最初から好きな仕事に就くと、それで満足……というケースが多いと聞く(もちろん、全てがそうではないが)。

逆にそれほど好きではない仕事だと、好きになるための努力や違った目線で物事を見ることができるため、普通の人では思いつかないアイデアが生まれることも。

その結果、その仕事にさらに興味が湧いて、さらにそれにのめり込む。さらにゴールが分からないからより先を求めるようになるなど、結果として仕事も良い方向に進むと思う。

2つ目は「領域を超えた業務」を行っていることだ。

今のトヨタは商品軸で仕事をしているが、以前は機能軸……つまり縦割りで仕事が行われていた。ただ、そんな状況下にも関わらず、彼らはその領域を超えた仕事を行っていた。

例えば、佐藤氏は製品企画本部でのLC開発、加藤氏は車両基盤企画部でのTNGA先行開発、山形氏はエンジン搭載設計時代の実験部や車両側の人たちとの連携などがそうだが、要するに豊田氏が常に語る“クルマ屋”としての仕事をいち早く進めていたのである。

これは偶然なのか? それとも必然なのか?

3つ目は「癖のある上司」の存在である。佐藤氏に対する内山田竹志氏の「君はエンジンに向いていない」発言、加藤氏に対する寺師茂樹氏の「BYD、お願いします」発言、山形氏に対する堀氏の「俺が先生になって教えてやる」発言などがそれだ。

彼らは一見、無茶ぶりや突拍子もない言動をしているように見えるかもしれないが、それは意地悪をしていたわけでもない。

本人ですら気が付いていない能力や素性を見抜いた結果であり、彼らがより活躍できる環境に進ませるためのサポートをしていたのだろう。ただ、諸先輩たちは絶対にそうだとは言わないと思うが……。

そして最後はやはり「大きな挑戦」をしてきたことだろう。

佐藤氏のLC開発での「自分のリミッターを外したこと」、加藤氏のbZ3での「変え続ける商品開発」、山形氏のTNGA源流とも言える「新エンジンシリーズパッケージング先行検討」などがそれにあたる。

ただ、勘違いしてほしくないのは、彼らが大役を任されたのは単なるラッキーでもネゴシエーションが得意なわけではない。愚直にコツコツと実績を積んできたからこそ回ってきたチャンスなのだ。

そんなことを考えていると、豊田氏が14年の歳月をかけてトヨタを正しい方向に立て直した“眼に見える成果”とは、実は彼らのことを指しているではないか、と思えてきた。

もう少しトヨタっぽく言うと、最後まで変わろうとしなかった“白い巨塔”(技術・開発部門)の中で、それを変えていこうと自ら動いてきた人の代表と言ってもいい。

そんな彼らが今後新しいトヨタのかじ取りを行う。そう考えると、昨今のトヨタのクルマが変わってきたことにも納得がいくし、今後のトヨタのクルマにさらなる期待が持てるような気がしないだろうか?

山形光正(Mitsumasa Yamagata)プロフィール

最初に買ったクルマは、大学1年生の時に中古で購入したスターレット(KP61)。この当時、同級生と一緒に安価で楽しめる「軽自動車ダート耐久レース」に参戦もしていたそうだ。入社後はAE86を購入。「最初はトレノの2ドア、次はレビンの2ドアに乗り換えて10年以上乗っていました」。その後、佐藤社長と同じくトヨタマンあるあるの一つ「他社のクルマに乗ってみよう」とBMW M3を購入。その性能の高さにかなりハマったそうだ。後に、家庭環境の変化でヴォクシーに乗り換えるが、現在は2Lターボを搭載するレクサスNXを所有(写真は本人撮影)。「この2Lターボは自分が設計したエンジンだったので、『今買うしかないな』と思って購入しました」。現在はMIRAIの購入を検討中だが「ボディサイズがちょっと大きいので、駐車場事情が悩みでして……」と。ということは、将来は小さいFCEVの登場もあり得る

山本シンヤ(Shinya Yamamoto)プロフィール

自動車研究家。自動車メーカー、チューニングメーカーを経て、自動車雑誌の世界に。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の気持ちをわかりやすく上手に伝えることをモットーに活動している。

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