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水素のプレジデントが語る"私のキャリア" 山本シンヤ氏インタビュー

2023.10.25

今年、新たに"プレジデント"となった3人を、自動車研究家 山本シンヤ氏が直撃! ラストは水素ファクトリー山形光正プレジデント編。これまでのトヨタマン人生を掘り下げた。

お客様を見る つくり手都合ではダメ

山形氏はリーマンショックでお蔵入りになったプロジェクトの後、エンジン設計から製品企画本部「Z」に異動。ここでは全車の商品計画をしているチームに所属。

私がいたチームは、クルマをつくる「Z」ではなく、世界のさまざまな地域から要望を受けて、実際にどのようなエンジン/トランスミッションをつくり、いつ市場投入するか、どのクルマと組み合わせるか……といった全体計画をつくるチームでした。

それまでエンジン設計の中で「井の中の蛙」でしたが、突然営業の方々と話をするようになりました。

いろいろなことを知るというと聞こえはいいですが、実際は「これ日本語ですよね?」というくらい溺れました()。

今まではエンジンと向き合っていればよかったが、ここではより広い視野で見なければならない。山形氏にとっては、ここが大きなターニングポイントだったのだろう。

エンジンを開発する時は、出力/燃費などの軸とコストでしか判定しませんが、ここでは「お客様が何を求めているのか?」も重要なポイントとなります。例えば中国だったら、「エンジンが小さくてクルマが大きいほうが、喜ばれる」など。

エンジン側の人間としては、「2.5Lのほうが馬力も出るからいいでしょ?」、「そんなモノはいらない。それより限界利益が……」、「そもそも、限界利益ってなんだっけ?」という状態で、正直ノイローゼになりましたが、「つくり手の都合ではなくお客様を見て製品をつくらないとダメ」ということを身を持って学びました。

これは豊田章男氏が常日頃から語る「YOUの視点」と「地域軸」その物である。お客さんが何を求めているのかを理解しないと独りよがりになってしまう。

会議室で話をするのではなく、お客さんや現場の声を聞かないと、本当のことは見えてこないのだ。

予期せぬ新組織トップの内示

その後、山形氏はエンジン設計部改めパワートレーンカンパニーに戻り、EVPを経てプレジデントになった。

トヨタのパワートレーン戦略はマルチパスウェイなのは言うまでもないが、世界中の地域の状況を見ながらリソーセス対応を行う。

そういう意味でも、今後、より重要度が増す部門のトップとして頑張るつもりだった山形氏だが、突如水素ファクトリーのプレジデントに抜擢された。

佐藤社長と中嶋(裕樹)副社長から内示を受けましたが、その時は「マジかよ……」でした。

まだまだやることはたくさんあると思っていたので、2人には「それを放って、水素をやっていいんですか?」と素直に話をすると、中嶋さんは「分かっているけど、そうなの」と()

そう言われたら、断れませんよね。

だた、第三者の目線で見ると、パワートレーンのトップが水素を担当するということは、「トヨタが水素に対して本腰を入れた」というメッセージもあると思ったのも事実だ。

今まではどちらかといえば訴求活動でした。

世界が水素に動き出し全体の雰囲気が変わっています。マーケットも実際に動き出しています。この流れについていかないと、「トヨタは技術で勝っているけど、ビジネスは下手」になってしまいます。

既に決まったルートがある世界ではないので、今やらないとせっかく30年もかけて研究してきたものが、世の中に出ていかない、それはマズいな……と。そう思うと、やりがいありそうだなと。

まさに本質を見抜き、発想の転換の早さはエンジニアならでは……だ。

「正解がないから何をやってもいい」

実際に水素に携わって、今はどんな気持ちだろうか?

一言で言えば、「めちゃくちゃ面白い」です。水素の事業にはまだ答えがありません。

この2カ月ぐらい世界中を回りましたが、実は水素で事業が軌道に乗っている人って、まだ誰もいません。だからこそ、自分で考えて進めていく……。とても興味深いですね。

エンジンにどっぷり浸かっていた山形氏がそこまで言うほど、水素には魅力があるのだ。

水素エンジン、FCEV(燃料電池車)はもちろん、e-fuelもその延長線上に水素が関わってきますので、自分が培ってきたものも活かせると思っています。

現在、「水素とe-fuelどちらがいいのか?」、「燃料電池と水素エンジンどちらがいいのか?」と議論されていますが、状況は刻々と変化しています。

一つだけ見ていても分からないので、全てを見ることが大事。社会インフラを考えていかないといけません。

さらに水素は従来のようにユニットを持っていたら売れる世界ではありませんし……。

そういう意味では、政府やインフラ業者など、今までお話ししたことのない方と接する機会も増えています。外のつながりはエンジンをやっていた時よりも、確実に広がっています。

株主総会でBEVファクトリー・プレジデントである加藤氏は「私は電気自動車が好きです」と語ったが、山形氏は水素は?

もちろん、大好きです。実は最初は「なぜ、自分が水素なんだろう?」と疑問ばかりでしたが、実際に見て、聞いていくにつれて、その可能性に驚き、「これはやらなきゃいけないぞ!!」と気が付き、のめり込んでいます。

大げさに聞こえるかもしれませんが、水素を上手く使いこなすことは、人類にとって絶対にやらなければいけないことの一つだと思っています。

少し変な言い方ですが、「正解がないならば、何をやってもいいんだ!!」という気持ちでいますよ。

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