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2020.02.26
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ボスになるな リーダーになれ トヨタ春交渉2020 第2回

2020.02.26

トヨタにとって喫緊の課題である「若手の退職」と「技術部門の風土改革」ー。今回も、本音の議論が交わされた。

2月26日。トヨタ自動車本社で第2回労使協議会が開かれた。先週の1回目で話し合われたのは「素直に言いたいことが言えない職場風土」について。今回はテーマがさらに具体的に深堀りされていく。「若手の退職」と「技術部門の風土改革」という課題について、白熱した議論が続いた。

「虹」を見せるリーダーに

まず口火を切ったのは組合。将来の競争力低下に直結する「若手の退職」について職場の声を紹介した。組織の壁を超えて、お客様のために動き出している組合員とそれを後押しするマネジメントの例を交えながら、なかなか動き出せていない職場がある実態も語った。

組合

組合員が何かを変えようと上司に相談した際、部内で完結するものは前に進むことが多いものの、部署の守備範囲を超えるものになると、他部署から「なぜやるのか?」「何かあったらどうするのか?」といった説明を求められ、進みにくいのが実情です。「組合員の提案は分かるけれども、限られた時間でリスクもあるし、今はやめておこう」。そうした上司の反応では、その想いもいつしかくじけ、目の前の業務をひたすらこなすだけになるというのも、正直なところです。

これが繰り返されると、若手からは「何も変えられない自分と、周りをみても本気で変えようとする先輩、上司がほとんどおらず、(そうした職場に)染まりつつある自分にもがっかりする」という声も聞いており、一部の仲間はトヨタを退職しています。

基幹職からは、退職した部下が今では別人のように生き生きと新しい仕事の話をしているという実体験が紹介された。執行役員の山本圭司はエンジニアとしての問題意識を語った。

山本執行役員

若いエンジニアが辞めているということに関して、本当に役員としても申し訳ないと思います。その理由を聞いてみると、「こんなはずじゃなかった」というコメントがあります。「自分で手を動かして開発の仕事がしたい」、「ソフトを自分でつくりたい」、「ハードを自分で設計したい」と考えているにもかかわらず、トヨタでは「調整業務、会議が多い」、「自分の時間がなかなかない」、「このまま年をとると、自分はエンジニアとしてダメな人になってしまう」という不安が多くあるようです。

トヨタを離れてどこにいくのかを見ると、スタートアップの会社が多いです。そこでは、一人ひとりに裁量権が大変大きく持たされているようで、自由に自分の意見で、自分の開発を自分の手でできるということのようです。

歴代の我々マネジメント層に大きな責任がありますし、やはり役員、部長になっても、一人ひとりの社員に寄り添って、働き方そのものや期待値を聞くという作業をしないとダメじゃないか。それと、外の会社がどういう働き方をしているのかを現場に行って我々がもっと勉強しないといけないと思っています。

副社長の友山茂樹が続く。

友山副社長

職場のリーダーに求められることが、いつの間にか自分の職場の仕事や部下を決められたルールで管理することになってきてしまっていると思う。本来職場のリーダー(に求められること)はメンバーにダイナミックな「虹」を見せること、描くことだと思う。虹とは、トヨタが社会から求められる会社になるためにどうしなければいけないのか、CASEの時代を生き抜くためにどうしなければいけないのか。その虹をメンバーと共有することがすごく重要だと思う。とは言うものの、トヨタはトヨタの仕事のやり方がある。質実剛健。(豊田綱領に)「華美を戒め、質実剛健たるべし」という言葉がある。この激動の時代を生き抜くためには、そこのバランスを取りながら、職場に虹を見せて、情熱を共有していくようなリーダー像が求められていると思う。そういうリーダーに、まず幹部職、基幹職のみなさんがふさわしいかどうかというところから見直していかなければならないのではと思います。

技術部門の風土改革

議論は技術部門の風土改革に移る。組合からは職場の声として、2つの問題意識が挙げられた。

組合

1つ目は、カンパニーによってはまだ(従来の)機能軸という考え方が強く、担当、GM、室長、部長、役員と意思決定がいくつも重なっていくことがあります。技術にいる多くの人が、「早く上の人が決めてくれないか」と思っているのではないでしょうか。

2つ目は、失敗が許されない技術の風土です。プロジェクトの日程が、タイトすぎる納期で設定され、また、一度設定されると途中で見直すことが相当に難しい。チャレンジしようと提案しても「責任をとれるのか?」と言われてしまうと、何も言えなくなることが多い状況にあります。

議論が次第に熱を帯びてくる。まずは執行役員の佐藤恒治が技術部門の中に潜む問題について意見を述べた。

佐藤執行役員

組織をまたいだ挑戦を阻んでいる、あるいは失敗が許されない環境になっている背景には、実は長くトヨタを支配してきた「ラインオフ至上主義」という考え方、あるいは間違った自工程完結という意識があるのではないかと思います。

ラインオフは一刻も早くお客様に商品を届けるために、我々の中で決めたものであるのに、いつの間にか日程を守ることが重要事項となってしまっている。その背景に間違った自工程完結があり、他部署に迷惑をかけたくない、かけられないという意識がマネージャーの中でどんどん強くなっていて、日程管理に奔走してしまうということが実際に起きているのではと思います。そうさせている理由は、我々役員にもあって、本来の目的をしっかり共有するということをもう1回やらなければならないと思います。

今やらなければいけないクルマ、つくらなければいけないクルマを一緒に本気でつくろうと思ったら、今の組織の壁を越えていかないと絶対にできない。それこそが、我々の仕事であるし、皆さんがやっていただきたい仕事だと思いますので、そういう声をどんどんあげていただいて、我々もどんどん背中で見せて、実践をしながら雰囲気を変えていきたいと思います。

ここから副社長や取締役が続々と続いた。

友山副社長

今、佐藤執行役員が伝えたことの冒頭に「日程主義」というのがトヨタにははびこっていると。他部署に迷惑をかけたくないからやっているということだけど、僕が見ていると、「自部署の責任にしたくない」や「自部署が足を引っ張ったと言われたくない」(と考えているように思う)。そのため、上司が無理やり日程を守ろうとする。10年前の品質問題で豊田社長が公聴会で証言をしたんですよね。「トヨタは失敗もするし、欠陥を発見するときもある。だけどその時は一度立ち止まって、徹底的に原因を追究し改善をするんだ」。「嘘をついたりごまかしたり、ましてや隠したりすることは絶対にしない。それらをしないことがトヨタの伝統である」と。10年前、我々はあれだけ反省したのに、未だにやはり「いけいけドンドン」、「自部署はとにかく足を引っ張らない」というところに、上司、経営陣なども含めて価値観を置いていないかは反省すべきだと思います。

吉田守孝副社長

創業期から、トヨタはいろいろなことにチャレンジして、失敗して、乗り越えて、成長してきた。自分が担当していたときもそうで、いろいろチャレンジして、失敗しました。でもそのとき、上司はかけあってくれて、品質第一で仕事を止めて改善をする。その時に周りの部署はサポートする。トヨタはそういう温かい会社であり、これがトヨタのカルチャーだと思います。上司は自分のために、自分に火の粉が来ないようにチャレンジを阻害するのではなくて、思い切ってチャレンジができる(ようにする)。トヨタはそういう会社だと、しっかり再認識してほしいと思います。

最近若手の組合員といろいろ話すと、設計者の人は「もっと自分でたくさん部品を設計できるようになりたい」、実験の人は「もっと自分で部品を変えて実験したい」、生技の人は「工場と一緒になって、現場で設備をつくりたい」と言う。みんな汗をかいた現地現物の仕事にすごく飢えているんですよね。この声に応えるために、我々が人材育成をすれば、チャレンジできるようなレベルに成長すると思う。だから人材育成と若手にチャレンジさせることをセットでやっていけば、みんなのモチベーションもトヨタの競争力も上がる。それをするのが自分の反省も含めて、役員、幹部職、基幹職だと思う。

ディディエ・ルロワ副社長

私はここにいる皆さんと1つだけ違いがあります。私はかつて別の会社に勤めており、22年前にトヨタに入社しました。なぜ入社したのか? それは、トヨタが社員をマネジメントし、現場へ寄り添い、真のチームワークを形成して、全員が不可能だと思うようなことができることに感銘を受けたからです。現在、私たちが掲げているスローガンである「Start Your Impossible」を思い出してください。トヨタに入社したとき、フランス工場の社長から教えられました。私は工場の現場にいなかったのですが、現場に敬意を表すべきであると。「敬意」という言葉は、人々にチャレンジさせる力があります。部下には自分でさせてみてください。そしてサポートし、失敗を受け入れて、競合より多くのことを達成しましょう。大丈夫、私たちはもっとできます。

小林耕士副社長

一番の問題は、今提起されたことのほとんどが、我々(マネジメント)の役割だということ。下から変えるのは無理。トヨタには、過去から連綿とやってきて、組織を変えたり、会議をつくってきたりしてきたが「マイナス」がない。プラスだけでなく、マイナスもやっていかないと。人数には限りがある。10人の会議が20人になってしまったら時間を取られる。上が「やめよう」と言って思い切ってやめればよい。

菅原郁郎取締役

頭に浮かんだ言葉が3つあります。「怯え」、「閉塞感」、「十把一絡げ」というのが今日の2つのテーマに共通しているかなと。上司の自分に対する評価に恐怖感を持つ、もしくは怯えを感じている組織に未来はなくて、閉塞感しかない。

その原因は2つあって、1つは「十把一絡げ」で人を捉える風土がトヨタにはないかと。やはり人は、一人ひとりその人に応じて、働き方なり、育成の仕方(がある)というのが、本来あるべきところ。しかし、そこの手を抜き始めているのが今のトヨタにはあるのではないかと思います。

2点目は、幹部職も組合員の若手もそうですが、「若手は劣っているもの」、「教育されるべきもの」という思い込みがあると思うんです。僕は、変化の時代にそれは違うと思います。むしろ、「老い」、「衰え」、「感度の低さ」、「世間とのずれ」こそが最大の敵であって、これに侵されていないのは誰ですかという問題。しっかりそれに侵されずにやっている70歳もいれば、30歳で侵されている人もいる。むしろ若手のほうが世間と近いこともある。若手から学ぶべきこともあって然るべきなんですが、「十把一絡げ」で「若いもんはこういうもんだ」というふうに(なっている)。「年をとっているものはこういうものだ」と集団で定義している。こういうところが、変化への対応力を弱めているのではないか。人をどう評価するのかというトヨタの社内へのメッセージ、評価基準というのがこれからは極めて重要になると感じました。

そして、話は賃金制度に移っていく。今回の労使協では、組合から賃金制度改善分(いわゆるベースアップ分)について、組合員の頑張りに応じた配分にするという提案があった。総務・人事副本部長の桑田正規から説明した新しい賃金制度は、さらにメリハリをつけるというものであった。

桑田副本部長

昨年の労使協議会以降、「頑張っている人に報いる」という労使共通の認識のもと、人事制度について問題点を共有し、できるところから制度の変更を進めてきた。

「頑張っても、頑張らなくても、あまり差がつかない」、「頑張りの反映が不明瞭」といった声があるのも事実。会社としては、「賃金制度改善分」のみではなく、根元から、すなわち「賃金制度維持分の昇給分」も含めて、頑張りを反映させるよう、来年から変えていくべきではないかと考えている。

頑張っている人に、きちんと報いていくことを狙いとしている。その時々の活躍ぶりに応じて、挽回も効く制度としたい。

組合は次のように応じた。

組合

組合としても組合員が「今まで以上に頑張ろう」と思い続けていくことが大切だと考えており、会社から説明があった「頑張っている人にはきちんと報いていく」という考えについては、同じ思いです。

一方で、「頑張りきれていない人には奮起を促す」という点については、そうした組合員に対して変革を促し、全ての人の力をこれまで以上に引き出すためにどうしていくべきか、慎重に考えさせていただく、引き続き、労使専門委員会で議論させていただきたいと思います。

評価は処遇にメリハリをつける前提となるため、大変重要と考えますが、はじめに、職場における評価のフィードバックの実態について、昨年冬の一時金辞令交付時の職場の声をお伝えさせていただきます。

全体としましては、「ねぎらい」や「組合員の長所短所」なども含めて上司から説明いただけた職場が多かったですが、一部の職場では、上司から「自分は評価したが、上位の判断でこうなった」と責任を転嫁したような説明もありました。

組合員も、もう少しフィードバックの説明を詳細に聞きたいと思うこともありましたが、「『評価のことを気にする卑しい奴』と思われそうで怖くて聞けない」という声も聞いています。また、一時金だけでなく賃金制度の評価においては、「人間力」「実行力」という新たな評価基準について、より詳細に理解を深めたいという声もあります。

こうした声は、キャリア形成や今後の成長へ向けて、上司ともっと対話したいという想いの表れだと思います。組合としては、今後、組合員が「上司が言ってくれない」といった受け身の姿勢になるのではなく、自身の目指す姿を思い描き、アドバイスを謙虚に受け入れる姿勢を持ちながら、組合員が積極的に分からないことは聞くことができるよう取り組んでいきます。

マネジメントの皆さんへのお願いとしましては、これまで以上に人材育成への思いを持って部下に向き合っていただき、フィードバックが難しい時は、直属の上司任せにせず、さらに上の上司も含め、一緒考えていただくなど、日々、マネジメント全体で成長につながる対話をお願いしたいと思います。

議長の河合満副社長は、この日の議論を締めくくった。

河合副社長

私たちはこの日本に働く場を残すことにこだわり、そのうえで処遇につきましては、国内トップレベルの大変高い水準を維持してきております。このことにつきましては、決して当たり前ではない。素直に申し上げますと、私たちは非常に恵まれていると、改めて認識すべきであると同時に、それにふさわしい「実行力」「人間力」を兼ね備えているかということを常に自分に問いかけるべきだと思います。

会社、職場、すべての皆さんが、変わっているとは言い切れない中で、今以上に賃金の水準を引き上げることや今回の賞与の要求にお応えすることで、競争力を失ってしまわないか、支えていただいている各社様に、「これからもトヨタと一緒に仕事がしたい」「トヨタを応援したい」と心から言っていただけるのか、大変、懸念をしております。

昨年の秋の労使協議会では、労使で組合員の皆さんが変わり始めていることを確認し、また、変わっていくことを誓いあうことができました。その結果、賞与については、満額の回答をしました。

西野委員長からは「変われていない人達を守るのではなく『変えていく』」とのお話がありました。こうしたことを踏まえ、労使協議会で議論する中で、「組合員のみなさんが、本当に変わっているのか」「会社の変革に向け、一緒に取り組むという姿勢を示してくれているのか」、そして、「関係各社様から応援されるのにふさわしいトヨタパーソンになっているか」ということなどを、確認をしていきたいと思っております。そのうえで、要求に対してどのようにお応えするかを引き続き検討してまいりたいと思います。

組合の西野勝義執行委員長も今日の議論をまとめた。

西野執行委員長

本日も、前回に引き続き変革を妨げる職場の課題について、議論をさせていただきました。風土や意識に関しては、結論がすぐに出て、解決するものではないと思っておりますが、本日の議論については、事技・業務・技能といった職種に関係なく、全員が自分事として、しっかりと腹に落としながら、自ら考え行動を変えていくことが大変重要だと思っております。

組合員も、「何か言われて変える」であったり、「ここを変えてくれなければ、自分たちは変われない」といった受身の姿勢ではなく、一人ひとりが自ら変わっていくことが重要だと思っております。そうしたことを後押しするために、組合としましても、本日の議論を各職場レベルで引き続き取り上げて進めてまいりたいと思っております。また、すでに変わり始めている人にしっかりと光を当てながら、組合ならではの働く者同士の横のつながりを生かしながら、自職場以外の外をまた感じていただく。そういったこれまでにない、枠組みでも引き続きしっかりと取り組みを進めていきたいと考えております。

最後に、河合副社長からありましたように、「トヨタが、非常に恵まれた処遇水準にある」ということ」また、「それが決して当たり前ではない」という点については、改めて全員が認識しなければなりません。その上で、会社におかれましては、トヨタとトヨタグループの仲間が生き残るためにも、本労使協での議論を踏まえ、先ほどおっしゃっていただいた観点から、人の力を最大限に引き出せるような回答をお願いいたします。

PDCAの「DO」が大切

議論を見届けた社長の豊田が、この日初めて口を開いた。

豊田章男社長

前回の労使協議会の最後に、事技系職場の「上司」という立場にある皆さんに対して、「YOU」の視点をもってほしいということをお伝えいたしました。本日は、特に執行役員、幹部職の皆さんに対し、私が期待をしていることをお話したいと思います。

豊田がそう発言すると、会場の当事者たちは姿勢を正した。

組合員の皆さんは、上司の判断に従って、一生懸命、日々のオペレーションを回してくれています。このことについては、感謝しかありません。しかし、執行役員・幹部職が、組合員と同じ目線で、一緒になって日々のオペレーションを回していては、仕事のやり方が変わることは絶対にありません。

今のトヨタの執行役員・幹部職には、あるべき姿ばかりを主張する人が多いような気がしています。それは現実を知らないからであり、「YOU」の視点が欠けているからだと思います。あるべき姿を追求することは大切ですが、もっと大切なことは、それを実際の仕事に落とし込むことです。

いつも申し上げているように、これからの私たちは、現在と過去の仕事をしっかりと遂行しながら、未来の仕事もしていかなければなりません。特に未来の仕事というのは「解答も前例もない世界」になります。この世界では、「PDCA」の中の「DO」が特に大切になると思います。「DO」をしては失敗し、また「DO」をしては失敗する。執行役員や幹部職が、組合員よりも高い視点に立って、成功するまで、「DO」をし続けることが大切だと思うのです。失敗という財産をどれだけ後輩に残してやれるか。それこそが、執行役員・幹部職の仕事ではないでしょうか。

基幹職の皆さんも、同じだと思っております。昔から、昇格をした時には、「今の資格よりも2つ上の資格になった意識で仕事をしろ」とよく言われました。これは、2つ上の目線で仕事をするということで、上位資格になるための準備をさせるということだと思います。昔は、課長の2つ上は部長でした。取締役の2つ上は専務でした。当時は機能別で仕事をすることが当たり前でしたので、部長でも専務でも「機能」の中での話だったと思います。今は、基幹職の2つ上は執行役員です。執行役員の2つ上は社長です。今の執行役員は機能のトップではありません。トヨタ全体を見渡し、決断をする経営陣です。つまり、基幹職になるということは、機能軸ではなく、経営の目線で会社全体を見て動くということです。

「当たり前のこと」をやれる職場に

豊田は「ボスとリーダーの違い」をスライドに映して説明を続けた。

皆さん、ボスとリーダーの違いをご存知でしょうか。イギリスの高級百貨店チェーンの創業者の方の言葉です。その内のいくつかをご紹介したいと思います。

ボスは私と言う。リーダーはわれわれと言う。
ボスは失敗の責任をおわせる。リーダーは黙って失敗を処理する。
ボスはやり方を胸に秘める。リーダーはやり方を教える。
ボスは仕事を苦役に変える。リーダーは仕事をゲームに変える。
ボスはやれと言う。リーダーはやろうと言う。

今回、「ボスとリーダーの話」をしたのには理由があります。先日、トヨタ工業学園の卒業式がありました。今年も明るく、礼儀正しい、鍛え抜かれた若者の姿がありました。本当にトヨタの心構えを体現したような新しいリーダーたちを仲間に迎えることを大変頼もしく思いました。一方、彼ら彼女らを迎える会社側はどうなっているのだろうか。そんなことを考えました。

基幹職以上の皆さんのほとんどは、リーダーとして、苦労しながらも、しっかりとやってくれていると思っております。しかしながら、当たり前のことを当たり前にできない基幹職以上の人たちがいるのも現実です。本日、皆さんから、多くの仲間が辞めていること、辞めたあと生き生きとしているという話を聞き、私は経営トップとして大反省しなければいけないと思いました。

前回の労使協議でも、寺師副社長が「挨拶さえ、きちんとできていないのが今の事技系職場の現状だ」言われていました。こういった基本的な部分が変わらなければ、何も始まらないと思います。基幹職以上の皆さんに対して、私が言いたいことは、「当たり前のことを当たり前にやれる職場をつくってほしい」ということです。

朝はきちんと挨拶をする。
何かをしてもらった時には「ありがとう」と言える。
自分が開催した会議には、自分が一番先に行く。
いつも自分の会社や部署に呼びつけるのではなく、相手の会社や部署に行ってみる。
あるべき姿を追いかける前に、今、自分たちがライバルに負けている現実があるならば、素直に負けを認める。
設計図をかく。
発信するメッセージをつくる。
そういうことを全て、外部の会社にお任せしてないか。
自分たちは手配とスケジュール管理だけの手配師になっていないかを振り返ってみる。
部下や後輩に、「自分を超えてみろ」と言える技能が自分自身にあるかどうかを考えてみる。

まずは、こうした基本的なことから始めるのだと思います。

これまで、私は、組織改正や人事制度変更のたびに、階層を少なくしてまいりました。これは、階層を少なくすることにより、各ポストの役割や重要性を大きくし、各機能の目線ではなく、より経営に近い目線で会社を動かしていける人を登用するということが狙いでした。それ以上に、会社の中に根付いてしまっている「もっと偉くなりたい」という意識を、「もっと成長したい」という意識に変えていきたいというのが私の思うところでありました。

しかし、当たり前のことができない、組合員の見本にならない基幹職の人たちがいる。また、そんな人たちが評価をされ、上位に上がってしまった。これは、私自身の責任だと思っております。私自身がこの事実にしっかりと向き合い、見本となるべきリーダーを発掘、育てていく、それに向かって努力をしている人をしっかりと評価していく会社にしてまいります。

ですので、多くの心あるリーダーたちが、率先して、新しく迎える仲間たちの見本となるような言動を堂々と、自信をもってやってください。それがトヨタから機能のボスをなくしていくことにつながると思っておりますので、ぜひとも協力いただきたいと思います。

「最後に」と言って、やや表情を和らげ、一言付け加えた。それは、労使が本音での会話を今日も続けたことへの感謝だった。

最後に、組合員の時から私と一緒に仕事をしている友山副社長は、私のことを何と呼ぶか。「ボス」と言っています()。しかも、自分が副社長になってから、自分のことは「ボスと言え」、そして、私のことは「大ボス」と言うようになりました。右側にいるルロワさんも、20年前にトヨタに入ったわけですが、ご自身のポケットの中には、いつも「Don’t please your boss」(ボスを喜ばせるな)と書いた紙を入れています。私の言うことは聞きませんし、私のことはボスと言っております。こういうことを皆さまにお伝えするのは今日の議論に私が真摯に感謝しているからです。今日も双方が、変革を妨げる職場風土、そして実態・課題について、真摯な話し合いをしてくれたことに対して、感謝申し上げたいと思います。

今日の話し合いはトヨタイムズで社内の人も見ます。しかしながら、今日、Face to Faceで聞かれた皆さんが、職場の皆さんに、正しく正確に臨場感を持ってお伝えいただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

次回の協議会は34日を予定している。

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