100年に一度の大変革期を生き残るため、「オールトヨタの競争力強化」について労使が議論した。
3月4日にトヨタ自動車本社(愛知県豊田市)で第3回労使協議会が行われた。今回のテーマは「オールトヨタの競争力強化」について。労使それぞれが100年に一度の大変革期を生き残るために、グループとして何が必要かを議論した。そのやりとりを動画で紹介する。組合執行委員長の西野勝義、社長の豊田章男による締めくくりの発言内容は文章でも掲載する。
【動画目次】
・00:00-04:50 デンソーと広瀬工場の協業
・04:50-10:13 仕入先・グループ会社への応援
・10:13-19:17 「応援される会社」に向けて
・19:17-21:53 西野委員長
・21:53-33:06 豊田社長
西野執行委員長
本日はオールトヨタの競争力強化について議論をさせていただきました。「自分たちはまだまだ負けている点があること」「トヨタはグループの方々にお支えいただいていること」「相手の立場に立って、一つひとつの言動を振り返る」など今回の議論を含め、しっかりと組合員一人ひとりが理解して、腹に落としていただけなければ、この先「トヨタと一緒に働きたい」「応援したい」と思っていただける会社に近づくことさえできないと思っております。労使という枠組みを超え、トヨタ全体で意識・言動の両面での改革を進めてまいりたいと思いますので、よろしくお願いします。
本年のこれまでの労使協議会では、変革を進める上での職場の課題や、オールトヨタの競争力強化に向けて議論させていただきました。組合からは、職場の組合員の声をもとに、素直に現状をお伝えさせていただきました。会社においても、多くの幹部職・基幹職の方も含め、隠すことなく本音でお答えいただきました。そのことは大変勇気がいることでなかったかと思いますし、率直にお話いただいたことに対して改めて感謝申し上げます。
また、今回、この労使協議会での場で、少しではありますがこういった本音の会話ができるということは、それぞれの職場でもできるということだと思っています。あらゆる職場で、今後さらに本音で正直に、隠さない、ごまかさない会話を進めていきたいと思います。
今回も含め、ここ数年の労使協では、組合からミドルマネジメントの方々に、さまざまなお願いを申し上げてきました。しかし、もちろん、職場の中には既にそれらを実践いただいているマネジメントの方も多くおられます。私自身さまざまな職場に入る中で、組合独自の活動である「やめかえ運動(※)」に対しても、「やめかえは、会社・組合関係なく、みんなで取り組もう!」と職場をまとめていただいている課長や、労使垣根なく外を学び、仕事を一緒に変えようとしてくれる室長・GMなど、ともに取り組んでいただいているマネジメントの方を、多く目にしています。
また、特に組合員に近い基幹職には、大きな変革と目の前のオペレーションのはざまで、自ら手を動かしながら、自分が一メンバーだったころの成功体験を捨てながら、組合員に寄り添い、一緒に戦ってくれる人も多くいます。そうした上司のことを組合員は尊敬し、一緒に戦っていきたいと思っておりますし、心から感謝しています。そのこともこの場でお伝えさせていただきたいと思います。
最後に本年の要求に対しまして、前回の労使協議会でも話がありましたように「組合員が本当に変われているのか」「会社の変革に向け、一緒に取り組もうという姿勢があるのか」。また、「関係各社の皆様から応援されるにふさわしいトヨタパーソンになっているか」。こういったことを確認したいというお話がありました。この3つの観点について、これまでお話ししてきた通り、すべてに対して全員ができていると言える状況ではありませんが、今回の議論を通じて、「皆が変わるために何が必要か」「何を解決しなければならないか」について、互いの認識を深めることができたと思います。これをもとに確実に次につながる一歩を踏み出してまいりたいと思います。
(※)やめよう・かえよう・はじめよう運動
豊田章男社長
本日の議論のテーマは、「オールトヨタの競争力向上」でした。いつも申し上げていることですが、トヨタグループの競争力の原点は「TPS」だと思います。
先日、久しぶりに、東京にある「オリパラ輸送オペレーション改善部屋」を訪問しました。ここには、東京オリンピック・パラリンピックに向けて、「TPS」の思想に基づき、輸送の仕組みを考え、実務に落とし込もうとしている我々の仲間がいます。トヨタコネクティッドや日野自動車といったグループ会社と連携し、世界各国から来日する大会の主役であるアスリート、大会を支える関係者の方々の移動を、安全・安心で、快適なものにしようと奮闘する姿がありました。
自分たちの手作りのジオラマや「からくり」を応用した装置。日野自動車と一緒に考えた車椅子の方がバスに乗り込まれる時のスロープなど。現物を使いながら、どのような輸送システムを実現しようとしているのかを説明してくれました。
私は、疑問に思ったことを次々に質問しました。「ここで、バスの滞留が発生するんじゃないの?」「バス運行が遅れた場合、見えるようになっているの?」「システムが停止したときの対応はどうするの?」「e-Paletteの時速19㎞は結構速いよ。急停止したときの乗客の衝撃は体験してみた?」。しかし、私が質問したことのほとんどを、すでに考えて、現地現物で、対応してくれていました。
私と一緒に説明を聞かれていた社外の方々は、その様子をご覧になって、「まるで台本があるような やり取りですね」「社長はいつも『会話が通じない』と言われているのに、今日は会話が通じていますね」といった感想を話してくださいました。私もそう思いました。
「会話が通じた」のは、いったいなぜでしょうか? それは「TPS」という共通の思想、共通の言語があるからだと思います。もう少し言うと、説明をする側と私の間に、共通の「モノと情報の流れ図」があり、両者がそれをイメージしながら会話をしているからだと思います。
東京オリンピック・パラリンピックは、政府関係者をはじめ、多くの方々が関わっておられます。トヨタの看板だけで、仕事が進められる世界ではありません。それでも、彼ら彼女らの取り組みが、少しずつ、周囲の方々に受け入れていただき、いろいろな準備が前に進んでいます。
それは、なぜでしょうか? 私は、彼ら彼女らが、トヨタの看板ではなく、TPSの思想と技能で、仕事をしているからだと思いました。周囲の方々がTPSの思想と、それを具現化した仕事の仕組みに納得、共感をいただいているからだと思いました。私自身、トヨタグループの競争力の原点がTPSであることを改めて感じた1日でした。
トヨタの事技系職場でも、「仕事のやり方を変えよう」といろいろ考え、努力してくれていると思います。そこにTPSの思想はあるのでしょうか。「自工程だけではなく、モノ・サービスをお客様にお届けする最後のところまで、全体の流れを見る」「ムダを省いて、リードタイムを短縮する」という考え方はあるでしょうか。
私はトヨタで働くすべての人に、TPSの思想と技能を身につけてほしい、その上で、それぞれの専門技能にも磨きをかけてほしいと思っています。TPSは生産現場だけのものではありません。大野耐一さんが生きておられれば、TPSを工場に閉じ込めるのではなく、必ずお客様までつなげられたと思います。
そのためには、TPSに必要な能力、それぞれの仕事に必要な能力を見える化し、計画的に育成していくための「能力MAP」が不可欠だと思います。「事技系職場には関係ない」などと思わずに、執行役員や幹部職、基幹職以上の皆さん自身が、TPSを理解しようと努力をする姿を、組合員の人たちに見せてほしいと思います。これを疎かにして、トヨタグループの競争力を語ることなど、意味がないと思うからです。
昨日、役員体制の見直しを発表いたしました。今回の変更のポイントは、副社長という階層をなくし、執行役員に一本化したことです。社長就任以来、大規模リコール問題や東日本大震災など、数々の難局に直面し、それを乗り越える中で、「トヨタとは何か」、「トヨタらしさとは何か」という原点に立ち戻ることの大切さを、私自身、身をもって学びました。トヨタで働く者の基本姿勢は「素直、正直。ごまかさない、隠さない」ということであり、トヨタの競争力の源泉は「TPS」であるということを再認識いたしました。
しかし、成功体験を積み重ねる中で、こうした「トヨタらしさ」が徐々に失われているのではないかということも痛感いたしました。私たちが継承してきた良いところは一層強化し、充実していく。一方で、これまでの悪い慣習は、私の代で一気にやめて、「トヨタらしさ」を取り戻す。そうしなければ、次世代にタスキをつなぐことなどできないと思っております。タスキというのは放り投げてはいけません。必ず手渡しでつなぐものです。今回、副社長という階層をなくしたのは、次の世代に、手渡しで、タスキをつなぐためです。そのためには、私自身が、次世代のリーダーたちと直接会話をし、一緒に悩む時間を増やさなければならない。それが私の正直な気持ちです。
少し踏み込んだお話をしたいと思います。右肩あがりに台数が拡大していった時代は、どんどん仕事が細分化され、そのぶん役員の数も処遇を目的に増やしていった結果、同じ機能の中で、屋上屋を重ねることになったのではないかと思っております。私が社長になった当時(2009年)の役員の数は、取締役29名、常務役員50名、合計79名でした。それを2年後(2011年)には、取締役が11名、専務役員と常務役員が49名の合計60名に減らしました。それが今(2020年)では、取締役9名、その他(ほか)の役員19名の合計28名にまで大きく減らしてまいりました。
今のトヨタにおいて、責任者は、私ひとりです。執行役員は、今のトップを支える経営陣であるとともに、次のトップの候補生でもあると考えております。そのためには、一つの機能ではなく、二つ以上の責任範囲をもち、より大きな視点で会社を見るトレーニングをし、トップの役割である「責任をとること」と「決断をすること」ができるようにならなければなりません。
昨日発表した体制も、今年の4月の段階では、まだまだスタートポイントに立ったばかりの「過渡期」であり、今後も随時見直しをしていくことになると思っております。「過渡期」という言葉を使ったのには、理由があります。
これまでの労使協議で、基幹職以上の中にも、組合員の見本になっていない人たちがいるということを聞き、本当に申し訳ない気持ちになりました。幹部職以上の仕事のやり方において、「トヨタらしさ」を取り戻す。これを、私の代で、何としてもやりきらなければならない。そのために、今後も聖域なく見直しを実行していく。こうした決意を込めて、あえて「過渡期」という言葉を使いました。
また、前回の労使協議では、「今のトヨタに根付いてしまっている『もっと偉くなりたい』という意識を『もっと成長したい』という意識に変えていきたい」ということを申し上げました。上位の肩書きがあればあるほど、人は「もっと偉くなりたい」と思うのではないでしょうか。
これからは、「社長」というポストを目指していけば良いと思っております。ただ、実際に社長になってみると、あまり居心地が良い場所ではないこともわかるし、「こんなにも孤独な場所だったのか」と驚かされると思います。今回の役員体制の見直しは、「偉くなりたい」「他部署から後ろ指をさされたくない」から「負けている、負けたくない、だから自分は成長したい」に変えていくための経営者養成の仕組みだと捉えてほしいと思います。
最後に、これまで副社長であった皆さん、チーフオフィサーの皆さんと一緒になってやっていくということは、今後も、何ら変わりはないと思っております。
これまで3回にわたり、話し合いを進めてまいりました。昨年に比べて、本音の本気の話し合い、家族の話し合いに近づけたのではないかと思います。来週の指定日には、今回の労使協議だけではなく、昨年からずっと悩み、苦しみながら向き合ってきた労使の姿を思い起こしながら、回答したいと思います。その時は、西野委員長の真正面に座って、組合の皆さんの目をしっかりと見据えて、皆さんの心に向かってお答えいたします。本日もありがとうございました。