「問題意識はあったけど、進め方が分からなかった」。長年積み残された課題にトヨタと仕入先はどのように挑んだのか。
女性も働きやすく
物流以外では、検査現場でのからくりを使った改善がある。次の動画をご覧いただきたい。
動画に映っている検査後の製品をまとめた箱の重さは約11キロ。黒田精機製作所の検査現場は女性が多く、この箱を運ぶ作業が大きな負担になっていた。
改善後は滑車を使った“からくり*”を使うことにより、作業者は定位置で検査でき、重たい箱を運ぶ作業からも解放されている。
*電気や高出力モーターなどを使わず、重力やテコなどを利用して効率を上げたり作業を楽にする道具や仕組み。例えば「足で開くごみ箱」や「自動開閉の傘」など、身近な道具にも応用されている。コストを抑えられるとともに、省エネにもつながっている。
このからくりは、黒田精機製作所とトヨタのグローバル生産推進センター(GPC)でつくったものだが、活動を始めた当時、黒田精機製作所のメンバーは全員からくり製作未経験だった。
「からくりとは何か?」を知るため、黒田精機製作所のメンバーはトヨタの元町工場(愛知県豊田市)にある「からくり発想館」を見学。GPCとの「合宿」も実施して、溶接や組立の基本から教わりながらつくり上げていった。
上の写真の女性は妊婦だが、からくりのおかげで楽に作業ができている。黒田社長は「今までのやり方だったら、『妊娠したら続けられない』、『他の部署に変えてほしい』、『会社を変わりたい』と言ったかもしれません。でも、『出産間際まで仕事をします』と言ってくれて、そういうのは本当にうれしいですね」と目を細める。
全くなかった発想
グル連活動で設備の故障を直すことができた例も。
金属部品を加工した際に出る金属片(切粉)から、切削油と呼ばれる油分をリサイクルするために取り除く「切粉遠心分離機」という設備がある。
この設備のブレーキに故障があったのだが、メーカーもすでに廃業しており、直し方が分からず、修理業者に頼むにも200万円と高額な費用が必要だった。
そこで黒田精機製作所のメンバーは、活動を通じてGPCに相談。故障の原因を調べていくうちに、回転を止めるブレーキパッドの破損と摩耗が見つかった。
設備を分解しての修理には非常に大きな工数がかかるため、GPCがクルマのブレーキパッドを加工・後付けすることを発案。これは黒田精機製作所のメンバーも「全くなかった発想」だった。
サイズなどを検討した結果、使ったのはRAV4のパッド。黒田精機製作所のメンバーも一緒になって治具や部品を製作し、結果として安価かつ少ない工数で復旧にたどり着いた。
今、黒田精機製作所ではパッドの取り換え頻度を半年ごとと定め、マニュアルも作成し、独力で再発防止に努めている。
ここまで紹介してきた物流改善や、からくり製作といった事例は、黒田精機製作所で取り組んだグル連活動の一部。活動の統括副責任者を務めた川瀬紀夫 執行役員は、トヨタから一方的に教わるのではなく、一緒に取り組めたことが大きいという。
黒田精機製作所 川瀬紀夫 執行役員
現場の受け手が改善を進めるときに一番困るのは、宿題的に「これやっといてね」と言われることです。
それだと非常にやりづらいなと思っていましたが、実際にご指導いただくと、とてもフレンドリーで、わからないことがあれば全て教えていただける。
すごく距離が縮まっていって「みんなで一緒にやっていこう」という雰囲気で、本当に楽しくできたのが一番いいところだと思います。
さらにGPCさんともっと近い関係になって、「こういったこと困っています」と話をすると、「こうしたらどうですか?」とアイデアをいただける。
グイグイ教えていただけると、からくりの担当も楽しくなって、どんどんいい形になっていったことが現状の結果につながったと思います。