失敗を恐れず挑戦できる職場は育っているのか、余力の創出は? 労使協議会での決意を形にしていくため、再び労使は本音で話し合った。
本音が言えない、本当のことが言えない
2つ目の議題は「本音が言えない職場風土」について。組合の光田聡志書記長は「改めてこの場で申し上げるのが良いのかは悩むところですが」と切り出した。
光田書記長
課長に対して、工長の方がなかなか本音を言いづらい、もっと言うと、本当のことが言えないという職場も一部あります。
上位の意に沿わないようなことを言うと、後々、自分が冷遇されるんじゃないか、厳しい指導されるのではないか、自分が損をするのではないかと、言いにくくなっているという声を、一部の職場からは聞きます。
また、次のポスト長を担う方が誰なのか、あまりにも職場の中で見えすぎていて、そういう人たちに言いにくいということ。
言葉が本当に不適切ですが、その職場の中で主流になる方とそうではない方で、派閥みたいになって溝が出来ているということも一部の職場からは聞いています。
こういう構造を組合員側で作っているということもあると思いますが、現状を会社がどう認識されているのか。アクションを起こそうとしていることがあれば教えて頂ければと思います。
本音の話し合いを進めるトヨタにあって、いまだに残る上意下達の風潮。上郷・下山工場の斉藤富久工場長は「こういったことが現場で起きると、現場のチームワークやチャレンジする妨げになる」とし、解決策を講じていく考えを示した。
事務系の職場では、長田准Chief Communication Officer(CCO)が自戒を込めて語った。
長田CCO
僕自身の反省としても、物を伝えていくときに大きな考え方と枠組み、これを伝える時間が中途半端になっている。あるいは忙しすぎて方法論だけを説明している。
部長たちとコミュニケーションしていると、皆さん忙しいので、結果的に方法論だけを説明して、目的とか枠組みというところは伝達が少なくなって、結果的にGM以下の皆さんは、上位下達、あるいは方法論だけの伝授になって、なかなか伝わらない。あるいは、そういった中で本音が言えない。そんな構造になっているんじゃないかと思いました。
2月の労使協では、かつて豊田章男会長が語ったボスとリーダーの違いについて触れ、「今のマネージャーは、トヨタの企業文化、企業風土で、比較的ボスが多いんじゃないか」「価値観が近い人、働き方が近い人を登用してきたんじゃないか」とも語った長田CCO。
光田書記長は、当時のコメントにも触れつつ上位間でのコミュニケーションを求めた。
光田書記長
長田さんには春の労使協の時にも、反省も込めてということで、ボスみたいなマネジメントではなく、もう少し丁寧に向き合いたいとおっしゃっていただいたと思います。
これは長田さんだけではなく、上位のトップの皆さんたちの名前を出すことで、すぐ仕事が進む、早いということもあると思います。
先ほど長田さんおっしゃったように、ミドルの皆さんが組合員に向き合っていただく時間もそうですが、ミドルの皆さんからさらに上位へコミュニケーションを増やしていただけると変わるのではないかと思っています。
生産本部の伊村隆博本部長は、マネジメント層も現地現物でのコミュニケーションが重要と説く。
伊村本部長
過度な上意下達の風土で本音を言えないと言われていました。すぐ先のターゲット、いつまでにやるかが先に走って、なかなかプロセスが見えてないというのが一つあると思います。
職場実態を無視した業務付与は絶対あってはならないと思っています。
我々マネジメント側が「困ったら言いに来い」という話ではなく、いかに日々現地現物で寄り添いながら、職場の状態がおかしい、異常があるなと思った時に、そこに行って何が起こっているかをつかむことが大事だと思います。
7月に立ち上がった水素ファクトリーの安井慎一チーフプロジェクトリーダーは、アメリカで学んだコミュニケーションの3手法を紹介。
安井チーフプロジェクトリーダー
多人数で会って話し合うコミュニケーションで、そこでネットワークを広げていくのが1つ目のネットワークづくり。
2つ目のハイクオリティコネクションは1on1ミーティングです。日々、部下の方が何を悩んでいるか? 議題は決めずに30分時間をとると、業務報告をする人もいれば、家族の悩みを言ったり、いろいろ話ができる。1on1で話をすると本音が出てくる。
先ほど長田さんが向き合う時間をとるという話をされたので、それも一つの手法かもしれません。
最後の日々の挨拶とは、ネットワークを使っていろんな人と知り合って、朝あるいは夜帰る時、会う時に挨拶をするだけで、チームメンバーが何か悩んでいると、そこからちょっとだけ1on1ミーティ相談が始まる。
ネットワークを作って、いろいろな人と知り合うのが重要ですけれども、月に1回は直接部下と1on1ミーティングをやり、日々の会話の中で本音、あるいはコミュニケーションが上手く取れるということを学びまして、私はそれを北米時代やらせていただいた。
ここから現場の苦悩の声は、さらにトヨタの競争力の源泉にも及んでいく。