労使協議会から約2カ月。労使が再び集まった。生産性向上へ覚悟を決めて動き出した現場では、一歩踏み出したからこそ見えた壁もあった。
現場と向き合うアドミ
事技系職場では、今年の労使協で「現場に出る」重要性を感じた経理部の組合員が、経費処理システムを使用する他部署を訪れた話が報告された。
そこで聞かされたのは、自身が課題だと感じていた工程とは別のところでの「手間だけどルールだから仕方ない」という諦め。
一つひとつのデータに数字の間違いや記入漏れがないかを目視で確認しながら進めており、非常に地道に時間をかけて行っていたことを目の当たりにして、現在はシステム部門とともにシステム構築を進めている。
この事例を説明したコーポレート支部長は、さらに次のように話した。
組合・コーポレート支部長
自分のアウトプットの先に(使う)人の顔が見える、はっきりと思い浮かぶからこそ、今まで以上に手触り感ややりがいを感じられて仕事ができていると思っています。
こうした働き方の変化は、今事技職の例でお話させていただきましたが、業務職にも広がり始めていると思っています。アドミ(管理部門)人材として(自動車産業)550万人の仲間のために貢献したいという想いで、業務職の方がトライアルで始まる仕入れ先様への研修出向に自ら手を挙げ、6月から行ってきます。
これまで全く経験したことがない業務や現場に自ら飛び込んでいく。そして現地で仕入れ先様から学び、貢献していくという新しい挑戦も始まっていると思っています。
人が何を感じ、何に困っているかを察知するかは、現場でしかできないことだと思います。先ほどありましたAIにはできない、私たちアドミが現場で果たすべき本質的な価値、技なのかなと思っています。
さらに秋山副委員長が「プラットフォームやいろいろなツールがあるだけでは本質ではないと思います。組合のレベルでは、いろいろなものを見た人に意志が生まれて、(自ら)動いていくというきっかけをどんどん増やして、広げていきたいと思っています」と補足した。
ここで、これまでの話し合いを聞いていた中嶋裕樹 副社長が「組合も会社も行動したから見えた景色のお話をたくさんいただけて非常に心強く感じました」と切り出した。
中嶋副社長
皆さんとシェアしておきたいのは、生産性向上というために今までは「これをやればもっと生産性を向上できるよね」という、どちらかというと積み上げ式でした。「やめかえ*」という言葉が、掛け声としてはあるんだけど、なかなか進まず、結果としてオーバーフローしているというのが現実だったと思います。
*やめよう・かえよう・はじめよう運動。仕事をやめる・変える活動。
先般の労使協議を受けて、会社としても、皆さんと協力して、例えば部品の仕様の数を減らしましょうということや、さらに一歩踏み込んでプロジェクト自体の数も(見直しています)。これは単純に減らすということではありません。付加価値の高い商品をつくるために、量産でしっかりとたくさんのクルマを提供するものは、もっと効率的につくろうとか、さまざまな群戦略等をやってきた結果、我々にはその経験があります。今回開発の方も、生産の方も、さらには販売の方も一枚岩になってプロジェクトの数と適正化というものをやってまいりました。
ここで気にしなければいけないのは、誰かがそのやめる仕事を担当しているということです。
種類削減の結果、その仕事をやらなくてよくなった。
誰もムダな仕事をしているつもりはないですが、会社の判断で、皆さんとの判断で、やめる仕事をしている方がいるということに、ちゃんと注目しなきゃいけないと思うんです。
そこを組合も会社もケアしなきゃいけないし、その人たちが次のまた新たな活躍の場で仕事をしてもらうことを考えなきゃいけない。
私は、先般の労使協で「やめるのは怖い」と言いました。本当に怖いです。
きっと(その仕事を)やってきた方々からすると、「今さら何なんだ」という声も上がってくると思うんです。ですから「やめる・変える」というのは、本当に大きな決断とともに痛手を伴うものであるということ、そういう人たちにしっかりとフォーカスして、ケアをしながらやっていかないといけないということを忘れてはいけないなと思っています。
その意味で、横の連携の話になっていましたが、考えなければならないのは、部署というのはある目的があって、ある量の仕事を行うために存在していますよね。
仕事の量が減ったのであれば、人の数も増減する。例えば仕事がまだ減ってない部署に対して応援をする。生産現場では、ある意味当たり前の仕組みとして出来上がっていると思いますが、事技系の職場ではなかなかその壁が取り払えていません。
本部長同士の連携というのであれば「私のところはだいぶ仕事が減ったよ、あなたのところはまだ減ってないよね。応援出すから、一緒にもっと効率を上げようよ」と、こういう会話につながらないといけないです。組合も自分たちのところでは(問題が)なくなったからよかったではなく、隣の部署が厳しいなら「サポートしたいけれどどうすればいいだろう」と、こういう議論を横の連携というのであればやりたいと思っています。
まずそれを率先するのは、私たち経営層ですし、本部長たちだと思います。
現場で起こっている問題をどんどん上げてもらって、どんどん人材の流動性も確保でき、さらに良い経験を積んで、成長も感じられるようになっていけば、もっと生産性は上がっていくと思うんです。
「今携わっている仕事をやめなければならない人へのケア」と「人材の流動性の担保」。中嶋副社長は、特に事技系職場で推進していってほしいと訴えた。
中嶋副社長の話を受けて、大野芳徳 総務・人事本部長は「現地現物というのが、まさに横のつながりを表している言葉だと思う」とコメント。さらに「会長がよく現地現物に行かれるのは、現場に行って課題を見つけ、解決するためですが、問題を見つけて解決するんだという覚悟を持って現地に行かれているというところもあります。皆さんの覚悟というものも今ヒシヒシと感じた」と続けた。
ここで宮崎副社長が、かつて組合の支部長から教わったエピソードを披露した。
“5つのワーク”
宮崎副社長
(当時の)支部長から教わったのは「俺はな“5つのワーク”というのを大切にしているんだ」ということでした。
ごくごく当たり前のことかもしれませんが、その時は感銘を受けたんです。
「俺はまず『フットワーク』で動いて、自分の『ネットワーク』を広げるんだよ。そうしたら現場の情報が入ってくるんだ。その現場の情報で考える『ヘッドワーク』をするんだ。でも1人だと限界があるだろう。だから支部のみんなで『チームワーク』をするんだ。でも最後は、試合に勝てばいいばっかりじゃないんだよ。最後は『ハートワーク』がないと、その関係は続かないんだ。だから仕事も同じで、情報をもらって、自分たちがヘッドワークしてチームワークで試合に勝てるようになったら、今度は恩返しをするんだ」
こういう話を、僕は皆さんの立場にいるときに習ったんですね。
先ほど皆さんの話を聞いていて、昔だと書類をつくって会議で上司に発言してもらおうとすると「いい資料ができたな。でも事前に(他の職場に)言うんじゃねえぞ」とか、どこかで改善が始まると「あそこでこんな改善をやり始めた。うちも負けちゃいられない。すぐにやれ」とか。
もう今は違うじゃないですか。何か(いい改善や手法が)あったら「こんなことやっているんだけど、使う?」と「いいことやっているね。使わせてもらうよ」と。これがどんどん起こっていくということ(が理想)かなと、今日改めて思いました。
中嶋さんも言ってくれましたが、まずは我々、執行メンバーがそういう行動を起こしていきたいですし、その背中を見てもらって、本部長たちも動く。それを見て、部長たちも動く。最後はみんなのところまで届いていけばいい。そんな循環にしていきたいと思いました。
横の連携の深化や機能の壁といったことは、これまでも労使間で話し合われてきた課題だが、秋山副委員長は「仕事がスタックするような壁は減ってきているという実感があります」と語る。
秋山副委員長
我々が言う「横の連携」というのは、日常的に知っている他部署の人とうまく話していたり、他部門同士でよく話すということももちろんありますが、それが目指すべき状態なのか?
衣浦の事例で伝えたかったのは、意外とお互いを全然知らないということですし、中嶋副社長のお話を聞いて「やめる仕事をしている人間がいる」ということに我々どこまで思いを馳せられていたのかというと、まだまだ足りないと思います。
より生産性が高い仕事をしていくために、横の連携が今の形で良いのか「もう連携しているよ」とならないように、職場の中で地道に向き合うことに取り組みたいと思っています。
一律でこれをやれば全てが横連携できるという話では全くありませんが、アドミの事例がありましたように、意志ある行動のきっかけは現場に行くとか、モノを見るということだと思います。会社の皆さんから後押しやきっかけを、さまざまなところでつくってくれていると受け止めています。職場にはちょっとした後押しで一歩踏み出せる人もたくさんいると思いますので、一緒になって向き合いたいと思っています。