生産性向上へ、今足りないものは何か? 補うために必要な行動とは? AI時代に求められるのは、現場で磨かれる人の「技」だ。
中嶋副社長が明かした胸中
組合が訴えた悔しさ、会社が示した覚悟に、中嶋裕樹 副社長が手を挙げた。「ありがとう」と切り出した声は震えていた。
中嶋副社長
ありがとうございます。たくさんのお客さまに、楽しんでもらうべきクルマをお届けできない。その悔しい想いが伝わってきました。会社側も、施策としては、まだまだレベルは高くないかもしれないけど、やれることはやっていくという宣言はしてくれたと(思います)。
問題はこれをどうやって広げていくかだと思います。
いろいろな施策は、まだまだマイナスをゼロにすることかもしれないけど、その中には、ゼロをプラスにするような勢いを感じるものもあります。これを組合の皆さんと一緒に育てていきたい。
正直、こんなことでは怒られますけど、やめるのは私も怖いです。今まで通りやっていた方が安心だし、たくさんのバリエーションを持っていた方が、お客さんに選んでいただける。それが強みだとも信じてきました。
ですが現場はここまで疲弊している。だからこそやめる決断をするのは、宮崎さんや私の立場の仕事だと思います。役割だと思います。
なので、ここはしっかりと受け止めて、勇気を持って(やります)。ただ、お客さまの選択肢を狭めない形でどうやって減らすか、ということはしっかりやっていきます。
目に涙を浮かべ心情を吐露した中嶋副社長。「もう1つ、一番大事なことは…」と続けた。
中嶋副社長
今私たちがたくさん良い商品を出して、お客様からも「商品力高いね」と言ってもらえているのは、実は先輩たちが頑張って種をまいてくれていたから。今はその刈り取りをしているだけだと思うんです。
私たちは、10年後の皆さんに何を残していくのか? これは人材育成しかないと思うんです。
人材育成は厳しいです。つらいこともあるし、言いにくいことを言わなきゃいけない。でもそれが今、なかなかできない環境にもなっている。
アイデアもありました。OBの方だとか。それも1つの手かもしれません。だけど、皆さんの技術力を鍛える場というものが、やはり疎かになっていると思うんです。
自分自身が現場に降りて、問題を発見して、その場をつくっていくことが、責務だと思います。
会社側のここにいるメンバーだけじゃなくて、部長も、室長も、幹部職も、基幹職も、全員に向かって言います。一緒にやらないと、10年後のトヨタがないということだと思います。
今はしっかりと足場固めをし、やめることはやめ、人材育成に時間をあて、10年後にも、お客様に笑顔になっていただける商品を届けていく。これが我々の使命だと思っています。
今商品力の高いクルマを出せているのは、先輩方がまいた種があるから。中嶋副社長の言葉に、組合・会社双方の参加者が大きく頷き、組合を代表して江下圭祐 書記長が応えた。
江下書記長
(会社からは)本当に覚悟がいるアクションを示していただいたと思います。我々もそういった意識で全力で取り組まないといけないと心の底から思っています。
赤尾さんから販売店の話もしていただきましたが、販売店の皆さんは我々の想いを理解いただいて、共に頑張ろうといつも言っていただいていると思います。
そういった販売店の皆様の期待に絶対に応えないといけないと思いますし、本当に身が引き締まりました。
最後に中嶋さんから、本気の想い、涙も見せていただいた。持てる全エネルギーを行動に変えて、ワンチームで頑張っていきたいと思いますので、ぜひよろしくお願いします。
ここで、山本正裕 総務・人事本部長が「ひょっとしたらトヨタの強みが弱みになってしまうんじゃないかという可能性がある」として話し始めた。
管理部門の技の磨き方
山本本部長
3年前から今に至るまで、ほかの自動車メーカーを見ると、ものすごい人員削減が行われています。
さまざまな理由があるかもしれませんが、他社さんも必死です。AIを使ってでも何でもやろうということで、死にものぐるいで闘っていると思います。
「トヨタさんはいいですよね、お金があって」などと言われることもあって悔しいです。たしかにAI一つとっても、会社のなかで利用している割合をご存知ですか?
たった2割なんです。
トヨタは安泰などとは本当に言えません。これは会社側にも、ものすごく強い危機感を持って今申し上げています。
これから3年後を考えたときに、多分もっと厳しい現実が待ち受けていると思います。
1つは雇用。日本では人手不足と言われています。今後も進展していくと思いますが、その人手不足の中身も、例えば物流や生産も含めた現場の人間や専門職といったところは、どちらかといえば人手が足りなくなる。
ですが、事務職は余剰になると言われています。半分ぐらい必要ではなくなるかもしれない。
これからはスペシャリストといいますか、99の欠点があっても1つの長所がある人たち、こういう集団がどんどん伸びてきて、我々は負けてしまうかもしれない。
「トヨタが強くなければいけない」という想いでみんな頑張っているんですが、ややもすると、トヨタという肩書きが強すぎて、もっといろいろなパートナーと仕事をしていかなければならないのに、トヨタの肩書きが(相手に忖度させて)邪魔をする。
だからこそ肩書きがなくても、しっかり自分の技を磨いていく。リスキリングをしていくことが必要なんじゃないかなと思っています。
総務や人事、経理といった、いわゆる“管理部門(アドミ)”は、会社の業務が円滑に回るよう、働き方を管理している部署だ。
こういった話は日ごろから東崇徳 経理本部長とも話しているという。
山本本部長から話を振られた東本部長は「TPS(トヨタ生産方式)の業務改善を通じ、マネジメントがやめる、変えるということを真剣にやっていかなければ、アドミが全社の皆さんの仕事をマイナスにしてしまう」と警鐘を鳴らす。
東本部長
国内出向、海外出向から戻ってきた後、仕事のやり方がトヨタのやり方に戻ってしまうという声を各職場から多く聞きます。そして、そのような方がトヨタを去っていくという実態もあると思います。
アドミも同じだと思います。私たち自身もアドミの仕事を奥の院でしてないか。まずアドミの幹部職から「自分たちに技があるのか」試していきたいと思います。
アドミの幹部職から、トヨタの肩書きを外して(社外に)出向いて、一緒に仕事をさせていただく。
管理するということではなく、実際何ができるのかを自分自身で感じる。これは、私自身もそうだと思います。
まずは幹部職からやっていきます。幹部職から始めて、将来的には組合の皆さんも一緒にやっていただきたいと思います。
「10年後に技がないと生き残れない」と語った東本部長。幹部職、基幹職から技を磨いていくという姿勢に、秋山大樹 副委員長は「本当にありがとうございます。トヨタの看板だけに頼って依存するのではなく、やはり一人ひとり努力しなければ」と返した。
雇用という観点では、秋山副委員長はさらに、将来的には今の仕事はAIに代替されてしまうのではないかという危機感が組合にもあるという。「幹部職、基幹職の皆さんが、率先して技を磨くと言っていただきましたが、そこは全く同じ意識でやっていきたい」とした。
今年の第1回労使協でも俎上にのったAI。競合他社も活用している現在、先進技術支部から「ただ使うだけでは絶対に勝てない」と声が上がった。