米国関税や他メーカーとの国際競争など、事業環境は一段と厳しさを増す自動車産業。生き残りをかけて、労使が実行に移すべきアクションは何か?
これって本当にいるんだっけ?
クルマ開発センター支部からはほかにも、テストコースの利用が混雑した際に「この評価やデータがすべて必要なのか?」という声があったと報告。そこから関係者が協議した結果、評価路の混雑緩和と全体の生産性向上につながったという。
ただし、こうした事例は一部であり、今までの基準や手法を見直すことにためらいがあるのも実情だと推し量る。「声をあげても『過去の取り組みだから』『何かあったら怖い』となかなかうまく進まない。ここでくじけてしまう」のではないかとして、組合としてもこうした声に真摯に向き合っていきたいと伝えた。
ルールや慣習の見直しについて、同センターの石島崇弘センター長は、ドアの開閉試験の事例を挙げた。
石島センター長
昨年の秋にTMEJ(トヨタ自動車東日本)で章男塾のTPS(トヨタ生産方式)自主研がありました。そのときのテーマが、ドアの開け閉めする操作力の試験のTPSを使った改善でした。
ドアの開閉試験というのはいろいろな要素があって、物のばらつきや、温度の差などがあって、結構たくさんやらなきゃいけない。
また、測定の装置をつけるのが結構難しくて大変だと。でも忙しいから何とかこれを短くしたいということで現場の皆さん、TMEJの皆さんが一生懸命考えていただいた。そのとき、さきほどの話と一緒ですが「これって本当にいるんだっけ?」という言葉があって、みんな一瞬目が点になってしまったんです。
今までその試験をやるということを疑っていなくて、どうやって短くやろうかということを一生懸命考えているのと観点の差をすごく感じたんですね。結果から言うと、実はその試験を少なくしましょうということで今動いています。
理由は、図面できちんと物理的な検証ができるということと、実は単品の試験もやっているから。単品の試験と図面の物理的検証、それから今までのデータの蓄積があれば、ASSY(アッシー:ユニット部品)の試験までは、そんなにたくさんやらなくても大丈夫だろうと。そういう理屈をきちんと理解した上で「これはやめましょう、減らしましょう、TS(トヨタスタンダード:トヨタが定めた設計基準)を見直しましょう」と。
聞いているといい話なんですけれど、ポイントは、何でそこに気付かないか、何でそれが言えないかというところじゃないかなと思います。
実はこれを事例に、さきほど性能主査とおっしゃっていただきましたが、実は60項目ほどのTSを見直し、もう1回やってみようかと。こういうのに拍車がかかったのですが、なぜ今まで見直しを提案しなかったのか、メンバーに聞くと、さっき言ってくれたように、「何でやっていなかったんだ」って後から言われるのが正直怖いと。「だったら念のためにやっておこう」というのが大半です。
あとは「過去問題があったから、TSっていうのはあるんだよね」と、このトラウマに囚われて、時代の進化とともにいろいろな技術が発展して、僕たちある程度きちっと担保できるのにも関わらず、「やっておこう」というところが根っこにあるなというのが、よくわかりました。
これは担当者だけが言っても、なかなか拾えないし動けない。マネジメント側から見て本当にその通りで、そうだよなと。
「それやってみようぜ」と僕たちがまず背中を押す、これも勇気です。経営側からも勇気がいろいろなところにないと、こういうことは進まないんじゃないかなとすごく思うんです。
あえて修羅場に
「組合員から反発されてしまうかも」。
こう覚悟をもって切り出したのは車両技術支部。品質不具合や開発遅れに関して、車両技術の責任が大きいと感じ、品質不具合ゼロ、開発遅れ撲滅を目指す中で感じたことを打ち明けた。
組合員から反発されてしまうかもしれないですが、覚悟を持って申し上げると、厳しい指導や修羅場が確実に減っています。それが多分、技術者を強くしたんじゃないかと、ものすごく思います。
怒られるのは怖いですし、すごくつらいですが、開発領域・技術領域がさらに次のステージに進み、10年後、50年後、トヨタがトヨタであり続けるために、技術者たちも成長しなければいけません。
ただ、一人だとどうしても乗り越えられないことがあると思います。そこに仲間がたくさんいれば越えていけると思うので、横のつながりを強めていくということについては、組合が一番責任と力の両方を持っていると信じています。
あえて厳しい環境に身を置くことで成長があるのではないか。従業員を守る立場の組合から出た言葉は、それだけに重い。勇気を持って打ち明けた想いに応えたのは、Mid-size Vehicle Companyの上田泰史 プレジデントだった。
上田プレジデント
なんでもっと、(つくりやすい)図面とか企画、(品質を保てる)仕様を出せなかったのか。本当にその悔しさでいっぱいです。
なぜできなかったのかということを、決して仕組みとかだけではなくて、もちろん仕組みの問題もあると思うが、想いみたいなものをしっかりと伝えられていたのか。
先ほど“修羅場”という言葉を使っていましたが、先週ぐらいに、いろいろな部署と方針の話をしたときに、つくってもらう図面を出すためには、決して開発だけではなくて「どうつくりやすくするか」という観点や「どう設備を止めないか」という観点も(必要)。
そのために、図面のDR(デザインレビュー:要求仕様・法規・性能・品質・製造性などを満たしているか確認、合意する場)というものが非常に大事だと思っています。
数値目標の達成状況を確認するだけの場ではなく、本当は部長もマネジメントも、修羅場という言葉が適切かどうかわかりませんが、もっと「うざい」と思われるようなDRの場にしないと。その想いは伝えていますし、ぜひやっていきたいです。
保全の方も、製造の方も、うざいと言ってもらえる場をどんどんつくっていくことかなと思いますので、一緒にやっていければと思います。
製造技術(製技)の現場では、テーマ別労使懇を実施する中で、もっと設計と製技が仲良く喧嘩しようと認識を合わせたという。
「お客様にもご迷惑かけていると思いますし、多くの仕入先にもご迷惑をかけていると思うので、もっとそういった人たちのことを考えて、想いをはせて、踏み込んで設計と意見を交わせないといけない」。組合からは、覚悟が足りなかったと声を詰まらせながら自戒する場面もあった。
志賀武文 生産本部副本部長は、仕事の正味率と絡めて、図面をつくるだけではなく、そこに至る人材育成や未来への弾込めも正味の中に入っているのではと提言した。
組合からはほかにも、事技系職場からAIを活用した生産性向上についての議論も。「AIを使うことが特別なことではなく、使うことが当たり前だという認識を全員で合わせていきたい」といった意見が出た。