コミュニケーションはなぜ低調に終わってしまうのか。対話を諦めさせない職場をつくるには? 全員活躍を掲げるトヨタの労使が交わした議論とは。
「対話は諦めちゃいけないし、諦めさせてはいけない」――。
北米本部の小川哲男本部長の言葉に、労使双方の出席者は大きくうなずいた。
11月14日、愛知県豊田市のトヨタ自動車本社で開かれた労使懇談会(労使懇)。前半は認証問題に関して、7月31日に国交省から是正命令を受けて以降の活動について共有が図られた。
再発防止や足場固めに取り組むことで、徐々に聞こえるようになってきた現場の本音。経営陣からは、「人づくり」「モノづくり」の観点で、それぞれ認証試験後の設計変更の多さ、老朽化更新が進まず正味率が低下していることなどの課題が挙がっていると伝えられた。
また、後半期に向けて「人への投資」を積み増すことに込めた想いについても説明があった。
労使懇はここから、組合が集約した現場の声の報告と議論へ移っていく。
組合の江下圭祐 副委員長が問題提起した。
対話への諦め、ハラスメントへの恐れ
江下 副委員長
認証問題の再発防止も足場固めも、メンバー、マネジメント、一人ひとりがしっかり立ち止まって、仲間、上司との対話を繰り返して、内省につなげていくことが何よりも大事だと思っています。
ただ、現場では、やっぱりそれができていない。なんでそうなってしまったのかという議論が行われないと、根本的な解決にはならないと思っています。
8月の労使懇を終えて、職場に一段も二段も深く入って出てきた現状の課題と、背景にある要因をまとめたものが、お示ししているスライドです。
大きく3つのテーマにわかれていて、1つ目が立ち止まることを許さない業務負荷、2つ目がとにかくこなす仕事の進め方、3つ目が対話への諦めです。
「対話への諦め」について、堤支部長が報告した現場の声は次の通り。
・工長、組長、TL(チームリーダー)は、スピークアップ *1 へ相談されることや、360度フィードバック *2 で悪く言われてしまうという恐れから、相手の顔色を気にしてしまう。
*1メンバーが職場での法令・コンプライアンスの違反やその疑いに気付いた場合、それらを相談・報告する窓口。
*2対象者の強み・弱みに関して、上司だけでなく部下など周囲からも声を集め、本人にフィードバックする制度。
・急な異動があると「何かしたのではないか」と周囲で噂が立ったり、問題がなくても変なレッテルを貼られてしまうという恐れ。
・工長、組長、TLや先輩に対して声のかけ方がわからない。忙しい姿を見ていると、話しかけづらい。
堤支部長は続けて、「クルマづくりはチームワーク」とし、日々の対話の重要性を強調した。
堤支部長
現状でも目の前の生産はできていますが、ハラスメントを恐れ、言いたいことを言えない。困ったことも相談ができない。仲間の変化にも気づけない。
そんな職場では、やりがいや働きがいを感じることは難しいです。
クルマづくりはチームワークだと思っています。一方通行のコミュニケーションになりがちなメールやチャット、資料や動画だけで、単に伝えるのではなく、一人ひとりが対話をしていくことで、日常の会話の積み重ねが支えになって、信頼関係が構築できるのではないかと考えています。
こうした声に対して、宮崎洋一 副社長は「スピークアップや360度フィードバックの目的について、正しい理解を得られるよう伝えられていないかもしれない」と応じる。