コミュニケーションはなぜ低調に終わってしまうのか。対話を諦めさせない職場をつくるには? 全員活躍を掲げるトヨタの労使が交わした議論とは。
キャリア入社者をめぐる不幸な状況
事業・営業・CF(カスタマーファースト)支部長は、キャリア入社者が、TBP * やTPS(トヨタ生産方式)といったトヨタの考え方を学ぶ間もなく、実戦投入されている現状を紹介。
*トヨタ・ビジネス・プラクティス。トヨタの問題解決手法。
一方、入社以来トヨタで過ごしてきた社員は、業務や研修の経験からTBPやTPSの考え方に慣れており、キャリア入社者の説明や資料が、そこに倣っていないと、理解できない、受け入れられないということが、一部で起きているという。
事業・営業・CF支部長
キャリア入社の方からは、「配属されたら単なる一工数として扱われる」、「自分のキャリアで得た経験やスキルを活用できない」といった、苦しさ、悔しさの声も出てきています。
慣れない職場環境で、努力をしているキャリア入社者、また、キャリア入社者に活躍してほしいと思っている職場双方にとって不幸な状況になっています。
また、私たちトヨタで働く従業員が持ってしまっている、トヨタのやり方や考え方が正しいんだという無意識な自信、ある種の傲慢さがあるのではないかと思っています。
こうしたことを背景にして、外の価値観に対する受容性の低さがキャリア入社者に対する課題の要因になっているのではないかと思っています。
総務・人事本部の東崇徳 本部長は、対話の場づくり同様に、キャリア入社者を孤立させないコミュニケーションの在り方についても「一律ではない」と応答。「各職場の本部長やプレジデントにもお任せしながら、その職場に合うやり方を、組合の支部とも連携しながらつくり上げていきたい」と続けた。
軽視される段取り、増える手戻り
江下副委員長が提起した「立ち止まることを許さない業務負荷」については、特に技術系職場で、新しく難しいプロジェクトに取り組む中、計画や段取り軽視によって手戻りの負担が増加しているという。
目標未達という異常が見つかった時点で、作業を止めて原因追究すべきところを、「『今、本当に仕事を止めて、追究に時間を費やしていいのか』と一瞬のためらいが生じる」。「『本当に止めていいのか。本当にできないと言い切れるのか』と証明ができず、止めきれなかった実態があるのではないか」――。
組合からはこのような声が上がった。
中嶋裕樹 副社長は、「仕事は段取りが大事」と同意しつつ、続けた。
中嶋 副社長
足元の認証問題もそうでしたが、品質問題を振り返ってみても、この段取りがなかなかしっかりできていない。まずやらせてしまう(状態になっていた)。
経験のない初めての仕事に対して、段取りがしっかり与えられず、よくわからないけどやらなきゃいけない。やってみたときには、もう図面が完成していてモノを手配しなきゃいけない。その時には日程的に非常に厳しいタイミングとなっているため、そのままGOがかかってしまう。
このときに何とか図面をみんなで見ようというオポチュニティ(機会)があれば良いですが、残念ながらその機会も失われて、そのままモノができ、クルマができ、評価してみると想定外のことが起こる。こういうことが繰り返されていると思います。
初期段階で予定通り人がアサインされていて、リソーセスが担保されているプロジェクトは、後半も大きな問題が起こりづらい傾向にあります。
リードタイムの議論をしますと、各工程でリードタイムを詰めるんだと勘違いされますが、逆だと思っていて、この段取りの部分については時間を延ばすべきだと思います。
その結果、TPSで見えてきた停滞がどんどん減ってきて、トータル的には競争力のある開発プロセスができるんじゃなかろうか(と思います)。
特に開発の初期段階だとか、図面を書くときに、たくさんのベテランの方、知見を持った方に全身全霊で入り込んでいただいて、この初期段階の段取りをみんなで議論する。
それで失敗することもあります。それは我々の今の能力を超えているのだから、失敗と認めて止めればいいと思います。
この段取りがしっかりできていないことが大きな課題で、それは規模が大きくないプロジェクトや日常の業務においても、根っこは一緒なんじゃないかと感じています。
実行にはなかなか難しいところもありますが、見えてきたことを共有するとともに、こういう議論をもっともっとそれぞれの階層でやっていくことが重要なのだろうと思いました。