モビリティ・カンパニーへの変革は、労使双方で継承すべきものを理解してこそ。第1回の話し合いでは、豊田章男社長の13年間を振り返った。
【商品・地域軸の経営】TNGAとカンパニー制の、次の段階とは
商品軸を語る上で欠かすことのできない考え方が「もっといいクルマづくり」。
豊田社長が主導したTNGA*とカンパニー制は、トヨタのクルマづくりを支える柱となっている。
*Toyota New Global Architecture。「もっといいクルマ」を実現するため、クルマを骨格から変え、基本性能と商品力を大幅に向上させるクルマづくりの構造改革会社・中嶋裕樹 次期副社長
TNGAは、もっといいクルマづくりに向け、パワートレーンやプラットフォームを刷新。結果として、格好がいい、走って楽しい、クルマとしての素性の良いベース・道具を手にすることができたと思います。
また、カンパニー制では機能間の壁を取り払うことで、お客様目線でこだわるクルマづくりの機会を得ることができました。
カンパニーには、担当のクルマに愛着を持ち、そのクルマのことを最優先に考える人たちが集い、意志を持って決断、行動しています。
TNGAとカンパニー制。この2つを武器に、4代目プリウスを先頭にロングセラーモデル・カローラ、カムリ、ヤリスなど40を超える車種をお届けできています。
「もっといいクルマづくり」に賢さという進化も加わり、多様な商品を群として、タイムリーにお客様に提供できるようになったと思います。
まさに今、TNGAとカンパニー制は、次の段階を迎えるのではないかと感じています。「電動化・知能化・多様化」。これはTNGAをさらに進化させ、ハード、ソフト両輪で進んでいくのだと思います。
また、それを支える人財育成を加速させていく必要があると思います。
豊田社長にはずっと背中を見せてもらいました。この新体制チームがバトンを受け取り、これらの土台を未来に伝え、残すこと。
そして、ハードからソフトへの時代、電動化のさらなる進展に向け、土台をさらに発展・進化させ、強固なものにしていくことが私たちの責務だと考えています。
これからも組合・会社の枠を越えて、現場で一緒に汗をかく「家族」として、この継承と進化を続けていきたいと思っています。
組合によると、カンパニー制の導入によって、クルマという商品軸での仕事の進め方に少しずつ変化があったという。
「まずやってみようとチャレンジするようになってきた」「より迅速な意思決定がされるようになってきた」といった声が紹介された。
一方で、車種やカンパニーをまたいだ共通部品をもつ職場からは、複数の車両カンパニーからの要望で板挟みになることもあり、最適解を見出すのに苦労している現状も吐露。
カンパニー同士の連携や、各車両が求める性能に対してどう折り合いをつけていくかといった改善点をあげた。
【商品・地域軸の経営】今こそ「町いちばん」を受け継ぐタイミング
地域軸については、販売・事業を担当する宮崎洋一 次期副社長が、「トヨタは事業を行うすべての国・地域において、皆さんから愛され、信頼される会社にならなくてはならない」という豊田社長の信念を紹介。
「体制変更に向かっている今こそ、こうした『町いちばん』の価値観を全員がしっかりと継承し、着実に行動・進化させていくことが大事」と強調。
あわせて、世間的な感覚・常識を持って「YOUの視点」で自問ができるようになっていかなければ、ステークホルダーの共感は得られないと続けた。
山本正裕 経理本部長は、豊田社長就任から13年間の実績を数字で解説した。
会社・山本 本部長
棒グラフが営業利益、折れ線グラフが販売台数です。真ん中下を見ると4610億円の赤字。これが豊田社長のスタートでした。
1996年からの13年間は、3480億円から赤字に転落する直前の2兆2703億円まで。こちらは台数の伸びと共に利益も伸びていった時代でした。
2009年以降、赤字の4610億円から直近の2兆9956億円までは、台数を見るとほぼ横ばいです。赤字になったときは、台数が891万台から757万へと15%減りました。
2021年(の落ち込み)はコロナが始まった時期です。896万から765万台。このときも実は同じ15%の台数減少でした。
ところが、減益でもしっかりと黒字をキープしました。台数の減少が同じなのに、なぜこうなったのか。
これがずっと豊田社長がこだわってきた損益分岐台数です。台数に頼るのではなく、収益構造の改善をすることで、赤字転落から約30%改善してきました。
もし、この収益構造の改善がなかったら、昨年は赤字だったということです。
豊田社長が就任以来、「もっといいクルマをつくろうよ」と引っ張って、商品力が向上したこと、TNGAを軸とした原価改善の効果などがこの数字に表れています。
もう一つの収益構造の変化が「地域別のバランス」です。2005年の3月期は北米一本足の構造がよく分かると思います。
ところが一番下は、アジア・中国・その他地域が大きくなって、非常に地域バランスがとれている。
これがまさに「地域軸の経営」であり、「町いちばん」を目指す各地域の頑張り。本当の意味でグローバルで事業をやっているトヨタの姿になっていると思います。
もう一つ最後に説明したいものがあります。
トヨタは自社のことだけを考えた経営ではなく、多くのステークホルダーに支えられて成長、分配しており、すべて大きく増えています。
すべてのステークホルダーとともに成長してきたことが、この実績からも分かると思います。
豊田社長が築いてきた競争力の源泉。だが、現在、組合員の約1/3は社長就任後に入社している。
組合は「今できていること(今の働き方)が当たり前だと感じているメンバーも少なくない」と危惧を表し、「組合としても誰ひとり取り残さないという思いで、商品軸、地域軸の土台をしっかり受け継いでいきたい」と決意を述べた。