自工会の新体制が発表された。各社リーダーが会見で語った「協調」という言葉。一体その狙いとは。
11月18日、日本自動車工業会(自工会)のオンライン記者会見が開かれた。内容は、2022年5月以降の役員体制について。会見の冒頭、さっそく永塚副会長から新体制について2つの発表があった。
永塚副会長
一点目は会長の人事でございます。豊田会長の任期を再延長し、次期会長として再任することとなりました。延長する任期は来年5月から2年間でございます。
二点目は副会長の人事でございます。現在の副会長であります、ホンダ、ヤマハ、いすゞの3社に加えまして、日産とスズキの2社にも新たに副会長をお引き受けいただくこととなりました。副会長の候補者は、ホンダの三部社長、日産の内田社長、いすゞの片山社長、スズキの鈴木社長、ヤマハの日髙社長、そして事務局の永塚でございます。以上が決定事項でございます。
この会見には、豊田章男会長、日髙祥博副会長(ヤマハ発動機社長)、片山正則副会長(いすゞ自動車社長)、永塚誠一副会長。そして来期より副会長となることが発表された本田技研工業の三部敏宏社長、日産自動車の内田誠社長、スズキの鈴木俊宏社長が登壇。
CASEの普及、さらにカーボンニュートラルへの対応など、自動車産業が大きな変革期に入った今、新体制には明確な狙いが込められているという。その真相とは。
オールジャパン、みんなで一緒にやっていく
新体制が発表された後、豊田会長からその狙いや、自身の会長任期延長への想いが語られた。
豊田会長
本日の理事会において来期の役員体制を決定いたしました。
この新体制の根幹にありますのは、「自動車産業はみんなで一緒にやっていく産業である」という想いです。私自身、この想いを胸に、自工会の組織改革や多くの危機対応に取り組んでまいりました。
昨年、コロナ危機に直面した時には「自動車が経済復興のけん引役になろう」と、550万人の仲間とともに頑張ってまいりました。日本の自動車産業の強みは、乗用車、商用車、軽自動車、二輪車、すべてのジャンルに優れた技術を持つ企業がいる「フルラインナップ」という点だと思います。
しかし、その中で、それぞれ固有の課題に直面しています。例えば、CASE普及のためには商用車から先行して技術を展開していくことが重要だと思われます。また、カーボンニュートラルを本気で実現するには、国民車として暮らしを支える軽自動車や、人々の多様な移動を支えている二輪車の対応が欠かせません。
いずれも、一社単独でできることには限りがございます。今は、みんなで「協調」しながら前に進んでいくことが大変重要な時代だと思っております。
「それぞれの分野を最もよく知る方々に、リーダーシップを発揮いただきたい」。そうした想いから、昨年、商用車代表として、いすゞの片山社長に。二輪代表として、ヤマハの日髙社長に副会長をお願いいたしました。
そして、今回、日産の内田社長、ホンダの三部社長に加えて、新たに軽の代表としてスズキの鈴木社長にも副会長をお引き受けいただきました。これにより、フルラインナップの自動車産業をみんなで発展させていく体制が整ったと思っております。
私自身の任期延長については要請をお受けするべきかどうか、最後まで悩みましたが、会員各社の皆様からは、カーボンニュートラルなど、大変革が必要な時だからこそ、同じリーダーのもとでやっていきたいというお声をいただきました。
私といたしましては、これまでの危機対応で得た私自身の経験が、この難局を乗り越えるためのお役に立つならば、と思い、お引き受けすることにいたしました。自動車産業の未来のために、日本の未来のために、私自身も全力で取り組んでまいります。
みんなで一緒にやっていく自動車産業を、今後とも応援いただきますようお願い申し上げます。
各副会長が語る「協調の意義」
続いて、副会長からそれぞれ意気込みが語られた。共通していたのは、協調して未来に進んでいくことの重要性であった。
日髙副会長(ヤマハ)
CASEやカーボンニュートラルといった大変革の時代に、日本の産業界全体で取り組まなければならない多くの課題に直面しております。
二輪車産業は、世界市場約6300万台の内、ジャパンブランドが約半数を占めているグローバルビジネスであり、自動車産業同様に世界でも競争力のある日本の産業のひとつです。
これを維持し、さらに直面している大きな課題に対しては二輪車産業の仲間はもとより、自動車産業の仲間とともに取り組み、これからも人々の多様な移動ニーズにお応えしつづけられるよう全力で取り組んでまいります。
片山副会長(いすゞ)
大型車メーカー4社は、生活を支える社会インフラの一部であるトラックやバスという商品を通じて、安全や環境などの社会的責任をしっかりと果たしていくために、「圧倒的な当事者意識」と「社会課題解決に向けた協調」の意識を持って議論を重ねてまいりました。
今後は新たな役員体制で、これまで以上に「ALL JAPAN」で力を合わせ、「更なる変革」を実現していく所存でございます。
三部次期副会長(ホンダ)
先ほど豊田会長から、「日本の自動車産業の強みは、各ジャンルで優れた技術を持つ企業がいる”フルラインナップ”というお話がありましたが、カーボンニュートラルについても、各社・各領域の強みや、研究・開発中の多様な技術・アプローチも総動員して対応しなければならない、まさに全方位、”フルラインナップ”で進めていくテーマであると考えております。
自動車会社のみならず自動車産業全体が主体者となり、それぞれの得意領域を活かしながら、2050年カーボンニュートラルという非常にチャレンジングな目標達成に向けて、スピード感を持って取り組んでまいります。
自工会変革を断行し、業界を大きくまとめる等、力強いリーダーシップを発揮いただいている豊田会長に継続していただくことに対しましては大変心強く思っております。またカーボンニュートラルをはじめとした大変革期を業界一丸となって乗り越えていこう、という自工会の想いに副会長として応えるべく、一緒に汗をかいてまいります。
内田次期副会長(日産)
日本の自動車産業の強みは、新しい価値を生み出す斬新な発想力と、それを実現する高い技術力だと思っております。そして、各社がそれぞれの個性を生かし、互いに切磋琢磨しながら、これまで成長と発展を遂げてきました。
一方、私たちを取り巻く事業環境はこれから大きく変化しています。こうした時代においては、それぞれが引き続き自社の力を磨くとともに、共通の課題に関しては会社の垣根を超えてともに立ち向かっていく、この姿勢が大変重要だと考えています。
私は皆さんと一緒に、日本の自動車産業をともに盛り上げ、世界における日本の存在感を高めていくお手伝いを是非ともさせていただきたいと考えておりますので、これからどうぞよろしくお願いします。
鈴木次期副会長(スズキ)
就任にあたって、軽自動車のカテゴリーからこの副会長職を選んでくださったことは、この国における軽自動車に対する期待の高さの表れだと非常にうれしく思うとともに、大変な責任を感じております。
国民車である軽自動車は、人々の日々の暮らしを支えるだけではなく、ラストワンマイルを支えるモビリティとして、カーボンニュートラルへの貢献が期待されております。カーボンニュートラルの実現に向かって、車両だけでなくインフラ整備も含めた提言と行動をおこすべく、自工会の皆様と一丸となって取り組んで参りたいと思います。
包み隠さず明かされる、新体制決定の裏側
この後、記者からの質疑応答へ。どのような議論を経て今回の体制になったのかが質問された。
片山副会長
まず自動車工業会が直面している、それから会員各社が直面している課題が、明らかに、今、変わってきているということでございます。この課題にいかに取り組むかということを考えたときに、会員各社の皆様方のご意見が1つにまとまって、豊田会長には続投をぜひお願いしたいということ。
それから大型車、軽自動車、二輪車といった体制、それに加えての日産さん、ホンダさんという形が、我々が今から解決していく、行動していかなければいけない課題に対しての議論の結果であったと思っております。
この回答後、日髙副会長からこのような話も明かされた。
日髙副会長
日髙の方からも若干付け加えさせていただきますと、今、直面しているカーボンニュートラル、それからCASE、こういった課題は非常にハードルが高い課題で、しかもある意味それぞれの国・地域が政策的に自分たちに有利になるようないろいろなポリティクスが動いている。
そういう中にあって、いま競争力のある(自動車)産業をいかに維持していくかを考えたときに、本当に個社でバラバラとやっていたのでは、おそらくヨーロッパからの流れ、いろいろなものも含めて太刀打ちできない。協調領域を明確にしながら、日本自動車工業会が本当に「チーム」として取り組んでいけるかどうかが問われる局面でございました。
豊田会長はそれに関して、自工会って、所詮、呉越同舟の組織なのか。それとも本当に協調領域を明確にした上で、1つのチームとして戦っていけるのか。(各社が)いろいろなお考えがあるなかで、実は今日入っていらっしゃる会長、副会長が、事前に集まり、本当にみんなでチームとしてやっていけるのかという話し合いが持たれております。
その中で、会長と副会長7名のみなさんが、協調領域を日の丸で闘っていこうという決意をきちっと固めた上で、今日の記者会見に臨んでいるということは、付け加えさせていただきたいと思います。
なんと、事前にどのような話し合いが行われていたのか、包み隠さず明かされたのだ。オールジャパンのワンチームとして進んでいく各社の強固な意志が表れる印象的なシーンであった。
具体的になにが変わるか
続いて、新体制になることで具体的にどう変わっていくのか、副会長から語られた。
内田次期副会長
日本には非常に優れた技術があると思っています。ただ、それを事業・形にするという面では、少しスピード感が足りないところがあったと感じております。
これを機に、やはり事業にして、日本がさらに競争力をつけていく。ここを是非、皆さんと一緒にやっていくことが非常に重要だと思います。カーボンニュートラルに向けた各国のスピードはまったく違います。いかに日本の事業ならびに産業を強くするかということが急務になっていると思っておりますので、新たな体制でいろいろな意見を交換させていただきながら、力をつけていくことにご協力したいです。
新体制で課題解決へのスピードが高まることで、日本の産業を強くできるとのコメントである。またこれとは別に、三部次期副会長は「カーボンニュートラルは、クルマやバイクにとどまらず、都市のスマート化など社会構造全体を変えることで達成できる」と語る。つまり、自動車産業が旧来の領域にとらわれず新たな領域に取り組める絶好のチャンスであることを示したのだ。
一方、軽の鈴木次期副会長は「“小さく軽く“という(軽自動車の)特色は今後の社会においても必要。これからは使用用途によってお客様が賢くモビリティを選び使い分ける時代」と話し、協調により、日本の暮らしを支える軽自動車の利便性をさらに極めることが期待できるという。
これらの声を聞くと、自動車業界の大変革期はネガティブなものではなく、各社協調することで、「変革期」をさらなる「成長期」に変えることができるのだと気づかされる。
今回の会見は、各社のトップが、チームとして協調するメリットを、次々と明確に語ったのがとても印象的であった。これはまさに、自動車産業が難局に立ち向かうために、より強固な一枚岩になった証なのかもしれない。
会見の模様は自工会のYouTubeチャンネルで動画でも見ることができる。また後編では、自動車産業の日本経済に与える影響について語られた内容を紹介する。