トヨタイムズ

日本のカーボンニュートラルを考える 自工会・豊田会長が語った事実

TOYOTA NEWS 2021.01.08 UPDATE

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「トヨタ社長」「脱ガソリン」「電気自動車」――。2020年1218日、Twitterでトレンド入りしたこれらの言葉は、ある会に端を発していた。

その前日、日本自動車工業会(自工会)は報道関係者とのオンライン懇談会を行い、豊田章男会長は記者の質問に答えていた。

30分にわたる質疑では、そのほとんどの時間が「カーボンニュートラル」や「電動化」の話題に割かれた。

2カ月ほど前、政府は、2050年にカーボンニュートラルの実現を目指す方針を示した。その後、「2030年代にガソリン車の新車販売を禁止する方向で調整に入った」という報道が流れたこともあり、このテーマの関心はさらに高まっていた。

そのような中で、自動車産業代表の発言は大きくメディアにも取り上げられ、それに呼応して、SNSでも多くの人が議論を繰り広げるようになっていった。

トヨタイムズでは、その発端となった懇談会の内容を詳しく紹介しておきたい。

まったく知られていない自動車業界の環境貢献

昨年11月、イギリス政府は2030年までにガソリン車やディーゼル車の新車販売を禁止する計画を発表した。

12月に入ると、東京都も同様の方針を示すなど、自動車メーカーには逆風が吹いているかのように見える。

最初に記者から投げかけられたのは、こういった国内外で広がる規制の受け止めについての質問だった。

豊田会長は、日本の自動車産業がこれまで環境問題に対して果たしてきた貢献を具体的な数値で説明しながら、記者の質問に答えた。

菅総理がこのタイミングでカーボンニュートラルを政策の柱に立てられたのは、この国を母国として働く我々自動車業界にとって大変ありがたいことだと思っています。

今朝の理事会では、自工会として2050年にカーボンニュートラルを目指す方針に貢献するため、全力でチャレンジすることを決定しました。

ただ、画期的な技術ブレークスルーなしに達成は見通せず、サプライチェーン全体で取り組まなければ、国際競争力を失うおそれがあります。

大変難しいチャレンジであり、ヨーロッパ、アメリカ、中国と同様の政策的、財政的支援を要請したいと思います。

自動車業界は2001年度に2.3億トンだったCO2排出量を2018年度には1.8億トンと22%削減しています。平均燃費も2001年度はJC08モードで13.2/ℓだったのが、2018年度は22.6/ℓ71%向上しています。

次世代車の比率も2008年度は%だったのが、2019年度は39%。電動化比率は世界第位の35%(2019年)です。位はノルウェーの68%ですが、絶対台数ではノルウェーの10万台に対し、日本は150万台です。

工場のCO2排出量は1990年度の990万トンから、2018年度は631万トンと36%削減しています。(このように)自動車会社は努力をしており、データ上も結果が出ています。

*ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、クリーンディーゼル車

日本でクルマをつくれない未来!?

自動車産業が排出するCO2について考えるとき、一番わかりやすく、イメージしやすいのは、クルマが走っているときに出すCO2だろう。

しかし、CO2はクルマをつくる過程でも出る。例えば、工場で設備を動かすために必要となる電気も、その発電を化石燃料に頼ればCO2は排出される。クルマを廃棄するときも同様である。

2050年に向けた国家の一大プロジェクトへの全面協力を業界として誓った豊田会長だが、そこには、自動車業界だけでは到底解決できない、構造的な課題があることも示した。

2050年のカーボンニュートラルは、国家のエネルギー政策の大変革なしに達成は難しいということを是非ご理解いただきたいと思います。

例えば、日本では火力発電が77%、再エネや原子力が23%です。フランスは原子力中心になりますが、89%が再エネと原子力で、火力は11%くらいです。

このように電気をつくっている事情を踏まえてカーボンニュートラルを考えた場合、トヨタのヤリスは東北でつくるより、フランス工場でつくる方が良いということになります。そうすると、日本でこのクルマはつくれなくなってしまう。

これは国のエネルギー政策そのものであり、ここに手を打たないと、この国ではモノづくりを残し、雇用を増やして、税金を納めるという自動車業界の現在のビジネスモデルが崩壊してしまうおそれがあります。

今年コロナ禍において、就業者数が日本全体で93万人減っています。しかしながら、自動車業界は11万人(10月、前年比)増やしています

もし仮に、日本でつくっているクルマはCO2の排出が多いためつくれなくなるということが起きれば、コロナ禍で増やしてきた雇用が下手をしたらゼロになってしまう。

これは本当にこの国にとって良いことなのか。自動車産業はギリギリのところに立たされておりますので、是非とも正しい情報開示をよろしくお願いしたいと思います。

すべてがEVに変わったら…

HV、PHVEVFCVなど、動力源に電気を使うこれらのクルマのことを「電動車」と呼ぶ。

しかし、それがニュースで扱われるときには、「電動車=EV」と単純化された構図で伝えられることが少なくない。

また、電動車にはさまざまな選択肢があるにも関わらず、最後はすべてがEVになると理解されている実態もある。

その単純化された認識を正そうと、豊田会長はある試算を紹介した。

(編集部注:国内に6,000万台ある保有を)全部EVに置き換えた場合、夏の電力使用がピークのときには、電力不足に陥ります解消には発電能力を+1015にしなければなりません。これは、原発で+10基、火力発電で+20基の規模に相当します

それから、保有を全てEVにした場合、10年インフラの投資コストは約1437兆円かかります。自宅のアンペア増設は一個当たり1020万円、集合住宅の場合は50150 万円になります。

急速充電器の場合は平均 600万円の費用がかかるので、約1437兆円の充電インフラコストがかかるというのが実態です。

生産で生じる課題としては、(編集部注:国内の乗用車の年間販売台数に相当する400万台がEVに置き換わると)電池の供給能力が今の約30倍以上必要になります。能増コストとして約兆円

それからEV生産の完成検査時には充放電をしなければならず、現在EV一台の蓄電量は家一軒の一週間分の電力に相当します。

50万台の工場とすると、日当たり5,000分の電気を充放電することになる。火力発電でCO2をたくさん出し、各家庭で使う日当たり5,000軒分の電力が単に(検査で)充放電される。

そのことを分かって政治家の皆さんがガソリン車をなくそうと言っているのか。是非、正しくご理解いただきたいと思っています。

日本の生きる道

世界各地でエンジン車規制の動きが広がる中でも、日本には、他国と単純比較できない独特の要素が一つある。

そのひとつが、軽自動車である。排気量を抑え、車体が小さく、軽量な軽自動車には、バッテリーを積まなくても、高い燃費性能を誇る車両がいくつもある。何より一般の乗用車に比べて価格が安い。

続く記者からの質問は、国内の新車販売で4割近くを占め、地方では移動に不可欠となっている軽自動車の電動化についての考えを問うものだった。

例えば、軽自動車中心のダイハツは、現在、電動化率が非常に低いです。ところが軽は日本の国民車です。軽しか走れない、相互通行できない道が日本には85%あります

都会では軽がなくても生活ができるかもしれませんが、地方では完全なライフラインになっております。

CASEの時代、電動化でさまざまなルールがある中でも、軽、そしてお客様の存在を自動車業界の我々が忘れてしまってはいけないと思います。

皆様方にお願いしたいのですが、ガソリン車さえなくせばいいという報道をされると、理解が少ない方々は、それがカーボンニュートラルに近道だと思ってしまいます。

HV、PHVEV FCVというミックスの中で、日本の良さを維持・発展させながら進んでいくことが日本の生きる道だと思いますので、応援をいただきたいと思います。

何度も繰り返した「お願い」

この日、豊田会長は記者の質問に対して、さまざまな試算を用いるなど具体的な数値で解説した。そして、回答の最後には毎回、「ご理解いただきたい」「お願いしたい」と訴えた。

そこには、誤った認識で伝わる報道が、世間の誤解を招き、その世論に押される形で、合理的でない規制が生まれかねないという強い危機感があったからだ。

誤解が広まっている中、正しい理解を促進するためのアクションについて聞かれた豊田会長は、報道に対する想いを語った。

私がこういうことを言うと批判の対象になるかもしれませんが、対立をベースとした議論をやめていただきたい

民主主義の名のもとに、穿った見方を少数意見と称してそれを取り上げ、正しい意見との対立軸でやるとこうなってしまうのではないかと思います。

私は、世論というものは、自由に意見を言っていただいて、本当のサイレントマジョリティが取捨選択し、正しいと思ったものを選ぶということででき上がるものだと思っています。

自動車業界がやるべきこと

これまでも自動車業界は、たびたびにわたって厳しい環境対応を乗り越えてきた。しかし、業界の主張がいつも受け入れられるわけではない。

この日最後の質問は、自工会の会長として、業界の声を届けるためにやれることは何かを問う質問だった。

今回のカーボンニュートラルに対しても、国のエネルギー政策の大変革が必要だと認識しつつも、我々、自動車業界は積極的にチャレンジしていくことを決議しております。

難しいものについても、それが安全で、環境にいいものであれば、積極的に取り組み続けるのが日本の企業です。

そして、「ユーザー目線」は忘れてはいけないと思います。どんなに素晴らしいスペックであっても、一般の方の手に届かない高嶺の花にするということは、量産をベースにしている自動車業界として、やってはいけないことだと思います。

自動運転であれば、目的を安全第一、交通事故死をゼロにする。そして、電動化ならCO2の排出を削減し、温暖化を防止する。もっといい方向にもっていくことをぶれない軸にする。

微力ではありますが、ユーザー目線で、いろんな場で指摘を行い、議論していくことは皆さまの前でお約束したいと思っています。

懇談会の30分間、自動車業界550万人の代表である豊田会長の熱が冷めることはなかった。

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