液体水素を燃料とするGRカローラが24時間レースを完走した。開発が始まって1年半。世界初の挑戦はいかにして成し遂げられたのか? 現場に密着した編集部がその軌跡をレポートする。
トヨタ自動車の開発した液体水素車が、5月28日、ENEOS スーパー耐久シリーズ(S耐)2023 第2戦 NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レースを完走した。
液体水素を燃料とするクルマがレースに出ること自体、世界初の挑戦。デビュー戦が最も過酷な24時間レースとなったが、富士スピードウェイ(静岡県小山町)を358周。1,634kmを走り抜いた。
着手からわずか1年半という超スピード開発。その挑戦は、一日たりとも「万全」と言える日がない試行錯誤の連続だった。
開発現場に密着した編集部が、その軌跡をレポートする。
「今始めないと未来は変わらない」
「まだ実際に走らせられてはおらず、道のりは長い。それでも、メンバーたちは『今始めないと未来は変わっていかない』という意気込みで頑張っています」
さかのぼること1年。2022年6月のS耐富士24時間レースで、GR車両開発部の高橋智也部長(現GAZOO Racingカンパニープレジデント)は、年初に始まった液体水素車の開発状況をこう説明した。
気体水素を燃料にする車両がレースに参戦してわずか1年。脱炭素に向けたトヨタのモータースポーツの現場での挑戦は、既に次の一歩を踏み出していた。
液体水素を使う一番のメリットは航続距離にある。
エネルギー密度(体積当たりのエネルギー量)が約1.7倍になるので、それだけ、長い距離を走ることができる。
さらに、気体水素のように高い圧力をかける必要がなくなるため、タンクの形状が自由にでき * 、後部座席のスペース確保が見込まれる。
*高い圧力がかかる場合、タンクの形状は力を均等に分散できる“円筒形”に限定されてしまう
一方で、その難しさは、水素が液化する-253℃という極低温をいかにコントロールするか。
エンジンこそ、そのまま使えるものの、タンクは液体で入れた水素を液体のまま保てる保温性能に優れたものを専用開発しなければならない。
加えて、燃料を送り出す昇圧ポンプ、温めて気体にする気化器、ドライバーのアクセル操作に応じて水素を供給する圧力チャンバーなど、新たな部品が必要になる。
一からの開発が必要で、まだまだ形になっていない部品だらけの中、開発陣はいわゆる“モック(模型)”レベルの液体水素システムを報道陣に公開した。
開発実務を任された山本亮介主任(GR車両開発部)は、その理由をこう語っていた。
「すでに多くの仕入先の皆さまにご協力いただいています。ですが、もっと仲間づくりを進めて、技術を一緒に昇華させ、モノにしていきたい。これをきっかけに多くの方々に手を挙げてもらえるといいなと思っています」